◆Main
ズルいあたしと無知の君3
サトシ、あたしは今日もあなたが大好き。
ズルいわたしと無知の君3
あれから数ヶ月が経った。
サトシとタケシといろんな場所を巡って、いろんな出会いと別れを繰り返した。
同じ毎日は一つもなくて、毎日が予想外な出来事の繰り返し。
例えば途中でタケシが立ち寄った牧場に残ると言い出したことも予想外だった。
ブリーダーとしての食事をここで学ぶんだと迷いもなく言い切ったタケシは、あたし達を抱きしめて「またな!」と言った。
まるで帰り道に言い合うみたいに明るく言うから、あたし達も笑顔でタケシに手を振った。
三人ともすぐにまた会えるってわかってた。
あたしたちには深い絆があるから。
二人で旅をしてからは、いろんなバトルを経験したくてまたさらにいろんな地方にも足を運んだ。
サトシが旅した地方や、大きな都会の街にも行ったし、もちろん野宿も何度もした。
虫ポケモンだらけの島に立ち寄った時は、すぐに出たかったけどサトシがいたがるから寝不足になったっけ。
時間は確実に過ぎていって、気づかない内にあたし達も変化していく。
「おまえ荷物こんなに少なかったっけ?」
「減らしたの。あたしも旅慣れしてきたってことよね。」
「はいはい。」
「さてと。サトシ、少しの間お別れね。」
「あぁ、そうだな。」
あたしがサトシと別々に旅をすることを選んだのも予想外。
「あのカンナさんと大学で水ポケモンの研究するなんてすごいよカスミ。」
「あたしもまさか声をかけられるなんて思いもしなかったわ。でもこんな機会はそうそうないから、出来る限りやってみる。」
四天王の一人、カンナ様・・・じゃなくてカンナさんは今臨時で講師としてポケモン大学に所属していて、自分の研究の論文を書くためあたしに助手になってほしいと、カンナさんから連絡が来たのがほんの二週間前。
「カンナさんは俺のトレーナーとしての在り方を変えてくれた人だからな。そんな人に認められてカスミが羨ましいぜ。」
「何言ってんのよ。サトシだってシバさんにポケモンリーグセキエイ大会の優勝候補って言われてたじゃない。」
「へへ!あれはほんっと嬉しかったなぁー!もっといろんな地方でリーグ戦に優勝して、いつかカントーのポケモンマスターになりたいな。」
「サトシならやり遂げるわよ。でもあたしだって負けないわ。大学に何ヶ月いるかは分からないけど、いーっぱい学んでサトシをビックリさせちゃうんだから。」
あたしがサトシに笑うと、サトシも笑ってあたしを見た。
「そんなの俺が一番よくわかってるよ。」
「なら、よし!」
その言葉にあたしは心底満足した。
「じゃあ、あたし行ってくるね!」
「うん!頑張って来いよ。」
「サトシこそ!またね!」
・・・サトシはすごいって言ってくれるけど、ここまで来れたのはサトシのおかげだ。
あたしの目標は水ポケモンマスターと、ハナダジムを世界一有名なポケモンジムにすること、そして、サトシの存在意義になること。
もっともっと、まだ成長できる。
振り返るとサトシはいつもの笑顔であたしを見送ってくれてて、そんなサトシにあたしはもう一度手を振って、もう振り返らなかった。
サトシと離れても、あたしの夢は変わらない。
「カスミちゃん、あの研究論文すごく良かったよ!」
「ありがとう。」
―――大学に入ってみて分かったことだけど、学生の人達は国籍も年齢もさまざまな人が多くて、旅を経験してから入学したという人も少なくなかった。
だからあたしは結構すぐに馴染むことが出来て、文章に書き起こすことも少しずつだけど慣れてきた。
「僕らも深海ポケモンの謎について調べたいと思ってたんだ。ぜひ力を貸してくれると嬉しいんだけど。」
「もちろん。あたしなんかで良ければいつでも。」
「助かるよ。でさ、いきなりで悪いんだけど今日はどうかな?」
「あ、今日はちょっと・・・また明日でも良いかな?」
今日はサトシが会いにくる日。
大学がどんな感じなのか体験したいらしい。
理由は何でもいい。
久しぶりに会えることがすごく嬉しい。
「カスミちゃんなんだか嬉しそうだね。」
「え?!そ、そうかな?」
「じゃあまた明日。あ、夕食も一緒にどう?」
「そうね、たぶん大丈夫だと思うわ。また明日ね。」
彼は確かあたしと同い年で、何人かのグループで研究をしてる。
なかなか優秀だとカンナさんも言ってた。
「・・負けてられないわね。」
「何に負けてられないんだ?」
「きゃっ」
突然後ろから声が聞こえて振り返った。
「サトシ!!」
「お前また独り言話してんのか?」
「も、もう着いたの?!言ってくれたら迎えに行ったのに!」
「早めに着いたからちょっと中を見て回ってたんだよ。そしたらカスミ見つけたから。」
サトシがいたずらっ子のような顔で笑う。
「カスミ、久しぶりだな。」
「うん!来てくれてありがとうサトシ!」
あたしは嬉しくて満面の笑みになる。
「さっきの人は学生か?」
「え?」
「今話してただろ?」
「あ、そうなの!カンナさんの元でゼミを作って研究してる人なの。」
