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進撃の巨人
4話【迷惑はかけたくないので・・・・・・絶対。】

早朝、ウィルは着なれたYシャツを丁寧にたたみ、先ほど届けられた訓練兵団の服を見ていた。
――自由の翼じゃないのか・・・・・・。
背中や腕の紋章を見て若干ガッカリしつつも素直に袖を通した。
毎朝の日課である『ある事』をしようと柱に近づいたウィルは、部屋の隅の柱を見て動きを止める。
「身長が測れない・・・・・・!」
どうしようもない現実に、ウィルは茫然と立ち尽くした。





















厳しい現実を痛感したウィルを待っていたのは、立体機動の訓練だった。前方に見える訓練用の装置を見て、胸が高鳴るのを感じる。

「ッ!?」
後方から、大きな足音が聞こえた。驚いて振り向いてみると、スキンヘッドの大柄な男がこちらを見下している。

「貴様がウィル・アルバードか!」
「・・・・・・」
初対面の人間と一対一で対峙しているせいか、極度の人みしりのウィルは、しばらく無言で立ち尽くしてしまった。
――何か・・・・・・何か言わなきゃ!
「ウィル・アルバードです!目に物を見せてくれる!」
緊張と焦りからか突拍子もない事を言ってしまった。面喰ったような男は、凶悪そうな鋭い視線をウィルに向けたまま硬直する。自分が何を言ったのかようやく理解したウィルは、慌てて次の言葉を探した。

「・・・・・・そうか。では早速見せてもらおう。私は教官のキース・シャーディスだ!」
ウィルが次の言葉を言う前に、キースが口を開いた。
――やってしまった・・・・・・。
顔を青白くさせながら、訓練装置の元へと走る。

キースの指示通り、両側の腰にワイヤーを繋いだ。
「その状態でただ直立すればいい」
「直立直立直立直立直立・・・・・・」
緊張のせいか同じ単語をひたすら繰り返すウィルに若干圧倒されつつも、装置に手をかけた。
「上げるぞ!」
持ち上げられるウィルを見て、キースはまたしても驚愕した。


































「ウィル・アルバードです・・・・・・ヨ、ヨロシクオネガイシマス」
目の前に座るエレンにカタコトな言葉で自己紹介するウィル。人みしりのせいか、視線を下に向けていたウィルだったが、急に訪れた沈黙に耐えられず、エレンの方を向いた。
当のエレンはというと、翡翠の瞳を大きく開き、驚愕の表情を浮かべている。
「いやそれよりお前・・・・・・どうしたんだよその顔!?」
衝撃的な顔面をしたウィルに、エレンは思わず叫んだ。

指摘された顔と言うのは額の事で、赤紫色の大きなこぶが彼女の前髪を持ち上げていた。
「これ・・・・・・は・・・・・・」
額を摩りながら、怪我の原因である立体機動の訓練の事を思い出した。
     
     ・
     ・
     ・

〜回想〜
「直立、直立、直、立ぅ・・・・・・!!」
「き、貴様は・・・・・・」
両手を広げてひたすら『直立』と言い続けるウィル。
「貴様は生まれたての小鹿かぁぁぁあ!!!」
そんなウィルに、キースは絶望的な表情で声を荒げた。
「え!?ぎゃぁあ!!」
突然のどなり声に驚き、ウィルは顔面を叩きつけるように倒れた。

「痛ッ」
額を固い地面に打ち付け、軽い脳震盪を起こす。訓練装置から外された足は、力み過ぎたためか上手く力が入らないでいた。
「もっ・・・・・・もう一回・・・・・・」
「とりあえず医務室へ行け・・・・・・」
     
     ・
     ・
     ・

「医務室の場所が分からなかったから・・・・・・昨日エルヴィン団長に指定されたココに来たんです」
一通り話し終わると、ウィルはふう、と一息ついた。
「そう言う事だったのか・・・・・・。それにしても懐かしいなぁその訓練。104期じゃ俺だけ出来なかったんだ」
104期、というのはエレンたちの訓練兵団の事らしい。

それなら自分は第何期になるのだろうなど考えつつ、ウィルはハッとしてエレンに聞く。
「あの・・・・・・どうやって立てるようになったんですか?」
「俺の場合は・・・・・・もともと部品が壊れてて、装置を取換えたら普通に出来たな」

その言葉を聞いて、ウィルは冷や汗をかいた。
――私のは、壊れてなかった気がする・・・・・・。
うつむくウィルに対して、エレンは不思議そうに口を開いた。
「お前の場合は、足に力入れ過ぎなんだよ多分」
「そう言えば・・・・・・」
思い返してみると、直立する事に必死で、体・・・特に足は力が入り過ぎていたように思う。
「ありがとう・・・・・・明日もう一回チャレンジしてみる」
「おう!」








