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鬼灯の冷徹
6話:【EU地獄にて】

予定外にEU地獄へ赴くことになった。今日の分の仕事を出来る範囲で終わらせておこうと思い、自室の戸を開ける。  
「む・・・・・・ほーずきさん・・・・・・?」   
何故か彼女は廊下の中央に立っていた。と、同時に。 
「わわっ、なんです急にー・・・・・・?」 
寝ぼけているのか、言葉に全く覇気がない高槻の手を引っ張った。    
――全く。
(何ですかはこっちのセリフです)
と心の中で呟き、私は高槻を見た。

寝ぼけ眼の影響かいつものツリ気味の二重は何処かへいっているようだ。寝起き特有の垂れ目を気だるげに動かしている姿は小動物を連想させる。長すぎる袖口からは手が出ておらず、引きずってしまうのが嫌なのか、裾の部分をたくし上げていた。
「危機感を持ちなさいと言っているでしょう」
もしも今の高槻の姿をあの淫獣が見たのなら、一瞬にして押し倒していただろう。いや、アレに限った話ではないか。         

そのまま自分の部屋に高槻を引っ張り込み、ドアを閉める。       
「なんですかー・・・・・・?」
後で高槻をからかう用に何枚か写真を撮った後、何故か立ったまま二度寝しようとする高槻の頭を叩いた。        
「うおっ!ビックリした!!鬼灯さん!?何でアンタがココに・・・・・・何処!?」         
どうやら意識が覚醒してしまったようだ。彼女は一瞬にして私の部屋を出て行った。










朝一番。長い廊下を全力疾走する女が一人。はい、毎度おなじみ吉乃ちゃんです。どういう訳か私は大嫌いな上司の部屋にいた。      
「マ・ジ・デ・・・・・・どういう事だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!??」     
朝早くから大声を出すなって?無理にきまっとるわ。
全力で走ってしまったがために通り過ぎた自室に戻り、深呼吸をした。

私は血圧が低いらしく、寝起きがスコブル悪い(身に覚えはないのですが)。まさかとは思うが、記憶のない内に何か取り返しのつかない過ちを犯してはいないだろうか。      
「ある訳ない。ある訳ない。ある訳ない。ある訳ない。ある訳ない。」             
らしくもない満面の笑みを貼りつけて、私は呪詛のように繰り返した。
・・・・・・今日の朝の事はなかった事にしておこう。早朝から、訳の分からない決意を固め、昨日手洗いしておいた白装束に手を伸ばした。
















「久しぶりじゃな〜い鬼灯様ぁ」       
EU地獄という所に来ました。そこで待っていたのは
「とんでもない美人っ!!」   
「イキナリ何を言うんですか」  
鬼灯さんに頭を叩かれたが、そんな事全く気にならない位の美人がおる。        
「うふふ、アリガト。私はリリス。あなたは?」
「高槻吉乃です」      
「あら可愛い。ひょっとして、鬼灯様の恋び
「部下です。」          
反射的に否定した。

勘違いの激しいリリスさんと軽く話した後、鬼灯さんと共にベルゼブブさん(だったか?)の元に行く。 
「洋服を数品、頂戴したいのですが」     
「洋服・・・・・・か?イキナリ来たかと思ったら・・・・・・まあいい。サタン様に聞いてみよう」    

サタン様・・・・・・?あ〜、西洋における地獄の長、だったっけか?だから『EU』地獄ですか。私の乏しい知識に間違いがなかったら、サタン様はこのEU地獄で一番偉い人だと言う事だ。気を引き締めて、鬼灯さんの後を追う。

暫く歩くと羽の生えた大きな・・・・・・何だか良く分からない方、改めサタン様の元に着いた。鬼灯さんの話を聞いたサタン様は、快く沢山の洋服が並ぶ部屋へ案内してくれた。・・・・・・訳だが。
「あ〜・・・・・・ゴスロリ、ですか・・・・・・。」 
メイドさん達の格好から、なんとなく予想はしていたけれどまさかココマデとは。      
「どれでも好きなものを持って行って良いそうですよ」
ズラリと並ぶ白黒の服に唖然としていると、後ろの方から鬼灯さんの声が聞こえてきた。コイツ・・・・・・。こういう服しかない事を分かっていて連れてきやがったな・・・・・・!!ふつふつと湧き上がる憤怒の感情を何とか抑え込み、1番恥ずかしくない服を探した。                