「ゼミ?」
「えっと、何て言えばいいかな。研究チームみたいなものよ。水ポケモンや氷ポケモンにもすごく詳しくて勉強になるから、あたしもたまに参加させてもらってて。」
「ふーん。」
彼が去って行った方を見つめているサトシに、あたしは首を傾げる。
「そうだ!サトシ、大学の中案内してあげる!カンナさんも時間があるから会おうかしらって言ってくれてたのよ。」
「え、カンナさんが?!それはすっげぇ嬉しい!」
それから大学の中を歩きながら、いろんなことをサトシに話した。
サトシが笑顔で話を聞いてくれて、いろんなものに興味を引かれているのを見て、あたしもすごく嬉しくなった。
カンナさんとの再会では少し緊張しているように見えたけど。
それでも、カンナさんに昔の時のことを話してお礼まで言っているサトシを見たら胸が温かくなる。
離れていたからかな。
以前よりもサトシが愛おしく思えてしまう。
・・・やっぱり好きだなぁ。
「カスミ、お前水泳部にも入ってるのか?」
「えっ?あ、あぁ、水泳部っていうか、ここ海に近いでしょ?ダイビングをしてるサークルがあって、時々潜ったり、ライフガードをしたりしてるのよ。」
「サークル・・・」
「サークルはね、部活っていうより毎日活動するわけではなくて、部活より少しラフな感じって言うのかな。」
「ふーん。」
「そうだサトシ!ここ水族館みたいに大きなプールと水槽もあってポケモンのケアをしているの!あたしがいつもいる部屋も近いから行ってみない?なかなか会うことのできないポケモンもいるのよ!」
「へぇ!行く行く!」
サトシを連れて水槽やプールを歩いて、海藻のことまで説明しちゃったけど、サトシは嫌な顔せず楽しそうに話を聞いてくれた。
「これが研究室ってやつか?」
「そうね。あたしはだいたいいつもここにいるから、休憩室でもあるの。」
「広いし、こんな大きいソファもあるもんな。」
そう言いながらサトシはソファに座った。
「疲れたんじゃない?何か飲む?」
「じゃあ何かもらおうかな。」
「うん!アイスティー淹れるね。」
「ありがとう。」
サトシは立ち上がって、あたしの机にある書類に触った。
「それあんまり読まないで、まだ訂正してる途中なんだから。はい、どうぞ。」
「カスミ、本当にここで研究してるんだな。」
「え?」
「あ、ごめん。ありがとう。なんか来てみると改めて実感するよな。」
アイスティーを受け取って、サトシがあたしの席に座った。
「なんかここに座ると、ちょっと俺もかしこくなれる気がする。」
「ふふ。サトシがずっと机に座ってる姿って想像できないなぁ。」
「何だよ。俺だって勉強はまぁまぁ出来るんだぞ。」
「そうね、学校にも通ってたもんね。サトシは研究より実践って感じだけど。」
「まぁたしかにシゲルの方がこういう場所は似合うよな。」
「んー、シゲルは白衣が似合うけど、大学生活って思うとサトシの方が似合うんじゃない?」
「そうか?」
「うん。たまに想像してたの。
サトシがここにいたらどんな風に過ごしてたかなって。きっとあたしより早くここに馴染んじゃうんだろうなーとか。」
「・・・カスミだって友達も出来てるし、意外と大学生活楽しんでるように見えるけど。」
「そうね。でももしあたし達が大学生だったとしたら、あたしとシゲルより、サトシは大学生らしく楽しみながら、経験を積んで成長するんだろうなって思う。」
「・・・・・」
「で、大学でも周りに人が集まるのよきっと。あんたは人たらしだから。まぁでもシゲルも研究への情熱があるしモテるからいい線いくかもしれないけどね。」
「人たらしってなんだよ。ていうか、お前はどこの立ち位置なんだよ。」
「ふふ。そうねー。しいて言えば、あたしはそんなサトシと肩を並べられる選ばれた人間っていう立ち位置かな。」
ふふん、とふざけて笑って言った。
「はあ?なんだそれ。」
「だって、サトシに一番最初に出会ったのはあたしで、こうしていられるのはサトシのおかげだもん。」
「あーはいはい。」
「本当だよ?あたし一人じゃここまで来れなかっただろうし、あのカンナさんと出会えたかも分からないでしょ?しかも一緒に研究するなんて。」
「それはカスミの実力じゃん。」
「ありがと。でも夢がたくさんあってもいいんだって、サトシと出会えてそう思えるようになったし。
つまり、サトシといるとワクワクして飽きないってことよ。悔しいけどそれは認める。」
一度好きだと伝えてからというもの、あたしはサトシに素直に何でも言えるようになった。
余計な意地がなくなったのかな。
「・・・褒めても何も出ないぞ。なんか寄越せって言うんだろ?」
「いらないわよ、何にも。今日ここに来てくれたってだけで十分嬉しいし。あたしを見守ってくれてるってだけでもう十分よ。」
恋人にはなれなくても、サトシの中の特別な人間になれたらそれで――・・・・
「へえ・・・・・つまんないの。お前って案外欲がないのな。」
「・・・・・・・・え?」
「お前はもっと欲張りかと思ってたぜ。」
はい?
