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進撃の巨人
2話【入ります】

全身を駆け回る鈍い痛みで目が覚めた。
「ここ、は・・・・・・」
視界に映った知らない天井に、不安を覚えながらも辺りを見回す。

「あ!気が付いた?」
突然聞こえた声に驚き振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
「私はぺトラ・ラル。待ってて、今皆を呼んで来るから」
人の良い笑顔を浮かべたぺトラはウィルにそう告げると部屋から出て行った。

状況が理解できずにいると、自分の体の異変に気づく。
――何これ・・・・・・。
体中に巻かれた包帯に眉を顰めていると、先ほど閉じられたばかりの戸が開いた。

ゆっくりと視線を移すと、ドアの付近には、見覚えのある服に身を包んだ人達が、独特の雰囲気を纏って入ってきた。
―――調査兵団!?
一度だけだが壁外調査に向かう調査兵団をウィルは見たことがあった。彼らが壁を越えて、自由な世界に出て行く所を。

茫然としているウィルに一人の男が声をかけた。
「私はエルヴィン・スミス。君の名前は?」
ウィルと目線の高さを合わせるようにしゃがんだエルヴィンは、真剣な眼差しで口を開いた。
「あ・・・・・・ウィル・アルバードです・・・・・・」
調査兵団が自分に何の用かと考えていると、それに気づいてかエルヴィンは語り出した。

「単刀直入に聞こう。君はどうして巨人の弱点を知っていたんだ?」
「弱点・・・・・・?」
何の事か分からず聞き返すと、鋭い目つきをした小柄な男が口を開いた。
「エレンの話によるとテメェは巨人の腕によじ登ってうなじを削いだらしいじゃねぇか」
鋭い視線を向けられてウィルは一瞬ビクリとし目を逸らすも、すぐさま視線を男に戻し真っ直ぐ射抜くように見た。

「ほらほらリヴァイ!ウィルが怖がってるじゃないか!初めまして。私はハンジ・ゾエ宜しくね!」
険悪な空気が二人の間を包もうとした時、眼鏡をかけた人物が口を開いた。

ハンジはウィルの手を握ると、上下にブンブンと振る。
「おいクソメガネ。今はこのガキと親交を深めている場合じゃねぇだろ」
リヴァイと呼ばれた男は、鋭い視線をウィルに向けたまま茶を飲んだ。

「話を戻そう。君は自分が巨人を倒した事を覚えているか?」
再びエルヴィンが口を開いた。
「巨人を・・・・・・」
気を失う前の事を思い出そうとすると、目の前で肉片へと変わっていった恩人の姿がフラッシュバックした。
――そうだ、おばさん、死んじゃったんだ。

最愛の人の、死。実際に起こった出来事として理解は出来ている。出来ているはずなのだがーー目の前で見たはずの彼女の最後が、どうしても思い出すことが出来ないのだ。ただひたすらに虚無感に侵される身体はこれが現実だと伝えているのに、どこかで落としてしまった記憶のせいで今までの事は全て夢だったのではないかとすら考えてしまう。それでも、自分の胸元で毅然と輝く銀の光はシヴァの遺品だであると分かってしまって。ウィルは今自分がどこにいるのか、よく分からなくなっていた。

そんなネックレスをぎゅっと握りしめ、質問に答えた。
「巨人の弱点がうなじだと言うのは、今初めて知りました」
エルヴィンは驚いたように目を見開く。
「でも・・・・・・気が付いたら体が勝手に動いていました」

しばらく沈黙の続く室内で、ウィルは内心焦っていた。
――これだけを聞くために、こんなに人が集まっちゃったのかな・・・・・・。
どうするべきかと悩んでいた時、沈黙を破ったのは意外にも目つきの悪い小柄な男ーーリヴァイと呼ばれる人物であった。
「エルヴィン。テメェはそんな事を聞くために、団長自らこんな時間まで待っていたのか?」
団長と言う言葉に、ウィルの心臓が大きく脈打った。まさか、憧れの調査兵団の団長と合対することになろうとは、夢に思っていなかったのだ。

「いや・・・・・・では、ウィル。長々と話すのはやめてこちらの提案だけ先に述べようーー私と取引しないか」
「取引・・・・・・?」
「調査兵団に入って欲しい」
その言葉を聞いて、今まで下がっていた視線が上を向いた。
「え・・・・・・?」
「巨人を素人が倒すなんて、偶然で片付けられるような事じゃない。君には兵士の素質がある。君がもし、調査兵団に入ってくれるなら、君の生活の全ては保障しよう」

突然、選択を迫られた。
調査兵団としてこれからの人生を送っていくか。それとも、壊れてしまった日常に戻り、この人生に終止符を打つのか。

ーー調査兵団。
税金泥棒だなんだと言われている兵団。壁外に行く為か、犠牲者が最も多い兵団。――自由な世界へ行くための翼を持った、兵団。
「私・・・・・・」
答えは――
「入ります」
ーーイエスだ。
この籠の外に出られるなら。選択の余地など、ない。
―――帰る場所がないのなら・・・・・・せめて、鳥籠の外に・・・・・・!!

「ほう・・・・・・」
自由への強い意志を持ったウィルの瞳を見て、リヴァイは一言呟いた。



「悪くない。」







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