とある世界の物語
第2幕
建物の中は地下へと広がる巨大実験場になっている。ここで行われている実験は十中八九新しい生命を生み出すためのものだ。
今回、サラはここで実験体として扱われている者達を保護し連れ帰ることを任務としている。
「ここか…」
一通りぐるっと施設を見まわりたどり着いた小部屋には、2人の少女と1匹の狼がいた。十代半ばに見える少女達は部屋の隅で震え、狼だけが警戒心あらわに唸る。
「フ――ッ!」
突然現れたサラを敵か味方をはかりかねているようだ。
サラは敵意がないことを無いことを示すために膝をつき手を差し出す。
「…もう大丈夫。助けに来るのが遅くなってごめんね」
サラの醸し出す雰囲気が今までのやつと明らかに違うことに気がついたのか、狼は唸ることを止めてサラにそっと近寄る。
サラは優しく狼の喉を撫でてやった。残る2人にも同じように手を差し出す。
「怯えないで…。あたしもあなたと同じだから」
「……?」
「一緒に変わろう。あたし達の『世界樹(ホーム)』へ」
怖々と不安げな瞳を向けた2人の手をサラはしっかりと握った。
「少しだけ目を閉じていてくれる?次に開けたとき、そこはもう『世界樹』だから…」
「…(こくっ)」
2人はそっと目を閉じる。サラがそれを確認すると、暖かな炎が二人を包む。
本当は目を閉じていなくても問題はないのだが、怖がらせてしまうだろうと配慮した結果だ。
熱も、もちろん痛みを感じないので、気づけば「世界樹」へと移動していることだろう。
あちらに着いた後のことは他のメンバーに任せておこう。
再び炎が消えた時には、2人の姿はそこに無かった。
「あの子達のところへすぐ送るから、あんたもおいで」
サラの言葉を理解したのか狼は大人しくサラの前に座る。
「…良い子だね。今まであの2人を守ってたんでしょ?ありがとう」
もう一度、サラが撫でてやると完全に体を預ける。
狼は暖かい炎に包まれて姿を消えた。
「……ん。後はここを片付けるだけか」
おもむろに立ち上がり両手を広げると、手を中心にまた炎が出現する。その炎は先ほどとは異なり地面に落ちると燃え広がり始める。
所謂、証拠隠滅だ。
誰かが資料を見つけて研究を引き継いでしまわないように、徹底的に消滅させる。
もっともそんな人物は現れないだろうが。
書類から書類へ。書類から床へ。そして、床から壁へ。
瞬く間に小部屋を侵食していく。
燃え盛る炎を一瞥すると、小部屋を出て廊下にも炎を落とす。それはまるで導かれるように各部屋へと散らばっていった。
サラは最も重要だと考えられる資料室に足を運ぶと容赦なくその部屋を赤く染める。
「わぁ…よく燃える。資料室なんて作ってさぁバカじゃないの?」
サラに同意するように、一際大きく炎がうねった。それが瞳に反射して赤くきらめく。
「まぁ別々に隠しても、ぜ〜んぶ燃えちゃうから意味無いけどね」
既にこの部屋の紙の束は殆ど燃やし尽くされ、塵となって消えた。それでもまだ炎の勢いは止むことなく天井に届きそうな勢いである。
遠くからゴウゴウと炎が燃え盛る音と共に、ミシミシと嫌な音も聞こえ始めた。
「ん〜そろそろタイムリミットか。支えの柱が崩れて埋まっちゃったら、ちょっと脱出は出来ないし…」
そう呟いたサラは灼熱の炎をゲートに「世界樹」へと速やかに帰還した。
2011 12/17
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