俺と彼女の勝負始め《過去拍手》 「しっかりしろ、バカ者」 彼女は他人に厳しくて、 「…なんて、私が言えた言葉じゃないな…不甲斐ない…」 それ以上に、自分に厳しい。 「着飾る必要がどこにある?」 何もしなくても美しくて、 「隙がなければ作るまで…だ!」 戦っている姿が妙に色っぽい。 俺の知っているどんな女の子とも違っていて… 目が、離せなくなるんだ。 「だからと言って…鬱陶しいわぁぁぁぁ!!」 「あれ、見てるのばれちゃったー?」 「いつもいつもいつもいつも付きまとって…何のつもりだ!! 尾浜勘右衛門!!」 「そんなの聞かなくたってわかるでしょ?」 君の事が気になるから、見ていたくなるんだよ。 にっこり笑ってそう言うと、雪ちゃんは俯いてふるふると震えだした。 「あれ? 震えるほど嬉しい?」 「怒りを抑えているのが分からんのか、バカ者!!」 「あっはっは! やっぱりー?」 「く…付き合いきれん!!」 そう言って、くるりと背を向けた君。 怒っている君も魅力的だけど、出来れば俺を見て欲しいから。 俺はずっと前から考えていた、ある提案を彼女に伝えた。 「ねぇ、そんなに俺が鬱陶しいなら…賭けをしない?」 「賭け、だと?」 ほら、君は振り向いてくれた。 俺は内心ほくそ笑み、自信満々を装ってに君に告げる。 「俺に『色』を仕掛けてみてよ。色に掛かって、髪ひもを取られたら俺の負け。二度と雪ちゃんはの嫌がる事はしない」 「…取れなかったら?」 「雪ちゃんの負け。その時は…君は俺の物になる」 君が『色』が苦手だって事は知ってるよ。 でも、俺に有利だからっていう理由でこの勝負を持ち掛けた訳じゃない。 負けず嫌いな君はきっと、苦手な内容だからこそ逃げたりしないと思ったんだ。 「…いいだろう。受けて立つ」 ほらね。 決意を秘めた君の瞳が、俺の心を見事に射ぬく。 俺はバレないようにこっそりと、そんな君に見とれていた。 「期限は十日。頑張ってね」 「十日後には、お前の顔を見なくて良くなるんだな。せいせいするよ」 そう言って、雪ちゃんは去って行った。 これで今日から十日間、彼女の頭は俺でいっぱいになるだろう。 その間にこちらも頑張って…彼女を落とすとしますかね。 俺と彼女の勝負始め 「勘右衛門、何考えてるの?」 「好きな女の色に引っかからない自信があるのか?」 「俺、女の嘘は見抜けるから。『色』で口説かれたって靡かないよ。それよりも…」 好きな女の子が、俺の為に頑張ってくれるって嬉しいよね。 笑って言うと、雷蔵と三郎が呆れた顔をした。 [次へ#] |