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ズルいあたしと無知の君2








――そこに”好きだから“って可能性は

どのくらいあるのかな。






ズルいわたしと無知の君2




あの日サトシは何を思ったのか。

それは分からないけど、あたしがあわよくばと隙を見てお願いをすれば、キスをしてくれるようになった。




『サトシ、おやすみなさい』


『うん、おやすみ。』


『・・・あの、サトシ。お願いしても良いかな。』


『ん?何を?』
  

『タケシが戻る前に、その・・・キスしても良い?』


『え?ここで?!』


『お願い!』


『・・・・・分かったから、早くしようぜ。』




例えば夜寝る前だったり。




『んあぁー!疲れたー』


『お疲れ様。ここは本当に強くていいトレーナーが集まるわねー。』


『そうなんだよな!俺なんか朝だけで3人とバトルしちゃったぜ。』


『そんなに?よくやるわね。あたしはそこまでじゃないけどもうクタクタよ。』


『でもすっげぇいいバトルしてたじゃんか。』


『え?見てくれたの?!』


『あぁ。セレナと一緒に見たんだ。』


『・・・・』


『セレナもカスミすごいって言っ――・・・』


『サトシ、キスしたい』


『は?へっ?今?』


『今がいい。』




あたしがどうしようもない嫉妬をした時にも。



1日に3回は“ゼロ”距離になる。



とは言ってもすんなり受け止めてくれるのは、サトシがバトルに勝って気分が良い時くらいで、あとの9割はすごく嫌な顔をされる。


でもなんだかんだお願いすれば許してくれるんだけどね。


つくづくあたしは自分のことしか考えてないんだなぁと、この数日だけでも散々思い知った。




『何ぼーっとしてんだ?』



朝ご飯を食べた後ぼんやりしていたら、着替えているサトシが覗き込んできた。



『ねぇ、なんか起きる時間どんどん早くなってない?』


『そりゃそろそろこの街も出るし、もっといろんな奴とバトルして交流しておきたいからな。』


『最近調子も良さそうだしね。』


『お、分かるか?なんでか最近めちゃくちゃ頭が冴えるんだよなー。ふふん、実力がどんどん上がって来てんのかな俺。』


『もしかして、あたしとキスするようになったから、とか?』


『はぁ?!な、何言ってんだよっ!!』


『冗談よ、冗談』




真っ赤になっちゃって。本当可愛いんだから。



こんな会話も普通に出来る様になってきちゃった。


そもそもあたしたちの普通ってどんな感じだったっけ。




『バカなこと言ってないで早く準備しろよ。喋ってて時間食うとか早起きしてる意味ないじゃん。』



え・・・もっと話したかったのに。



『・・・おしゃべりを通じての交流だって結構大事なのよ?』


『なんだ?何か聞いて欲しいことでもあるのか?ていうか、そんなの昼か夜にも出来るじゃん。』



あたしはその言葉で目を見開いてサトシを見上げた。



『え?セレナと過ごさないの?』


『へ?なんでセレナ?』


『だって、そろそろセレナともお別れじゃない?セレナも明日か明後日には発つって言ってたから、今日は一緒にいるかと思った。』


『あーそうだ。いっけね、バトルに夢中過ぎて忘れてた。まぁでも、セレナも俺がそういう奴なのは分かってるだろうし。疲れたら早めに帰ろうぜ。話聞いてやるよ。』


『うん、そうだね。ありがとう・・・嬉しい。』




もしかして心配させちゃったかな。

ただの嫉妬のせいで、特に聞いて欲しいことがあるわけではないから少し申し訳ない。

それでも思わず顔が緩む。




『あ、あのなぁっ!いちいち喜ぶなっつーの。俺まで調子狂うだろ。』


『へへ、ごめん。あのねサトシ』


『はいはい、分かったよ。』


『え?分かったの?』


『キスしたいって言いだしそうな顔してるなーと思ったんだよ。』


『そっか・・うん。お願い。』




――――・・・今のサトシの中に、あたしを好きになる可能性はどのくらいあるのかな。




たったこの数日で、そんなことを考えるようになってしまった。



キスをさせてもらえたら諦めようって決めたのはどこの誰なんだか。



あたしは嫉妬深いだけでなく、独占欲もものすごく強いんだな・・・。



キスを重ねるごとに、絶対に自分のものにしたくなって、今すぐあたしを好きになって欲しいって欲が溢れてくる。



