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俺と彼女の第一試合・前《五万打企画》


今日の夜は一人の予定だった。

同室の兵助は、泊まり込みの実習で帰って来ない。
いつも部屋にいる相手がいないというのは淋しい気もしたけれど、
たまには一人部屋気分を味わうのも悪くはなくて。
だから、今夜は好きなように過ごそうと決めていた。

真面目な兵助に付き合って普段は早めに寝てしまうけど、今日は夜更かしし放題だ。
灯りもお菓子も準備は万端。
眠くなるまで本でも読もうと、借りてきた本に手を延ばす。
だけどその時、部屋の外から弱々しい声が聞こえてきた。

「尾浜…」

声の主は、どうやら女の子らしい。
だけど誰だか分からなくて、俺は首を傾げた。

こんな時間に忍たま長家に来る女の子って誰だろう?

こんな時間だし、外部からのお客さんというのはあり得ない。
そうすると必然的に『忍び込んできたくのたま』という事になるけれど、
それにしても、人を訪ねるには遅い時間だ。

まさか…ね。

一人だけ思い当たる子がいたけれど、彼女がいきなり来るとは思えなくて。
首を捻って考えを巡らせていると、廊下から再び声が聞こえてきた。

「…尾浜…いないのか?」
「いるよー。どうぞー。」

敢えて呑気な声を上げると、ゆっくりと障子が開けられる。
その向こうには意外な…ある意味では予想通りの人物が立っていた。

「…尾浜」
「…雪、ちゃん?」

まさか…最初の一手でこうくるとは思わなかったよ。

『色勝負』真っ最中の俺達。
その勝負で彼女が最初にどう動くのか、実は結構楽しみだった。
だって、くのたまが忍たまに仕掛けてくる色なら、

『私、実はずっと前からあなたの事が…』

というのが王道だけど、互いに『勝負』だと分かっている今回は、その手を使う事が出来ないから。

さて、雪ちゃんはどうくるかな?

なんて思ってはいたけれど、まさかこんな直球勝負を仕掛けてくるとは。
雪ちゃんらしいそのやり方に、俺は内心で苦笑した。

本気なんだね、雪ちゃん。
そこまで嫌われていると思うとちょっとどころじゃなく複雑だけど、今はそれは考えないことにして。
俺は、目の前に佇む雪ちゃんをまじまじと見た。

彼女は夜着姿だった。
しかも若干乱れている。
お酒というのは考えにくいから、きっと風呂上がりなんだろう。
頬はほんのりと朱に染まり、トロンとした目でこちらを見てくる。

やばいヤバいヤバイ!
可愛い過ぎだから!

罠だと分かっていても、本能が刺激されてクラクラしてしまう。
直視出来ずに視線を逸らしていると、フワリとした足取りで部屋に入ってきた雪ちゃんが俺の前に座った。

「雪ちゃん…大丈夫?」
「尾浜…抱いて…」

うっわ、直球!!

片手で目元を覆いつつ、それでもしっかりと開けた指の隙間から盗み見れば、雪ちゃんはかなり際どい格好をしていた。
夜着一枚で、胸元も裾もはだけている。
思わずゴクリと喉を鳴らすと、彼女は俺の胸元にしなだれかかってきた。
自然と雪ちゃんが俺を見上げる形になる。
誘うような(実際に誘われてるんだけど!)上目遣いは、可愛い上に色気に溢れていた。

「……勘右衛門…?」

え〜、ちょっと待ってよ。
この場での名前呼びは反則じゃない?

これは罠だ。
分かってる!
分かってる、けど…。

「お願い、勘右衛門…」

切なく響いた彼女の声に、俺はたまらなくなって…

「雪ちゃん…!!」

ついに彼女を抱きしめていた。





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