突然、何?
サトシが何を言ってるのかあたしは理解が追いつかなかった。
「あ、えっと、ごめん。どういう意味か分からないんだけど・・・」
「キスしたいって言うかと思ったのに。」
「・・・・・っ!!!!」
え、待って。
これ、一体どういうこと?
「サ、サトシ、冗談にしても笑えないんだけど・・・。ひょっとしてからかってる?」
「・・・さぁな。」
「さぁなって・・・。ねぇ、わざと煽ってるならやめてくれない?せっかく努力してきたのに、あたしの気持ちも考えてよ。そういうこと言うと、また痛い目を見るのはサトシなんだよ?」
「やっぱり俺とキスしたかったんだ?」
「そ、そんなの分かってるでしょ?!・・・とにかくそういうことはもう――」
「それなら尚更本当にいいのか?誰もいないし、俺もいいって言ってるのに。キスするなら今がチャンスだぞ。」
・・・チャンスって何?
サトシ、一体何言ってんの?
ていうか顔が近いし!
「ね、ねぇサトシ、でもキスは・・・・」
あたしにはチャンスでも、サトシはあたしとまたキスをしてもいいの?
あたしに言う資格はもうないけど、でも・・
キスは、好きな人とするものでしょ?
・・え?サトシまさか、あたしのこと好きになっちゃった、とか?
て、そんなわけないよね・・・
サトシの考えてることが全然分からないよ。
「どうなんだ?したいのか?したくないのか?」
何て答えていいのかもうよく分からない。
「し、したくないわけないじゃない。でも・・・」
ひたすら頭の中をいろんなものがぐるぐる巡っていたら、ぐいっと腕を引っ張られて、
――――気づけばサトシにキスをされてた。
キス、した?
え?え?
なんでサトシから?
な、んで・・・
腰がひけて机にぶつかったあたしの前に、サトシが立ちはだかった。
「・・・・そんな見るなよ。」
顔を赤らめてあたしを見下ろすサトシに、あたしまで顔が真っ赤になる。
でも、サトシがこんなことする理由が全然分からない。
これで、せっかく立て直してきたサトシとの関係にヒビが入っちゃわない?
またあたしの独占欲が抑えられなくなくなったら、サトシをまた困らせる。
また幻滅されちゃうかもしれない。
「っやっぱダメだよサトシ!」
あたしは思わずサトシから身体を離した。
「何だよ?」
「だって、やっぱりキスは恋人同士がするものだよ。しかもあたしまだ手だって繋いだこともないし・・・」
「ははっぶははっ。手って。カスミ、意外と可愛いこと言うのな。」
「わ、笑わないでよ!」
なんでこの状況で笑えるの?
バトルにでも負けてネジが吹っ飛んじゃったとか?
一体どうしちゃったっていうのよ。
「・・・ねぇ、怒らないから正直に言って。あたしのことからかってる?」
「からかってないよ。」
「じゃあなんでキスしたの?」
「・・・・何でだと思う?」
「何でって・・・」
――そこに、好きだからって可能性はどのくらいあるの?
