進撃の巨人 9話【今日は・・・・・・イケる気がします】 「今日は・・・・・・イケる気がします」 まだ訓練の始まっていない早朝に、リヴァイと対峙したウィルは立体機動装置のアンカーをブンブンと振り回して言った。 「毎回そう言っている気がするが・・・・・・まぁいい」 寝癖を付けネクタイも曲がっているウィルとは対照的に、身支度が完璧に整えられたリヴァイは若干呆れ気味にウィルを見る。 「今日から立体機動装置を使用する。テメェは俺を叩き落とすつもりで来い」 「了解、です」 軽い身のこなしで飛び立つリヴァイを見て、ウィルは小さくもらした。 「早っ・・・・・・」 30秒数え終えたウィルはリヴァイを追いかけるために飛び立った。たいして時間はたっていないというのに、リヴァイの姿はすっかりかき消されている。 「いない・・・・・・」 辺りを見回しながらブレードを握りなおすウィル。背中に冷や汗が流れるのを感じつつ、浅い呼吸を繰り返す。 「油断したらヤラレル・・・・・・」 前回の早朝訓練で、注意確認を怠ったウィルは腹部にリヴァイの蹴りをくらった。その事を思い出すだけで全身から血の気が引いていく。 大木にアンカーを打ちこみ、木の上に降り立った。目をつむり聴覚を限界まで研ぎ澄ませる。 ウィルは耳が良い。長年の間、森の中を駆け回って来た彼女だからこそ聞き取る事の出来る、微妙な音の違い。自然界では発する事の出来ない――微かなガス音。それが聞こえる方向に行けばリヴァイはいる。 ――今日は勝てる!! 珍しく口元に弧を描きウィルは再び動き出した。 「いた・・・・・・!」 前方に見える人影に、ウィルは小さく声をあげた。装置を巧みに操りスピードを速める。 全身が風を切るのを感じながら、ウィルはブレード構えた。後ろを軽く見たリヴァイはウィル同様速度を上げる。 「負けない・・・・・・!」 さらにスピードをあげて距離をつめる。あと少しで届くという所で人類最強が動きを見せた。 「ぅ、わ!」 急激に方向転換したリヴァイの顔が、眼前に迫って来た。 そのまま振り上げられたリヴァイの腕がウィルに直撃する――はずだった。 「っっ!」 ウィルは反射的に上半身のみを後ろに思い切り反らし、顔面への直撃を免れたのだ。バランスを崩し、そのまま回転しながら下に落ちていく。 「痛っ!」 顔面を地面に打ち付け軽い脳震盪を起こす。じんじんと痛む額を押さえながら立ち上がると肩を蹴られた。踏ん張りが利かずに後ろに尻もちをついたウィルは、自分を蹴った男を見た。 「残念だったな。今回もお前の負けだ」 冷ややかな眼差しで自分を見下してくるリヴァイを見て、ウィルは悔しそうに唇をかんだ。 視線を下に向けて俯いているといると、ウィルの頭に手が置かれた。 「・・・・・・?」 不思議に思い目線を上げると無表情のリヴァイの手が自分の頭へと伸びている。 「最後まで気を抜くなと言ったはずだ・・・・・・だが、あの反応は悪くねぇ」 ぐしゃぐしゃと、乱暴な手つきで頭を撫でられ、ウィルは意外そうにリヴァイを見た。 「ありがとう、ございます・・・・・・」 ――兵長は厳しい所もあるけど・・・・・・良い人だからな。 目を輝かせながらそう言っていたエレンを思い出す。 「意外だ・・・・・・」 「何か言ったか?」 「いえ何も・・・・・・」 静かに目を反らし、今日の早朝訓練は終わった。 [*前へ][次へ#] |