進撃の巨人 6話【次はあなたを倒します】 「痛ッ・・・・・・しみる・・・・・・」 生傷の多い腕にお湯がかかった。 「う〜・・・・・・」 全身を睨みながら、慎重に湯につかる。 「さすがに疲れた・・・・・・」 体を伸ばしながら、ウィルは朝の特別訓練の事を思い出していた。 「森の中を逃げるのですか・・・・・・?」 早朝、人類最強と謳われるリヴァイの前で、ウィルは訝しげに聞き返した。 「そうだ」 「何のために・・・・・・」 巨人討伐とは関係なさそうな訓練の内容に、内心首を傾げるウィル。 「壁外調査では、森の中に入る事は少なくねぇ。お前にはまず、危機察知能力、観察能力を身につけてもらう」 「危機察知・・・・・・」 訓練内容を説明しているだけの今のリヴァイにも、ウィルは危険を感じているわけだが・・・・・・。 「俺に見つかった瞬間から対人戦を開始する」 ――対人戦・・・・・・人類最強と。 昨日エレンが言っていた事、目の前にいるこの男が調査兵団・・・・・・否、人類で最強なんだと。 「――負けません」 力強く言ったウィルに、リヴァイは内心楽しんでいた。 「開始するぞ」 その一言を聞き、ウィルは地面を思い切り蹴った。 「森は・・・・・・得意!」 昔から狩りの為に駆け回ってきた場所だ。街中や平地などでやるよりは、よっぽど分が良い。 暫く駆け抜けていると、前方に大きな木が見えた。 「木登りもあり、だよね・・・・・・?」 ニヤリと笑いながら太い幹に手をかけると、慣れた様子で上って行く。あっという間にてっぺんまで登ると、辺りを一望してみる。 「いない・・・・・・」 周辺にリヴァイの姿はない。 一息つきながら木の幹に耳をつける。 ――この〜木何の木・・・・・・。 心の中で歌いつつ、自分の胸にぶら下がっている十字のネックレスに目向ける。 「・・・・・・」 シヴァの形見であるそれを見ると、どうしようもない虚無感に襲われる。 底の見えない暗闇に足を引っ張られるような感覚を感じ、ウィルは我に返ったように顔を上げた。 早くなった心臓の音と混じり合うように聞こえてくる音に気付き、慌てて後ろを振り向く。 「え!?」 ――目の前には、リヴァイの腕が迫っていた。 「うわぁぁあ!!」 首を抑え込まれバランスを崩したウィルは反射的に腕を伸ばす。尖った枝が右腕に刺さり、そのまま無理やり引っ張ると、新品の服はあっさりと切れてしまった。 幹の上から落とされ、地面に背中が付くギリギリの所で態勢を立て直す。そのまま急いで後方に飛び退くと、読んでいたかのようにリヴァイは距離を詰めてきた。 「ッ!!」 もの凄い早さで繰り出される拳を、やっとの思いで受け止めつつ、反撃の手を必死に考える。 ――負けたくない・・・・・・負けたくない! 伸ばされたリヴァイの腕を掴み背負い投げの体制に入るウィル。 「ぐっ!」 歯を食いしばりながらリヴァイを持ち上げようとするも、予想以上の重量に、思わず目を見開いた。力の弱まった一瞬を、見逃すようなリヴァイではない。 「余計な事を考え過ぎだ」 冷ややかな声が耳に入る。 「あ」 逆に持ち上げられたウィルの体は、抵抗も空しく地面に叩きつけられた。 「しっ・・・・・・死ぬ・・・・・・」 世界が反転し、視界には自分を見下すリヴァイの姿と、眩しい輝きを放つ太陽が見えた。 「身体能力は高いが・・・・・・余計な事を考え過ぎだ」 反論のしようのない評価に、ウィルは肩を落とした。 「立てるか」 「・・・・・・どうも」 仰向けに倒れているウィルに手を差し出すと、子供のように唇を尖らせていた。 ――負けず嫌いか。 第一印象と異なるウィルの姿は、104期生を彷彿させる。 「立体機動が使えるようになったら使わせてやるよ」 「・・・・・・立体機動をマスターして、次はあなたを倒します」 「ほう」 強い意志を持って言われた言葉に、嘘は無い。 「それには急いだ方がいい。朝練の時間を大幅に延ばしちまったからな」 その言葉に、顔を青ざめさせるウィル。次の瞬間にはすごい速さで走り出していた。 「・・・・・・キースが驚かなければいいが」 鼻血を垂らした状態で走り出したウィルを見て、リヴァイは呆れたように呟いた。 [*前へ][次へ#] |