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冬に咲く桜end





「さて、と。やるか・・・」






これで全部、終わりにする。














カスミ、元気か?この前はごめん。






「ハァ・・」




ため息をついて、今打ったばかりの文字を消す。




たったこれだけの文字を打つのに2時間もかかったのに、どうしてもその先の勇気が出ない。




もう何度送信しようと意気込んで、何度メールを消したか分からなくなる。




こんなことをもうずっと繰り返して、最後に会った日から一週間、1ヶ月、2ヶ月とどんとん時間だけが過ぎ、気づけばもう外には早桜が咲き始めていた。




カスミからはあの日から全く連絡がないままだ。




旅に出ていた頃の方が連絡を取らない時間なんて当たり前にあったけど、今の状況とはまるで訳が違う。




カスミと俺を繋いでいるものが、何もなくなってしまった。






「本当に、友達以下になっちゃったな・・。」






俺が一番恐れていた時がこんなにも呆気なくやってくるとは。




そしてこんなにも心にぽっかりと穴が空いた感覚は生まれて初めてだ。




だけど、ちょっとずつ時間が過ぎてく内に、あの時はもう俺も限界だったんだろうと嫌でも理解し始め、きっと遅かれ早かれこうなってたんだと今では思う。




たぶん最初から、良い友達のふりをするなんて俺には無理があったんだ。




ということは・・
俺たちは最初から、一緒にはいられない運命だったってことか・・。




そう思うとズーンと気分が落ちる。




俺らしくもないと、俺はブンブンと頭を振った。




・・そろそろ、この気持ちにも決着をつけなきゃいけないよな。





「・・・よし、決めた。
さーて、まずは片付けからやるか。」





俺は明日から一人暮らしをする。




マサラタウンを離れて、ポケモンリーグの近くに家を借りることになっていた。




せっかくの門出なのに晴れやかな気持ちはなく、ダラダラと準備を先延ばしにしていたら、気づけばもう前日になっていた。




今までの思い出を全部しまって、置いていくものは置いていく。




この片付けが終わったら、カスミに電話しよう。




そして、しっかりとフラれたらこの気持ちをここに置いていく。




そう決めて、俺は自分の部屋へと向かった。





――――――




「これで全部か・・。」




もっと多くなると思ってたのに、ダンボール3つ分に全て収まった。



まぁ・・旅に出ていて部屋はほとんど使ってなかったんだから当たり前か。



飯も食ったし、やることは終わった。






後はカスミに電話をするだけだ。






ガランとした部屋の中に座り込み、携帯でカスミの名前を探す。



その名前を見ただけで少し緊張した。



でもやるなら、もう今日しかないよな。




「ふぅ・・・」



俺は小さく息を吐き、発信ボタンを押そうとしたその時。




「・・え」




画面が変わり、着信中の文字とともに表示されたのはカスミの名前。




なんで?どうして?と頭が一瞬パニックになったが、カスミが掛けてきた理由がなんとなく分かる気がして、すぐに落ち着いた。




たぶん、カスミは俺の気持ちにもう気付いてる。



その上で、また友達に戻れないかと道を探してくれるつもりなんじゃないだろうかと。



俺ももしカスミの立場だったらそうしたと思うから。



・・・でも、悪い。





「そういうわけにはいかないんだよ・・」





こんなに好きだと気付いてしまった以上、もう今までには戻れないんだ。




俺は意を決して、通話ボタンを押した。





「カスミか・・?」



『・・久しぶり』



「うん。久しぶりだなカスミ・・・」





少し声を聞けただけで切なくなる。




「元気、だったか?」



『うん・・。サトシは?』



「俺は・・」




口元に自嘲じみた笑みが浮かんだ。




「元気じゃ、なかった。
・・・カスミと、もう口もきけないかと思ってたから。」





女々しいことを言ってるのは分かるけど、もう嘘はつきたくない。





『・・・・』




何も言わないところを見ると、俺の気持ちはもう分かってるんだと思った。





やっぱり、気付いてたんだな・・。




何も言わない電話口からは外の風のような音が聞こえてくる。



もしかして、今からデートなのか。





でも頼む・・・


せめて今は、俺のことだけ考えてほしい。





「考えてたんだけど、どう言や伝わる?
バトルを見て欲しいのも、一番応援してほしいのも、自然と考えてしまうのも、会えると特別に嬉しくなるのも、全部お前なんだよ。」




