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ハートの海賊団
望んだものは・・・
ハートの海賊団が久しぶりに島に上陸した日。
食堂では誰が買出しに行くのかを決める争いが勃発していた。
正確にはユエとシャチの争いが。


「嫌だよ。私は絶対行くから!」
「お前この前『次回はちゃんと船番する』って言ってたじゃないか!約束守れよ」
「だって、あの時は次の島がこんなに大きいなんて思わなかったんだもん」
「そのセリフ何回目だ!!」


ユエが大声を上げるたびフードのうさ耳がピョコピョコ跳ねる。
その様子は可愛らしく、ユエを妹のように思っているシャチは許してしまいそうになるがそうはいかない。
無意識ではあるがその手に何度引っかかったことか。


「だってここにならアレあるかもしれないじゃん。毎回手直しするの大変なんだよ!?分かってる?」
「じゃあ止めりゃ良いだろ!」
「そんなこと出来ないよ…!もういい!べポ行こッ」
「ぅえ!?俺!?」
「おいッ……まだ…」


シャチがなお口を出そうとするが強引にべポを連れ出すユエ。彼女は1人で行動することはまずない。


「好きにさせてやれ」
「キャプテンまでそんなこと言うんすか…!?」
「アイツの服へのこだわりへの強さは知ってんだろ?それにここは人一倍盛んな港だからな」
「シャチも行きたきゃ行きなよ。今回は船長と俺がいるから。…その代わりこれ買ってきてもらうけど」


ペンギンはシャチへとメモを渡す。その量は尋常ではない。
シャチはハッとしてべポを探すが、あいにくユエに連れ出されており不在だ。
仕方なく、他にクルーを数人連れ港へと出かけていった。


*****


「シャチ怒ってるかなぁ」
「キャプテンの方が怒っていそうじゃない?仕事してないんだし…」
「残念でしたぁー。仕事は終わってるもん」


港を歩く白熊とうさ耳は異様すぎて目立つ。
異国人が多い中でもダントツで目立っている。
そのなのを気にする様子もなく、ユエは目的のものを探して歩く。
港街では様々な店が出店している。闇市もちらほらと混ざっているようだ。


「付き合わせてごめんね、べポ」
「いいよ全然ッ。船にいても絶対荷物持ちに駆り出されるし」
「あ〜確かに。おっきいし力持ちだもんね」
「ユエあそこはどう?」


べポが指差す先は少し変わった洋服が並べてある店だ。
少しだけ離れた位置から洋服を見る。
突然変わった2人組みが現れたら驚かれるだろうからそれを配慮してだった。
その思惑とは反して、店主と思われる人物はユエへと声をかける。



「お嬢ちゃん変わった色をしているね。兎の耳がついているしまるで兎だ」
「まぁね〜。おじさんこんな感じの服置いてない?黒色の」


ユエは自分の今来ているうさ耳パーカーを指す。


「白じゃなくてか?」
「うん。黒じゃなきゃダメなんだ」
「う〜ん。どうだったかな」


店主は積み重なった服の山から服をとっかえ引っ変え取り出し「これじゃない」「これも違う」と戻していく。



「無かったら良いんだ。普通の黒色のパーカーでも」
「…おっ…あったぞ!二つあるな」
「ほんと!?」


おじさんが引っ張りだしたのは間違いなくうさ耳のついた黒いパーカーだ。
ちょっと丈が長い服とちょっと飾りの多い服だけれど、どちらも動きずらい程のものではないだろう。
ユエは喜んで飛びついた。


「これ頂戴!いくら?」
「お嬢ちゃん可愛いから安くしちゃうよ」


新しい服2つを1つ分の値段で手に入れたユエはもうテンションマックス、スマイル100%だ。
その破壊力はすれ違うものを一瞬で虜にするほどである。


「ユエ良かったね」
「うんっ。私はもう良いけどベポは欲しいものないの?」
「特に、ないよ〜。なんでユエはいつも帽子までしっかり被ってうさ耳を頭に乗せてるの?」


気になってはいたが、聞いてはいけないような気がして今まで聞けなかった。
ユエは一瞬寂しそうな表情を見せる。
だが、それもすぐに明るい笑顔に戻った。


「え〜?キャプテンだって帽子いっつも被ってるじゃん。それと一緒」
「まぁそうなんだけど…」
「それにこの方が可愛いでしょ?」
「被ってなくてもユエはかわいいよ?」
「……白い髪ちょっと隠せるし…」


ユエはフードを深く被り直す。髪と一緒に表情も隠してしまった。


「………」
「……」


二人の間に気まずい空気が流れる。
誤魔化しても、べポの野性のカンとでも言うべきものが違和感を訴えていた。
べポの滅多にない沈黙にユエは耐えられなかった。
小さな声で「内緒よ」と釘を刺してからポツリポツリと話し始めた。


「……私は、大きな罪を犯したから。許されない、忘れちゃいけない罪を。だから…だから、『戒め』なんだよ…。ただの私のワガママ、かもしれないんだけど」


その声は微かに震える。
嫌われるかもしれない。それは何よりユエが恐れていることだ。
それでも、全員に嘘を付き続けることもいけないことだと理解していた。


「ユエは悪い人なんかじゃないよ…」


べポの否定にユエは首を横に振った。
まだ視線を下げたままで、相変わらず表情は隠れている。


「私は…皆が思ってる程いい子じゃない。悪い子なんだよ…。だって罪を償ってないッ。ここで平和にのうのうと生きてる…!」


今までずっと内に溜め込んでいた思いを吐き出す。
言い出したら止まらない。もう自分では止められない。


「…私の過去を、罪を知ったら、きっと!嫌われちゃう…!!皆に捨てられちゃう…!!」


べポを見上げ、ポロポロと涙を零す。
普段は決して泣かないユエ。それはもう止められない彼女の恐怖であり、本心だった。


「ユエ落ち着いて…?大丈夫誰もユエのこと嫌いになんかならないよ、ね?」


べポは涙が止まらないユエをそっと抱き上げる。
ユエは体を埋まるようにぎゅっと掴まった。


「帰ろ?」
「…う、ん」


優しく抱きしめてくれる、おっきくて優しいべポの体温が心地よかった。
受け入れてくれているようで。許されるような気がして。


「ごめんね…ありがとう」


ユエは口パクでウタを口ずさむ。
瞳からはまだ涙が止まらない。


『ある村の 白い白い白うさぎ

 ある日アイツに操られ 大罪犯した白うさぎ

 黒く赤く染まってく 罪の色に染められた

 愛なんて最初から知らないの 普通なんて知らないの

 正しいことさえわからない

 それでもまだ救われますか? 生きる場所はありますか?』


「すーすー」
「寝ちゃったの?」


気が付けば、ユエは穏やかな寝息を立てて眠りについていた。


おまけ

「ただいま〜キャプテン」
「何だ寝てんのか?」
「うん。疲れちゃったみたい。……ねぇキャプテン」
「あ?どうした」
「ユエを守ってあげてね」
「ハッ当たり前だろ。言われなくても、こいつのことはクルー全員が守ってんじゃねェか」
「そう言われればそうかも!」


おかしいな…ほのぼののはずがシリアス気味に…
ローほとんど出てこないし。
この物語はどこへ向かう…?(人に聞くな)
色々おかしくても目を瞑ってください…!
2011 8/14 更新

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