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冬に咲く桜




数年前。


たくさんの思い出が詰まったカントーを、俺は一人で飛び出した。














最初に出会ったカスミとタケシと別れた後、俺はポケモンマスターを目指すため、いろんな場所へと飛び回った。



タケシはその後も少しの間一緒に各地を回ったけど、カスミはハナダジムのジムリーダーになって、一緒に旅をすることはなくなった。



それぞれ自分のしたいこと、目指す道を、
考えて決断した。



めまぐるしい日々をなんとか過ごしていくのがやっとだったけれど、



旅の途中で出会った奴らはいい奴ばかりで、毎日が充実していた。



そんな毎日のせいか、カスミに会うことも少なくなっていった。



旅で繋がっていた俺たちは、もう毎日のように隣に立つこともない。



それでもふとした時には、カスミのことを思い出した。






そんな矢先のことだった。



一通のメールが届いた。






俺がカントーを出てから5年目のことだ。




『久しぶりね』の言葉がくすぐったい。

そんな一言で始まるカスミのメールを見て、胸に温かいものが流れた。





まもなくカントーに戻り久しぶりに会ったカスミは、髪は長くなっていたけど前髪が少し短くなっていて、記憶の中のカスミより少し幼く見えた。



さらに話してみれば中身も全く変わっていなくて、俺は安心しきってしまった。




・・・そんな、




「あのね、サトシ。」



「うん?なんだよ。」




変わらないものなんてあるはずないのに。




「あたしね・・彼氏ができたの!」






−−−その日



桜が舞い散る中、



俺は盛大に酔いつぶれた。





「カ・・カスミ・・・気持ち悪い。」



「もうーーっ!だから呑みすぎだって言ったじゃないっ」





−−−そして知ってしまった。





「あーもうっ、ねぇサトシ立てる?」



「む、むり・・・」



「まったく・・・」



「わ、わりぃ・・うぅ・・」



優しく口元に小さなタオルを添えてくれる、




「しょうがない奴。シャキッとしなさいよね。」




カスミの困ったような優しい笑顔を見て温かくなっては、すぐに痛んだ胸のこの痛みが、






「バカサトシ。」






・・・失恋の痛みってやつなんだと。








恋と気づくには遅すぎた。



かと言って俺たちの関係が変わるかと言えばそんなことはなく。






「ねぇサトシ。」



「なんだ?」



「デートって、むずかしいんだね・・」




変わったとすれば、それ以来俺がカスミの相談相手に選ばれたこと。




「なんでだよ?」



「だって男の子の行きたいところなんて全然わかんないもの。」




初恋が失恋だった俺にそんな相談したって、正直何の得にもならないとは思うけど。




「いや、それを言えば男だって女の行きたいところとかわかんないよ。2人で行っても楽しめる場所とかでいいんじゃないのか?」



「例えば?」



「無難に映画、とか?
あ、でも怖いのはやめとけよ。カスミビビって映画館から飛び出して行きそうだからな。」



「もうっ茶化さないでよ!」



「ハハッごめんごめん。お前が好きな恋愛もの見ればいいじゃん。」



「・・よく知ってるわね。あたしの好きな映画。」



「えっそりゃあ・・友達、だからな・・。」




−−−そうだよ。




ずっと昔から“友達”だったから、そいつよりもお前のこと分かってやれる。




“友達”だから何の気兼ねもなく、恋人がいるお前と2人きりで会える。




“友達”だから、お前の恋人にはなれない。




・・・でもそれでいい。



このままカスミの友達として傍にいれるなら−−−・・・






「サトシ、携帯鳴ってるぞ。」



「おう、ありがとう。」



「電話か?」



「いや、メール。」




名前を見て、自分でも口元が緩むのが分かる。




「なんだー?ニヤけやがって。彼女だろ?」



「いや・・・」




だけどすぐに切なさが心臓を締め付ける。




「昔からの“友達”。」








そうして、季節だけが過ぎていった。






to be continued

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