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長編ホラー
記憶の欠落
氷帝の校舎に入る前、夜風更新ふと気になって横を見た。
そこにはただ校舎が広がるばかりではあったが何となく引っかかった程度だ。


「そっちは初等部の校舎です。何か気になるんですか?」
「あ、いや何でもない。ちょっと周りを見ただけ」
「…そうですか」


日吉のその言葉に少しの落胆が見て取れたのは気のせいだろうか。
初等部の校舎。
氷帝に行ったことなどないのに少し見たことがあるような気がしたのはとても可笑しな事だ。
あそこに何かがあるんだろうか…?


「どうぞ、入ってください」
「うわぁどこまでお金かけてんの?お前ら」
「これでも名門お金持ち校なので」
「ど、どうしよう。なんか緊張する…」


高級そうなソファへと恐る恐る腰掛ける。やはり高いものらしく座り心地は素晴らしく良いものだった。


「それで、今日は何を聞きに来たんです?」
「あー単刀直入に聞くけどよ。お前は妖怪や幽霊は信じるか?」


ブン太がそう質問すると日吉の雰囲気が変わったのが夜風にも分かる。
日吉は一息つくとジッとこちらを見つめた。


「そうですね、七不思議を検証するくらいなんで。一度や2度くらい正解を引いたこともありますよ」
「正解ってまさか…」
「本物、です。こちらも単刀直入に聞かせて頂きますが…」


その後日吉が発した言葉はあまりにも夜風達の想像を超えていた。


『死神』と出会ったんですね?


一瞬息が止まった。その場の空気の温度が下がっていくのを感じる。夜風の背中を冷や汗が伝った。


「……っ!?」
「なんでお前が知ってるんだ…」
「やはり、そうですか。ほんとはこんな日が来ないことを祈っていたんですが、本当のことを言うしかないようですね」


日吉は一体何を知っているというのか。
本当のこと…?
どうして接点もない彼がそんなことを…


「夜風さんは小さい頃の記憶が無いですよね?小学校高学年以前の記憶はあやふやでしょう?」
「…え?あ、うん確かにそうだけど…」
「その記憶はあなたの両親が封印したんです。幼いあなたが闇に囚われてしまわないように」
「待って!私の両親は…」


そう両親は向こうの世界に存在している。
あの人たちはいたって普通の人でそんな能力なんであるはずも無い。
隠していたとしてもさすがに何年も欺き通すことなんて出来るだろうか…。


「あの人たちは普通の人だよ!?そんなこと出来るはず、ない」
「俺にはその人たちのことは分かりませんが、その人たちは替え玉であって本当の両親じゃないです」
「は?待てよ。なんでそんなこと分かるんだよ」


夜風もブン太も頭の中は疑問だらけだ。
日吉は一呼吸置いて、話を続ける。


「俺はあなたの本物の両親を知っている」
「…証拠は」
「記憶の欠落。それを取り戻せば全て理解できるはずです」
「もし、私がこの世界の住人なら両親は私のこと放っておくの…?」
「きっと本当なら迎えに行きたいと思いますよ…今あの人たちは狭間の世界に居てここへは来られないんです」


この話を信じて良いのだろうか…。
日吉君は最初から私を知っているような素振りを見せた。この真剣な話で嘘をつく必要性も感じられない。
ならば彼の言っていることは本当のこと。


「どうして日吉君はそこまで知ってるの?」
「頼まれて居たんです。もしまた『死神』が来てもきっと私たちはあの子を助けてあげられないから、もしあなたのところへ来たら事情を話すように、と」
「じゃあ、アイツの倒し方も知っているの?」
「それは俺も知りません。当時俺も幼くてまだ理解していないことも多かったので」


有益な情報を聞けるかと思った夜風は明らかに落胆する。
ブン太も真剣に考え込んでいるようだった。


「記憶取り戻しますか…?」
「その方法は知ってるの?」
「はい、これが一番頼まれていたことです。心の準備が出来たら俺の手を握って下さい」
「なぁ、それ俺も知れないのか?何かわかることがあるかもしれないだろぃ」


完全に置いてけぼりを食らっているブン太としては何か面白くない。
そんなこと言っている場合じゃないのは百も承知だが、それでも面白くない。


「…どうでしょうね。知ることは出来ると思いますよ、一応」
「じゃあ俺も行く!過去覗くけど許してくれよ!」
「あっうん」


三人で手をつないで円になる様子は傍から見ればおかしいかもしれない。
手をつないで日吉が何かをつぶやくと、体の中から浮遊感が漂ってくる。
それに身を任せ目を閉じると、意識を完全に手放した。



久々の更新。
中々更新できずすみません。
この先どうなるんだろう…私にも分かりません

2012 8/27

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あきゅろす。
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