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長編ホラー
第三者の視点
「…?」


ブン太が目を覚ますと不思議な浮遊感に襲われた。
いや、その表現は正しくない。
実際にブン太の体は空中に浮いていた。

「は?いったいどうゆうことだよ」
「……ん、ブン太…?」
「2人とも起きましたか?手、離しますよ」


日吉は二人とも起きたのを確認すると手を離した。
落ちるかと思ったがそうでもないようで、体は今だ空中に浮かんだままである。


「…え?きゃっ落ちる!落ちちゃう!!」
「落ちないですから、落ち着いてください」


目覚めたての夜風は状況が理解できず、日吉にしがみつく。
離せ、とは言われてないので取りあえずその状態のまま、一度周りを見渡した。


「ここって氷帝の校舎…?」
「そーいや、さっきのとこと似てるきがするぜぃ」
「そうです。ただしここは初等部。かつて夜風さんも通っっていた校舎ですよ」
「あー…。なんか見覚えがあるような、ないような」


初等部の校舎は既に人が下校したあとらしく、特に人は見当たらない。
時計は4時過ぎを差している。


「懐かしいなー。小学生の頃はいち早く帰って遊んでたっけー」
「遊ぶ前に宿題しなさいよ…」
「…2人とも今の状況分かってます?」
「これ、透けてるよね…霊体?触れるけど、痛いかな…?」
「話聞いてます?試しましょうか?」
「いえ、遠慮します…」


夜風だけじゃない。ブン太も日吉も体は半透明だ。
おまけに天井付近から下を見下ろすような感じで浮いている。
霊体もしくは、思念体みたいな感じだろうか。


「ここは過去です。ほら、あそこに俺たちが居ます」
「あれ日吉?小さいなお前。んで、隣ってまさか…」
「私!?小さい?めっちゃ小さくない?私年上なのに」
「今も小さいだろぃ」
「…夜風さんが4年生で俺が3年生です」
「あれー?なんか引っ張られる?」


夜風の体が若干、あの小さい過去の夜風の方へ引っ張られている気がする。
日吉も引っ張られる感覚に襲われているようだ。
だが、ブン太はそんな感覚に襲われて居ないらしく一人首をかしげている。


「これこのまま自分の体?行ったらどうなるの…?」
「俺も実際体験するのは初めてですから推測ですけど…自分の中から『見る』感じになるんじゃないですかね」
「…それさぁー俺は?俺ずっと天井から見てんの?」
「そうなるんじゃないですか?」
「なんか扱い雑…」
「あなたは予定に無かったので諦めて下さい」


そうこう話している間にだいぶ引っ張る力が強くなってきている。
そろそろ抗うのもきつくなってきていた。


「最後に忠告しときます。俺たちが過去の自分たちに入った時、『今』の意識があるかどうか分かりません」
「過去の自分に意識持って行かれるってこと?」
「そうです。でもこれは既に起こった過去で、当事者は過去の自分。俺たちはこの世界に干渉を許されない第三者であるということを忘れないでください」
「…うん」
「覚えているかどうか、分かりませんけどね」


過去に何があってもそれはもう変えられない。
この先、自分達に何があったのか自ずと知るだろう。
それはとても悲しい事実を含んでいることは間違いない。
それでも全てを知らなければならないのだ。


「って待て待て。少しは俺に状況を説明していけ」
「その時間は無さそうです。過去の俺たちと一緒に体験していけば良いんじゃないですか?」
「日吉、俺に対して態度冷たくね?」
「…気のせいです。じゃあこれだけ言っときます。あの日の俺は七不思議を確かめに来たんです」


なんとも日吉らしい。
彼はどうやら当時から七不思議だの、妖怪だのが好きだったようだ。
一人で確かめれば良いものの、なぜ夜風まで居るのか。


「なんで私も居るの。絶対帰るわ、そんなの」
「無理やり引っ張ってきたんですよ。年上なのに怖いんですか?って」
「あーなんか想像出来るわ」
「でも、夜風さんが来ることは必然だったような気もしますけどね。無駄話もそこまでにして、行きますよ」

* * * * *

「あ。消えた…」
「どうした精一」
「いやね、夜風に飛ばしてた使い魔が対象を見失ってるんだ」
「そう、か…は?もう一度言ってくれないか」


幸村がしれっと「使い魔」なんて言葉を使うものだから柳は受け流してしまいそうになった。
彼は一体今なんと言った。


「だから使い魔だよ。そんなに立派なやつじゃないけどね。見張りくらいしか出来ない」
「俺の記憶が正しければ、ミーティングで昨日の今日じゃ流石に無理、だと言っていなかったか」
「…言ったような気がするね。焦らしたら悪いだろう?」


既に幸村は自分の力に気づいていた。
『使役』の能力に目覚めたのに気づいたのは良かったがまだ慣れておらず、練習がてら夜風に使い魔を飛ばしていたのだという。

「もう少し慣れたらもっと使えるヤツも使役出来るんじゃないかな、楽しみだ」
「消えたと言ったな。夜風はそのままで良いのか?」
「んーどうやら魂が異次元に行ってるみたいだから、俺らがどうこう出来るものじゃない。恐らく…日吉が何か知ってたんだろうね」
「…確実に一歩踏み出しているな」
「ふふっ俺たちを敵に回す恐ろしさを見せてやろう」




短め。
この先はブン太の出番はほぼないでしょう…!
小さい日吉が頑張ります

2012 10/20 更新

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