「ごめんね!遅くなっちゃった!」
ウィルとエレンが、訓練兵団について色々な話をしていると、ぺトラがドアを開けて入って来た。
「ッ!」
ぺトラに続いて入ってくる4名を見て、落ち着いて来たウィルの心臓が、再び音を立て始める。

どうしていいか分からず固まっていると、ウィルの横にリヴァイが腰を下ろした。
――どうしよう!とりあえず笑顔を・・・・・・。
「おい何ニヤニヤしてやがる」
「ごめんなさい」
――無表情でいよう。
「まぁいい。単刀直入に言おう。今日からコイツもこの班で預かる事になった」
驚いた様子の全員を見て、ウィルは慌てて立ち上がる。
「ウィル・アルバードトモウシマス!ヨロシクオネガイシマス!」
またもやカタコトになりつつも、凄い勢いで頭を下げた。

今日何度目かの沈黙が訪れる。焦って顔が上げられないでいるウィルに対して、我慢できないと言った様子で、ぺトラが口を開いた。
「もーー我慢できない!一体どうしたのよその顔!!?」
「それ、俺も聞きたかったんだ!」
ぺトラに続いて、エルドも笑いを必死に堪えながら言う。
オルオとグンタにも詰め寄られ、上手く言葉に出せないでいると、エレンが助け舟を出した。
「立体機動の訓練で思いっきり転んだらしいですよ」
その瞬間、4人が同時に噴出した。

漸く笑いが収まると、これからよろしくと言ってからエルドとグンタが出て行った。
「まぁ分からない事があれば俺に聞きな。メンドクセェが教えてやるよ」
「ハイハイ。こんな上から目線のヤツ放っておいて私に聞いてね!」
ぺトラも、何か言いたげなオルオを押して部屋から出た。
「俺達も戻るか」
「うん」
「待て。」
部屋を出ようとした二人は、リヴァイの一言で動くのをやめる。
「ウィルは少し残れ」
「え・・・・・・」
慣れていない人間と二人きりになる事を恐れ、反射的にエレンを見る。エレンは大丈夫だ、と小声で呟き部屋を出て行った。

「なん、でしょうか・・・・・・」
エレンが部屋から出たのを見てから、ウィルはリヴァイの方向に向きなおった。立ち上がるリヴァイを見て、背筋に冷たいものが伝う。
――来るな来るな!
段々と近づいて来るリヴァイに恐怖を感じ、思わず迎撃態勢を取った。
「あ?対人格闘でも習ったか?」
そう言うと、リヴァイは一気に距離を詰めた。

「――ッ!!」
驚いたウィルは、目の前にあるテーブルに飛び乗りリヴァイから距離をとろうとした。
「甘ぇな」
「わっ!?」
テーブルから降りようとしたウィルの足を掴んだリヴァイ。足の自由が利かなくなり、上半身だけがテーブルから落ちた。そのまま近くにあったイスに額を強打するウィル。

「ぎゃぁっ!!」
訓練中に作った傷を再び強打したウィルは悲痛の声を上げた。
「手間かけさせやがって」
おとなしくなったウィルの足を、リヴァイは自身の方へと引いた。
「落ち着いて話も出来ねぇじゃねぇか」
「え、話ですか・・・・・・?」
「他に何がある」
――殺されるのかと思った。
内心失礼な事を考えつつ、漸く大人しくなった。

「失礼しました・・・・・・それで、あの・・・・・・?」
警戒心むき出しで問いかけるウィルに、リヴァイはため息をついた。
「エレンとはすぐに親しくなっていたようだが・・・・・・」
小さく呟いてから、テーブルの上にうつ伏せで倒れているウィルを起こした。
「・・・・・・ありがとうございます」
――意外に優しい・・・・・・。
ぶつけた額を摩りながら、リヴァイと向き合うように座り直した。

「その傷・・・・・・訓練中に落ちたそうだな」
「キース上官、に聞いたの、ですか?」
「あぁ」
途端に恥ずかしくなった。自分の失敗談と言うのは、人に聞かれて面白いモノではない。
「もう・・・・・・失敗はしません。兵団の皆さんに迷惑はかけたくないので・・・・・・絶対。」
珍しく強い口調で言うウィルに、リヴァイは若干驚いた。
「そうか・・・・・・」
そして、少し考えるようにしてからこう切り出した。
「明日の早朝から、俺が直々に指導してやる」
「え」
「訓練を手伝うと言ったんだ」
「あの」
「話は以上だ。それとも・・・・・・」
鋭い視線をまっすぐウィルに向けて言い放った。
「不服か?」
「滅相も御座いませんッ!!」
圧倒的な威圧感のあるリヴァイの声を聞いた瞬間、ウィルは必死に首を縦に振っていた。

















































































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