ハートの海賊団 オトす?オトされる? 仕事を終えていつもより遅く食堂に戻ると、思っていたよりもくつろいでいる人が少ない。 シャチやべポはともかく几帳面なペンギンまでこの時間に居ないのは珍しい。 「まだ仕事中かな…仕方ない手伝ってこよう」 ユエは踵を返して、甲板へと向かう。 当番表ではシャチとべポの担当だったはずだ。本当はいつもお世話になっているペンギンの手伝いをしたいのだが、しょっちゅうキャプテンから仕事を任せられることも多いので、どこにいるのか分からない。 「おお!良いところに」 甲板に出ると、シャチから声をかけられた。 なぜか甲板の端にしゃがみこんでいる。 「みんな何してるの?」 「お前も参加してけよ」 「だから、何を?」 「夕食一品をかけてレースだよ、レース」 なるほど。どおりで端にしゃがみこんでいるわけだ。 遊びなら確実にキャプテンのお叱りを受けるだろうが、雑巾がけレースならギリギリ許されるかもしれない。 もし許されなかったら全員で仲良くバラバラにされるしかない。 「ま、ペンギンもいるし大丈夫かな?」 「お叱りか?多分大丈夫だろ。鍛えてるし」 「勝ったやつは夕食も増えて一石二鳥ってことだ」 「…ご飯足りてないわけじゃないんでしょ?」 「雰囲気だよ雰囲気!優越感がな」 このレース参加してもユエにメリットはない。 勝ってもそんなに夕食は食べられないし、負けたら一品減るのだ。 「なぁここまで来たらユエもやるだろ?」 「いや、私は……」 「え〜やろうよ。楽しいよ?」 「自信ないんだろ〜?」 べポの屈託の無い笑顔とシャチからの挑戦状を叩きつけられてしまっては受けないわけにはいかない。 フォローは多々してもらうが賞金額の高さから一応、副船長という立場だ。 実質やりくりを担当しているのはペンギンであるが。 とにかく、格の違いというものを見せつけなくては。 「…そこまで言うのなら乗ってあげる。副船長の実力を舐めてるでしょ?」 「そう言えば、そうだった。何かと頼りになるのペンギンだから忘れてたな」 「…後悔しても知らないんだから!!」 スタート位置に立つ。 そこに来てから、審判が居ないことに気がつく。 「審判は?」 「ペンギンで良いだろ?」 「それじゃペンギンが有利じゃんか」 「…何してんだお前ら」 「あっキャプテン」 突然ローがユエの前に現れる。 事情を聞いたローは「おもしれェ」と審判をかってでた。 「俺は見てるだけだ。合図ぐらいはしてやるがな」 「なんかキャプテンに見られてると変に緊張しちゃいそう…」 「そうか。それじゃドべには罰ゲームを用意してやる。頑張れよ」 楽しそうに笑うキャプテン。この場合の罰ゲームは十中八九、能力でバラバラにされるんだろう。 ユエは今までバラバラにされたことはとりあえずない。 された人によると気持ち悪い感覚に襲われるらしいからされたくない。 もういっそのことバラバラ歴なしを貫きたい。 「準備はいいか」 「「アイアイキャプテン」」 それぞれ雑巾を構え、腰を下げスタート体勢に入る。 スカートの丈が気になるが気にしない方向で行こう。 「よーい……」 その瞬間、雰囲気が変わる。 戦闘の時のように真剣な表情を見せるクルー達。 中でもユエの変わりようは飛び抜けている。何時もの笑顔は消え、赤い瞳はゴールだけを映し出す。 「スタートッ!!」 若干ベポはフライング気味だが誰も気きかけない。ペンギンもシャチもユエもすぐ抜かした。 ダダダダダという音だけが響く。 「アダッ」 「私をバカにするからそうなるのよッ」 「悪いな先行くぜ!」 シャチの雑巾がつんのめってコケる。そのスキを逃さず、ペンギンとユエとべポまでも抜かしていく。 「やぁっ」 ラストスパートをだいぶ早い時点でかけるユエ。 グっと脚に力をいれ一歩も二歩も前に出る。 そのままペンギンとベポを置き去りにして、ぶっちぎりトップでゴールインする。 「やったぁ!一位、一位っ」 さっきまでの緊迫した雰囲気は消え失せていた。 無邪気なユエの笑顔が弾ける。 そして最後にシャチがゴールした。 「ま、マジで!?」 「うさぎの脚力舐めんなよ?」 「キャプテン〜」 「ククッ楽しみだな」 「ぎゃあああああ」 レースが終わった甲板ではシャチの悲鳴が盛大に響き渡った。 おまけ 「ほらユエこれやるよ」 「あ〜やっぱ気持ちだけでいいや。お腹いっぱいだもん」 「それならこれあげるよ。デザートならオヤツにでも食べられるよ」 「俺のもやるよ。甘くていらねェからな」 「ありがと!キャプテン、べポ」 ほのぼのになったかな…相変わらず笑いないし シャチの扱いひどいし ローメインとか言っといてほとんど出てきてない… す、すみません 2011 8/16 更新 [*前へ] |