キスをしてる時は、サトシと両想いになった気分になるからすごく満たされるけど。



サトシもそう思ってくれたら、どんなに嬉しいか。



・・・ここから恋人に進む可能性はどのくらいあるのかな。





―――『ねぇサトシ。カスミとはどういう関係なのか、聞いてもいい?』



曲がった先の廊下から突然聞こえた声に、あたしはビクリと立ち止まった。



バトルを終えたサトシを探しにきたら、セレナが一緒にいたらしい。



でも驚いたのはそんなことより、サトシへのその質問。



『カスミとの関係?』


『うん・・・わたし見ちゃったの。サトシがカスミとキスしてるところ。』



思わず声を出しそうになって口を押さえた。



『あー・・・』


『・・・付き合ってる、の?』


『いや、カスミとはそんなんじゃない。』


『え?違うの?』


『あぁ。』


『じゃあただの、友達ってこと?』


『うん、カスミは“友達”だ。』




ヒュ、と喉の奥で声にならない息を呑んだ。

―――サトシがあたしと同じ気持ちじゃないことは分かってるのに、改めて聞くと気持ちが沈む。




『えっと・・・じゃあ、どうしてキスしてたの?』


『それは、言えない・・。』


『言えない?』


『事情は言えない。でも、あれは恋人じゃなくて、友達としてのキスなんだ。』


『友達としての、キス・・・?』


『うん。ごめん、どうなってそうなったとかは、聞かないでいてくれると助かる。』


『うん・・・でも、サトシはそれでいいの?だ、だって、友達のキスって言っても、キスはキスだよ?』


『キスがどうのっていうより、俺がしてあげられるカスミの望みがそれだけだったから。』





・・・そんな風に考えてくれてたんだ。


サトシはあたしを気遣って無理なお願いを受け入れてくれたんだ・・・・。


しかもあたしがサトシに振られて、苦し紛れにお願いしたことを黙っててくれた。


・・・・それなのにあたしはサトシの優しさにつけこんで、ズルい独占欲でサトシを困らせただけじゃなく、迷惑までかけてしまった。


サトシが一番大事にしている仲間に隠し事をさせてまで・・・





――――だから、バチが当たったんだ。





『・・・そっか。ねぇサトシ、それならわたしも、その友達のキス、お願いしちゃダメかな?』


『えっ?!何言ってるんだよセレナまで!』


『前はほっぺにしか出来なかったから。わたしも、サトシとちゃんとキスがしてみたいの。』


『はぁ・・なんでお前までそんなこと言いだすんだよ。』


『カスミとキスしても、何も感じなかったんでしょ?だから恋人になってないんでしょ?』


『それは・・・』


『サトシは恋とかそういうのに興味ないのは知ってる。だからわたしの気持ちに応えられなかったことも。でも、わたしとは何か感じるかもしれない。それに、カスミと出来たなら、わたしとだって出来るんじゃないかな・・・』


『・・・・』


『だから、お願い。一度だけでいいの。』


『・・・・』


『サトシ、お願い。』

 
『・・・・・分かった。』




あたしはサトシが答えるのと同時くらいに身を翻して、その場を去った。





―――やだやだやだ。



あたし以外の人とキスなんてしてほしくない。



あたし以外の人にサトシの特別をあげないでほしい。


あたし以外の人を――・・・好きにならないでほしい。




・・・こんな時でさえ、あたしは自分のことばっかりだ。




『・・・あはは。こんなあたしに、そんなこと言う資格はないわよね。』




サトシたちから十分に離れたところで、あたしは呆然と立ち尽くした。



―――・・自分のしたことはいつか自分に返ってくる。


それは聞いたことはあったけど、それが他の人さえも巻き込んで、こんなに辛いことになるなんて、誰も教えてはくれなかった。



サトシに何て言えばいいの。

今更謝っても仕方がないのに。

サトシの顔を見れる自信がない・・。

でもせめて、普通にしていないと。

サトシがそうしようとしてくれたみたいに、今度はあたしがいつも通りにしないと。




サトシをもう困らせないためにも。




『あ、ねぇ!!』


『はい?』


『あたしとバトルしてくれないっ?それから隣にいる君も!その次にバトルしましょうよ!』




それからあたしは我を忘れるように片っ端からバトルを仕掛け、声をかけられれば迷わず受けた。


自分勝手なことはもう考えたくない。

あたしがサトシにできることは何?