今だけは俺のことだけでいっぱいになってほしいと願ってしまう。




声を聞いた途端、そんな奴より俺を選んでほしいと願ってしまう。




こんなの・・・・





「こんなの、どうやって・・」





どうやって、諦めればいいんだよ。





「好き」って言いたいのに、その前に目から涙が溢れてきた。




好きと言ってこの電話が終わるのがこわい。




カスミは俺のものにならないのだと認めたくない。



決心してかけたはずなのに、すぐに覚悟が揺れる俺はどうしようもなくかっこ悪いよな・・



分かってる。分かってるけど・・・。



カスミの気持ちがほしくて、足掻くことしか出来ない。





『・・・・・サトシ』




長い沈黙の後、静かにカスミは口を開いた。




「うん?・・」



『あたし、好きな人がいるの」



「あぁ。知ってるよ・・」



『その人のこと、どうしようもなく好きなの。だけど、あたしずっと嘘をついてることがあって。この前もそのせいで喧嘩みたいなのしちゃってね?あたし、早く仲直りがしたくて。』



「ハハ、今惚気るのかよ。」




ひどい奴、と俺は笑って涙を拭いながら、最後のカスミの相談を聞いていた。




『どうすれば許してもらえると思う?』



「謝って本当のこと言えばいいじゃんか。カスミが好きなんだからさ、ちょっとした嘘くらい許してもらえるよ。」



『そうかな・・・。』



「うん」



『・・・じゃあ、謝る。』



「おう」



『サトシごめんなさい。』




カスミの口から出てきた言葉に俺は一瞬、何のことかと首を傾げた。



・・だけどカスミから続けて明かされる言葉に、俺は少しずつ眉を寄せずにはいられなかった。





『サトシとの旅を止めて、あたしはジムリーダー、サトシはポケモンマスターを目指すために世界中を飛び回ってて・・
同じフィールドから離れたあたし達を繋ぐものは、気づけば何もなくなったんだって気付いて・・。
だからあたし、彼氏がいるだなんて嘘をついて、その相談に乗ってもらうことで会う口実を作ったの。』





カスミから告げられる真実に、俺は戸惑いよりも怒りがこみ上げて自分の手を強く握りしめた。




『相談をしながら、サトシのこと知れることが、あたし嬉しくて・・・
でも、それがサトシをあんなに追い込んでたとは知らなくて、あたしすごくひどいことをしてたんだってやっと思い知ったの。
本当にごめんなさい・・・』




怒りのせいで頭に血が上りそうだった。



「んだよ・・それ・・」



自分勝手なカスミの行動に正直腹が立つ。



「じゃあお前ずっと俺に嘘ついてたのかよ・・俺に嘘ついて、俺をバカにしてたのかよ。」




『・・そんなつもりはなかった。でも、結果的にはそうなってしまったかもしれない。許してくれなくても仕方ないって思ってる。』






だけど、





『本当にごめんなさい、サトシ・・』



「・・・許さねぇ。」




『・・うん。サトシ、ほんとうに――・・』




「これからずっと俺と一緒にいてくれなきゃ許さねぇ。」




え、と小さく声が漏れたカスミに、小さく苦笑する。




「さっき言ったじゃん。カスミが好きなら許してくれるだろって。」




『サトシ・・・』



「正直今でも腹は立ってるよ。でも約束してくれるなら許す。二度とそんな嘘はつかないって。」



『うん・・もうつかないっ。』




俺がどんだけ傷ついたと思ってんだよと笑って言うと、カスミは泣きながら、ごめんねと何度も言った。





これが惚れた弱みってやつか。

少し癪だけど、本当その通りだと思う。





「俺も嘘ついててごめん。いい友達ぶって相談に乗ってるフリして、最後は爆発しちまった。」




嘘をついてたのはカスミだけでなく俺も一緒で、カスミはそれに対して、似た者同士ってことかな、と涙声で笑った。




不器用な俺とカスミだから、ずっとこんなことを繰り返していくのかもしれないって不安はある。



それでもたぶん俺はカスミを好きで居続けるんだろうと確信があって、お互いの傍にいるために喧嘩をしたりすれ違ったりするなら、きっと俺たちは大丈夫だ。




そう信じてる。




『・・そうだサトシ、もしよかったら中にいれてもらえないかな。ちょっと寒くなってきちゃった。』



「はぁ?!お前家の前にいんの?!風邪引くだろ早く入れよ!」




長い長い冬が、今明けた。




end


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あきゅろす。
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