喉まで出かけたけど、あたしはそれを飲み込んだ。
「お前、あの日以来本当に何も言わなくなっただろ?正直あの時は俺のためにそうしてくれてありがたかった。けど、お前に我慢させてるのは分かってた。」
「・・・そ、そんなことないよ。言ったでしょ?わがままを聞いてくれただけでよかったって。」
「嘘つけ。お前はそんな大人しい奴じゃないだろ?」
ニッと笑ってサトシがあたしを見た。
「・・・サトシに、恋する女の子の気持ちなんてわかるの?」
「全部勘だ。女の子の気持ちなんて分かるわけないだろ。でも、カスミのことなら少しは分かる。それに、さっきのでお前が俺をまだ好きなのはよく分かった。」
「・・・・・」
「いくらカスミが我慢したって俺がつつけばすぐくずれるんだろ?それなら我慢するだけ無駄だ。」
「な、なんですって?!やっぱりあたしをからかってるじゃない!一体あたしがどんな思いで・・・」
「だから、もう我慢しなくていいって言ってんじゃんか。」
「決めたと思っ――・・・って、え?」
もう何が一体どうなってるの。
さっきからサトシに振り回されてばっかりなんですけど。
「我慢しなくていいってどういうこと・・・・?」
「そのまんまの意味。」
「だからそれって・・」
「でもそうだな。その前にちゃんとしといた方がいいな。」
「はい?」
「カスミ、付き合おう。もう一度キスする前にちゃんと俺のもんになれ。」
「は、はい?!・・・」
何なの?
一体あたしに何が起きてるの?
あたし夢でも見てるんじゃない?
一生あたしが言いたくても言えないと思ってた台詞をサトシから聞けるななら、いっそ夢でも全然いいけど。
「サトシ、それ、本当に言ってるの?」
「当たり前だろ。」
「そんな急に言われても・・・なんか信じられないんだけど。」
「カスミだって急に言ってきたくせに。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
「で、返事は?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
「まさかあの大学の友達と何かあるのか?」
「ちがう!そんなわけない!」
「じゃあカスミの今の気持ちは?」
「・・・そ、そんなの決まってるわよ。あたし、サトシと付き合いたい。」
「そっか。よし、よしっ!」
嬉しそうにサトシが笑う。
だけどちゃんと確かめなきゃ。
「ねぇサトシ、あたしのことちゃんと好きなの?たくさんキスしたり、あたしが自分の気持ち押し付けたりしたから感覚がおかしくなってたりしない?」
頬にそっと触れると、サトシが照れ臭そうにはにかんだ。
「・・好きだぜ、ちゃんと。だからキスした。」
「ほんとに?」
「存在意義にしてとか・・・ほんと可愛いこと言ったよな。」
「あ、あれは口説くためじゃなくてただサトシのそばにいる為に必死で・・・」
「分かってる。でも俺にはそれが刺さったんだよ。思えばあれがキッカケになったんだろうな。」
「・・・じゃあもっと早く言ってくれればよかったのに。」
「俺がちゃんと好きだって確信できたのはあれからもう少し経ってからだからな。
それにお前は告白の時、俺と付き合わなくてもいいって言っただろ?俺はカスミと付き合って独占したくなってるのに、付き合おうっていった途端拒否されて、他の奴ともベタベタされたらたまんないからな。」
「そ、そんなことするわけないじゃないっ」
「そうだな。でも俺は初心者だから、用心には用心を重ねないとって思ったんだ。だから付き合うって言ってくれて安心した。」
さっきまでの強気な態度と時々見せるはにかむ笑顔のギャップがもうたまらない。
「あたしもサトシを独り占めしたいし、サトシに独り占めされたい。」
「うん、それならよかった。お互い独り占め出来る関係になろうぜ。」
「うん・・・!」
笑って頷いたあたしに、サトシが不意打ちに短いキスをした。
「え、待って、今のはズルい!」
「ははっズルいってなんだよ。」
「あたしもキスしたい!」
「はいどうぞ。」
目を閉じて顔を向けるサトシに、あたしは感無量になりながらキスをした。
「ぶはっ」
「え?何?」
「またキスしたいって顔に書いてる。」
「えっうそ?!」
「言ったろ?我慢しなくていいって。」
はい、とまた目を閉じて顔を傾けるサトシ。
そんなの今のあたしには、狼に食べてもいいよって言ってるようなもんじゃない。
「そ、そんなこと言ったら、あたしこれから前以上にキスしちゃうかもしれないよ?!」
「・・・俺の機嫌がいいとき狙えよ?」
いたずらっ子のように笑うサトシを見て、あたしの気持ちがさらに膨らんでいく。
これじゃあキスと一緒に呆れるくらい好きって言ってしまいそう。
でも、こんなにあたしのことがお見通しなら
「サトシ大好き」
「知ってる」
きっと隠しても無駄だよね。
そうでしょ?サトシ。
end
水鈴さん、リクエストありがとうございました(^^)
まといさん、メッセージありがとうございます(^ ^)
ずっと通ってくださってるなんて嬉しいです(;_;)
今は仕事が忙しくなかなか更新できませんが、末永くよろしくお願いいたします(^^)
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