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恋をしたのは・4・






-------・・夢を見た。






その夢の中で、



カスミちゃんが1人で泣いていた。



何があったの、そう聞こうとして近づいたら



『どうか、あたしのことは忘れて・・・』



そう言って、目の前から消えた。













あの日。
カスミちゃんと初めてデートをした日から、俺はモヤモヤした気持ちのまま毎日を過ごしていた。



水族館にも行ってデートは楽しかったはずなのに、俺の気持ちはずっと沈んでいて、今でもあの後どんなことを話して、どうやって帰ったか記憶が曖昧でハッキリと思い出せない。




(結局、ちゃんと聞けなかったなぁ・・・。)




・・・というか、聞けるはずがなかった。


あんな顔をしたカスミちゃんに、それ以上聞くのが怖かったからだ。



カスミちゃんが他の男とも会っていて、しかも俺の知っている場所でその誰かと過ごしたことがあるということがハッキリして、あまりにも衝撃がでかくて、そして、





(・・カスミちゃん、そいつのこと好きなのかな・・。)





あの時のカスミちゃんは、そいつが大事な存在なのだと、表情や声が物語っていた。





「ハァ・・・」



携帯を見ても、相変わらずカスミちゃんからの連絡はない。



いつもなら気にならないはずなのに、俺ばっかりが不安で振り回されているような気がして、理不尽な苛立ちさえ覚える。



そんな日々募る苛立ちをぶつけるところなんてなくて、自嘲とも言える笑みがこぼれた。




(・・俺には苛立つ資格なんてないんだよな。)




だって、カスミちゃんは最初から言っていた。



他にもそういう関係の人がいると。



特定の人は作らないと。



あたしに気持ちは求めないで、と。



それを分かった上でカスミちゃんの側にいることを選んだ俺に、カスミちゃんを責める資格なんてどこにもない。




・・・そう、分かっているはずだったんだ。




(分かっているつもりでいたけど、甘かったなぁ・・・。)



正直頭の隅では、カスミちゃんは俺のことが好きなんじゃないかと思っていた。



なぜか認めないだけで、俺のことを好きなんだと、かすかな希望にも似た確信を持っていたんだけれど。




・・・もう、よく分からない。




だからといって、本気になってしまった以上、彼女を諦めることなんて出来るわけがない。



・・・だけど、





『サトシ君』



『っん・・はぁっ・・サトシ、君っ・・も、っと・・』



『だって、デートなんでしょ?』



『こちらこそ。』





カスミちゃんのあんな笑顔や、ベッドの上で見せる蕩けた顔を、他の奴も見ているのかと思うと・・・





「っくっそー!!そんなの絶対に嫌だーー!!!」



「ど、どうしたの!?サトシ君!!」



どうしたらいいんだ、と思わず頭を抱えて叫んだ俺に、テレビ出演のために準備をしていた周りのスタッフの人たちが駆け寄ってきた。



「あっ、すいません!何でもないですっ!」



へへへ、と眉を下げて慌てて取り繕った笑顔を見せる俺に、全員がまだ心配そうな眼差しを向けてくる。



「サトシ君、疲れてるなら今日はやめておいてもいいんだよ?上の人に掛け合えば、後日撮り直すって言ってくれるかもしれないし。」



「いつもポケモンリーグの中継で見ていた時と違って元気なさそうなので心配してたんですよ。何かあれば、何でもお伺いしますが・・」



「あ、いや、あの大丈夫です!!本当に何でもないんで!」


「けど・・・」




(あぁ〜、参ったなぁ・・。)




心配させてしまって申し訳無いが、好きな人のことで悩んでるなんて言えないし、俺の悩みは今ここで話せる内容では無い。



変な噂にもなりかねないし、やすやすと打ち明けるわけにはいかない。



芸能界にも似たこの業界は、そういうところが本当に厄介だ。



全然何でもなさそうな俺の様子を案ずるみんなの視線を、どうやって切り抜けようかと思案していた時、



「あ、サトシの奴、ちょっと緊張してるだけなんで大丈夫ですよ。テレビ出演久しぶりなんで。な、サトシ。」



「えっ?あ、そうそう!そうなんですよ!バトルは得意だから緊張しないんですけど、テレビに出るのは苦手で。」



「ん?バトルは得意なんじゃなくて好きなだけだろ?それにバトルの前もお前いつも緊張して足が震えるって前に・・」



「うるっせぇよ!タケシ!それは武者震いだ!!」




助け船になってくれたタケシとの掛け合いに、周りも安心したように笑ってくれて、
「なんだ。緊張しなくても大丈夫ですよ。ファンはそのままのサトシ君が見たいんですから。」と言って、「そうですか?そうだといいなー。アハハ」と笑う俺を見て安心して、自分の仕事に戻っていった。




「ふぅー、助かったよタケシ。ありがとな。」



「いいさ。お前が不器用なのはいつものことだしな。」



「一言多いっつの。でも本当、いつも悪いな。」



「いいって。それよりも、お前ここのところ本当に様子が変だぞ。なんかあったか?」



「あぁ〜まぁ、な・・。」



言葉を濁した俺に、タケシが眉を寄せて首をかしげた。



「お前らしくないな。なんかあるんなら今の内に言ってくれよ?悩めば悩むほど、お前はバトルにもろに影響が出るんだからな。」



「うるさいな、分かってるよっ。」



「分かってるなら言えよ。そんなにすぐ苛立つってことは、感情が抑えられないくらい余裕がない証拠だろ。それとも、俺には話せない悩みか?」



ぐっと言葉に詰まる俺に、タケシが少しハッとしたように俺の顔を覗き込んだ。



「・・・ひょっとして、恋愛の悩みか?」



「なっ!なんで分かるんだよ!?」




しまった!と思わず口を押さえた。



いきなり核心を突かれて吐露してしまった俺に、タケシが訝しげな顔を見せた。



「名前は?」


「え?」


「彼女の名前は?」


「な、なんでそんなこと言わなきゃなんないんだよ!」


「俺はお前の広報担当だぞ?知っておくのは当然だろ?・・・・と言いたいところだが、その前にお前は大事な友達だから、もし可能ならお前の悩みを解決してやりたいと思ってるんだけど、どうだ?名前くらい教えてくれてもいいだろ。」


