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掌の中2







あの夜、







『サト・・シ・・サトシ・・っ・・・』


『・・まだ・・まだ・・・あたし・・の・・』





“ ・・・まだあたしのこと、好き? ”





実は枯れるほど泣いたと言ったら、





『・・・・ねぇ、サトシー・・・?』


『あたしたち、友達にもどろっか・・・・』





アンタはどんな顔をするのかな。













「さむ・・・」




ハァ、と冷えた手のひらに息をかけて温める。



もう6月だっていうのに、雨が降った朝は肌寒い。





・・・それにしても、懐かしい夢を見たなぁ。



あれはサトシと別れた日だ。



もう何年も経つのに、鮮明に思い出してしまった。





「・・きっと、あんなバトルを見たせいね。」





サトシが、シゲルに負けた数日前のポケモンリーグ戦。



試合終盤、昔みたいに無防備なほど真剣にバトルを挑む姿に感動さえして、



フィールド上に、憧れ続けたあの頃の姿を見た気がした。





――・・多分、アイツはまた走り出すんだろう。





昔のように、ただ真っ直ぐ、未来に向かって。





“あぁ、少しずつ元に戻っているんだ・・”



とテレビの前でそんな実感が沸いた直後、




『だからっ、私の方が前から好きだったんだからね!サトシのこと!』



『ぶっ。ははっ、なんだじゃあ両想いか』




“戻らないもの”のことをふと思った。




「女々しいなぁ・・あたし。」




自分から捨てた“ 特別 ”を、今更惜しんだりして。



アイツの手を放したのは、あたしなのに。




「・・あーっやめやめ!今日のバトルに集中しなきゃ。」




今日は水中戦のバトルをする予定なんだから。



あたしが考えた、新しいバトル戦のやり方を試すんだ。



そう思った瞬間、胸が躍るのを感じて口角が上がった。



・・・最近あたしは、水中ショーよりもジム戦に集中している。



もっと強くなって、あたしの愛しい水ポケモンたちと一緒に水ポケモンマスターになるために、毎日いろんな戦法を考えたり、練習したり、日々本気で取り組んでいる。



そう思えるようになったのは、サトシと別れてから水中ショーで各地を回っていた時だった。



そこで出会ったトレーナー達に仕掛けられてバトルをして、負けと勝ちを繰り返す内に、時に意見をぶつけ合ったりするようになり、気づいたら、昔確かに自分の中にあった“熱さ”を取り戻していた。



もう失ったと思っていたのに、あたしの心の奥底には、まだあの頃の夢が残っていたらしい。




あの頃のあたしが描いた夢は、まだ生きていたんだ。




それに気づいたあたしは、全てのショーをやり遂げてからすぐさまジムでのバトル戦法を練り直し、自分のバトルも磨いてはまた考えて、常にどんな相手であろうが真剣にバトルをしてきた。



今度こそ必ず夢を叶える、そう心に決めたから。




「・・目指してるのはもっと上なんだから・・。こんなところで怠けていられないわよね。」




今はただ、自分を生きるだけ。



もう二度と見失ったりはしない。






*****






「・・疲れた・・・」



リビングに入るや否やソファに沈むように倒れ込んだ。



今日のバトル対戦者は強かった。



なんとか勝てたけど、あんなに追い込まれるなんてあたしもまだまだね。



でも、これだからバトルは楽しいのよね。



・・・大丈夫。あたしも前に進めてる。



昨夜の夢がどうも頭から離れなくて、少し感情的にになっていた自分に言い聞かせた。



そんなことより、そろそろ洗濯しなきゃ。
お腹も空いたし。



それに明日もまた朝から対戦者がいたはず。



「・・よし、起きよっと。あ。」



むくっと起き上がった拍子にリモコンに手が当たり、テレビがついた。




『以上ポケモンリーグからの中継でした!スタジオにお返しします!』




ポケモンリーグの言葉にピクリと反応してテレビを見てしまった。



が、もう中継は終わってしまったらしい。



何の放送だったんだろうと思いながら、テレビを消そうとした時。



『サトシ選手、熱愛相手のセレナさんのことは何も語らなかったようですね。今はシゲル選手とのリベンジマッチに集中するという捉え方で――・・・』



リモコンを持つ手が固まった。



頭の中で、何度も今聴こえて来たフレーズが繰り返す。



・・・覚悟はしてた。

いつかこの日がくること。



とは言っても、思っていた以上にダメージを受けた自分がいて少し戸惑った。



だけどすぐに目を閉じて、口元に自嘲的な笑みを浮かべた。



・・これはあたしが選んだ未来。

けどもうあの頃とは違う。

1人でも歩ける。

だから、大丈夫。これでいい。



リモコンを持ち上げて、あたしはテレビを消した。



「さ、まずはご飯ご飯。」



そのままキッチンへ向かい、立ち止まらなかった。



あの日、旅立つサトシに背を向けて去った時のように。




―――その2ヶ月後、ポケモンリーグの関係者の人から声がかかり、



あたしはポケモンリーグに挑むこととなった。



聞かされた対戦相手は、サトシだった。



to be continued

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