ただそれだけを考えたかった。










『はぁ・・・疲れた。』




さすがに何も食べずにバトル続きはキツいわね。


おかげで疲れ切って、多少頭の中は落ち着いた気はするけど。


いつもの場所から少し離れた所で、あたしは壁に倒れ掛かるように座り込んだ。




『・・・疲れたけど、戻りたくないなぁ。』




『なぁ誰と話してんだ?独り言か?』


『うわっ!』



突然真横から声をかけられて、あたしはよろけてゴロンと横に倒れてしまった。



『おい、大丈夫か?』


『あ、え、うん平気!ちょっと疲れてて。』


『そりゃそうだろ、あんだけ続けてバトルやってたら。次々にバトル受けるから声かける暇もなかったぜ。』


『あ、見てたのね・・・』


『何があったのか知らないけど、お前飛ばし過ぎ。』



ポンっと肩に水が入ったボトルが押し当てられた。



『水分ちゃんととらないと本当に倒れるぞ。』



『・・・・ありがとう。』



なんだかデジャブみたい。



『・・・間接キスだね。』



『はぁ?今更何言ってんだよ。そんなの昔からよく同じので飲んでただろ。』


『まぁそうなんだけど。いつもしてることが特別に感じるっていうか・・・。』


『ふうん。よく分かんないなぁ。』


『・・・あたし、サトシが他の人と間接キスしてるのを見る度、すっごくヤキモチ焼いてたんだよ。』




サトシが目を大きく見開いて、少しだけ顔を赤くして、気まずそうにスッとその目を下に逸らした。




『・・・んなの知るか。』


『ふふ。ごめん、またただの独り言。』




もうこっち向かないや。照れたのかな。

それともまた困らせたかな。


・・・あーでも、可愛いなぁサトシは。




ボトルを開けて、そっと静かに水を飲んだ。




『・・・キスしたいなぁ。』





その独り言も自分の中に仕舞い込むように一緒に飲み込んだ。




『ねぇサトシ、あたしね』


『うん?』


『サトシの存在意義の一つになりたい。』


『・・・はい?』


『あたしは、サトシを世界一のポケモンマスターにしたい。だからあたしを世界一の水ポケモンマスターにしてほしい。』


『き、急に何言ってんだよ・・・』


『だってサトシは、あたしが水ポケモンマスターになったら、負けてられるか!って絶対自分もポケモンマスターの夢を叶えるでしょ?』


『・・・当たり前だろ。』


『それはあたしも同じなの。あたしが夢を叶えるにはサトシが必要不可欠。サトシが好きだからってことは関係ないよ?
昔からあたしを知ってるからこそ、ダメなとこは叩き直してほしいし、ダメ出しされたとこが克服できたら褒めてほしい。サトシといると、夢が今につながってるってそう思えるの。』


『・・・・・』


『もっともっと、あたしサトシとこれからもいろんなことを学びたい。』


『・・・・・』


『だから、キスはもうしなくても大丈夫。』


『・・・・・』


『わがままを聞いてくれてありがとう、サトシ。』


『・・・それは別に。ていうか改まっていろいろ言われるとなんかむず痒いな・・・・』


『夢を叶えるまでちゃんとあたしのこと見ててよね。』


『分かったから。ていうか当たり前だろそんなの。カスミのバーカ。』


『バカじゃないし。』


『・・・ありがとな、カスミ』


『感謝は態度で示してほしい。』


『はいはい。』


『はいは一回。』


『はい。』




よかった。

サトシと変わらず笑い合えてる。



サトシの隣にいることはこの先も変わりたくないから、それならサトシの特別を別の形で手に入れたい。




・・・この先、あたしの想いが何もなかったことになって、そんな時もあったねって笑い合う日がくるのかな。



そう思うと、少しだけ寂しく感じた。



to be countinued


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