「・・・・」




たしかにタケシは昔からの仲間で、この業界に馴染んではいても、昔から変わらないでいてくれる信頼できる友達だ。



昔から見ている限り、恋愛において相談相手になるのかは分からないけど・・。



タケシなら相談してもいいかな。




「・・・だ、誰にも言うなよ?」


「あぁ。」


「名前は----・・・カスミちゃん。」





----思えばそれが、



俺にとっての分岐点となったんだと思う。





誰かにそれを話すことで、この恋が“終わり”へと向けて走り出すことになるなんて




彼女の名前を口にした瞬間、タケシが顔を歪めたことに気付かなかった俺は、知る由もなかったけど。




--------




「・・・ていう、ことなんだけど。」




テレビ出演を終えて、用意された部屋でタケシと2人だけにしてもらった。




タケシにカスミちゃんとのことをつらつらと話し続けてどれくらい経ったんだろう。




とうにだいたいのスタッフはスタジオを出ている頃だろう。




おおよその内容を話し切った俺は、照れ臭さからタケシの顔を見ることが出来ずに床を見ていた。




「そうか。そんなことになっていたのか・・。」



「・・悪かったな、今まで隠してて。」



「サトシ・・・」



「ん?」



「・・・サトシお前、いつからそんな爛れた性生活を送るような子に・・!」



「ちょっ!爛れたって言うな!!」




お兄さんは悲しいよ!とおいおい泣いたフリをするタケシに突っかかりながら、少し気が楽になっている自分に気がついていた。




(・・そうか。俺、誰かに聞いて欲しかったんだな。)




タケシとじゃれ合いながら、ふと笑みがこぼれた俺は、椅子にもたれて大きく息を吐いた。




スッキリして、やっと決心がついた。




「なぁタケシ。
俺、一か八かの勝負に出ようかと思ってるんだけど。」



「え?」



顔を上げたタケシに、ニッと笑って見せた。



「今からカスミちゃんの家に行って、本当のことを聞こうかなって。」



タケシが眉をピクッと震わせた。



「それは・・・」



「いや、なんかさ、このままいてもモヤモヤしたままだし。
こうなった今でも、俺全然彼女を諦められそうにないんだよ。」



「・・・」



「心配してくれる気持ちは分かるんだけど、俺もう一度ちゃんとカスミちゃんに告白して、彼女の気持ちをちゃんと聞きたいんだ。だから----・・」



「やめとけ。」



タケシがいつになく低い声を出したから、俺は少し驚いてキョトンとしてしまった。



「へ?」



「このまま彼女と関係を続けたいなら、本心は聞かない方がいい。」



「え?で、でも・・」



「それがお前の、いや・・・彼女の為でもあると思う。」



「・・なんでだよ?」



「サトシ、知らない方がいいことだってあるんだ。
彼女もきっと悩んでるんだよ。
だから今追求したところで、結局は彼女を苦しめるだけだ。」



「そ、そんなつもりは・・・・で、でも俺っ」



「自分だけが苦しんでると思うな。
お前は・・はじめての恋だから舞い上がって空回りしてるだけだ。少し頭を冷やせ、サトシ。」




----・・・空回りしてる?



----・・・頭を冷やせ、だって?




カッとなった俺は、ダンっとテーブルを叩いて立ち上がった。




「タケシにカスミちゃんの何が分かるっていうんだよ!!カスミちゃんのこと何も知らないくせに!!」



「何も知らないのはお前だろ!!」



タケシがハッとした顔で、口を噤んだ。



「・・・それ、どういう意味だよ?」




タケシが目を泳がせる。


なんで、タケシが・・・




「タケシ、カスミちゃんのこと知ってるのか・・・?」




彼女のことを知ってるような、口振りをするんだ・・・?



「なぁ!どうなんだよ!?」



胸ぐらをつかんで詰め寄った俺に、タケシが顔を歪める。



「サトシ・・・何も聞くな。彼女の側にいたければ、何も知らないフリをしていろ。
このことは忘れるんだ。」




ズキン、と突然頭が痛んだ。




「い、て・・・」




今までもは比べ物にならないくらいの頭痛に頭を押さえた。




「サトシ!大丈夫か!?」




もう、わけわかんねぇよ・・。




「おい!!サトシ!!」




身体を支えようとしてくれたタケシの手を振り切って、俺は走って部屋を出た。





------・・カスミちゃん、君は一体何を隠してるの?




『サトシ君』




------・・その切ない笑顔の下で、何を考えているの?




混乱した頭で走りながらも、頭に浮かぶのは君のことだけ。



もう何を隠していたっていい。



今すぐ、会いたい。



どんなことだって受け止めるから、どうか真実を教えて。





俺の足は、真っ直ぐにカスミちゃんの家に向かっていた。







to be continued





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あきゅろす。
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