唸りながら洋服を睨んでいる吉乃を横目に、リリスは鬼灯に話しかけた。  
「ねぇ鬼灯様?吉乃ちゃんは普段どんな服を着ているの?もしかして白装束だけ?」
「普段ですか・・・・・・」           
ふむ・・・・・・と、少し考えた後、何かを思い出したかのように携帯電話を取り出した。  
「普段の高槻です」      
「いやぁ!可愛いっ!!鬼灯様とお揃いなの!??」
興奮したように携帯画面を凝視するリリス。
「この写真私にもちょうだいっ!!!!」  
「構いませんよ」          
「へぇ。やっぱり日本人には和服が似合うな」
普段は滅多に他人を褒める事のないベルゼブブでさえ、今朝の吉乃の姿には評価の声を漏らしている。

「決めました」     
睨めっこを終えた吉乃の手には幾つかの洋服が握られていた。








「決めました」          
探し続けた末、割とシンプルな洋服を見つけた。ボタン周りにフリルの付いたYシャツと黒のスカートやハーフパンツ。黒と白を基調としたものが多いため、どうしてもゴスロリ感が否めないが、普通に着ていてもそこまで目立つ事はないだろう。   

「・・・・・・普通ですね」     
「・・・・・・普通ね」      
「・・・・・・普通だな」              
3人揃って同じ事を言いやがった。別に普通でいいんです!むしろ普通がいいんです!    

地獄の仕事が溜まってしまうという事でお昼前にはEU地獄を後にする事になった。   
「結局・・・・・・服以外にも沢山貰っちゃいました」 
「レディ・リリスはああ見えて結構世話好きなんですよ」
確かに。洋服だけ貰って帰る筈がいつの間にか大量の紙袋を持っている状態だ。       
「すみません。持たせてしまって・・・・・・」    
「いいですよ。後でこの分みっちり働いてもらいますから」      
うぇっ、昨日以上の量が待っているのか?多少無理してでも一人で持つべきだったと今更ながらに後悔した。

「取りあえず、お昼にしましょうか」    
「待ってました!・・・・・・とその前に、この荷物部屋に運んじゃいますので下さい」         
鬼灯さんに持たせてしまった荷物を受け取ろうと手を伸ばした。しかし鬼灯さんはそのまま歩いて行ってしまう。                  
「あの・・・・・・?」           
「運びますよ」        

全くこの人は。変な所で優しいのだから。  
「ありがとうございます」    
少し恥ずかしいが素直にお礼を言った。
「どういたしまして」       
いつも通りの無表情だが、何となく柔らかい表情に見えたのは私だけだろうか。         






部屋に運び終えた私は昼食前に急いで洋服に着替えた。
「うぅむ。やはり洋服は落ち着く」    
「日本人が何を言っているんですか」     
呆れた様子の鬼灯さん。そんな事言ったって、現世で和服を着ている人なんてほとんどいないですし。ん・・・・・・?あれ?      
「私・・・・・・生前の記憶が全部無いんじゃなくて、部分的に記憶がないんだ」       
なにせ今の日本の様子は鮮明に覚えているし、普通に言葉も喋れている。自分の名前や両親の顔もしっかり覚えているし。本格的におかしな記憶喪失だぞコレは。
「何か思い出そうとすると・・・・・・頭が痛いです」
「ならおよしなさい。とにかく食堂に行きますよ」 
確かに私の過去も気になるが、もっと気になるのは私のお腹のぺこぺこ具合だ。鬼灯さんと共に食堂へと向かった。         








「あれ?鬼灯君達も今からお昼??」   
昼食の注文をしようと並んでいると閻魔様に遭遇した。
「わっ、珍しいね洋服」       
「1番落ち着くので」      
やはり日本の地獄だと洋服は目立ってしまうらしい。さっきから視線が痛い。       
「やっぱり白装束の方がお似合い何でしょうか・・・・・・?」            
「そんな事ないよ!それに獄卒に白装束を着ている子もいないしねぇ」              

朗らかにほほ笑む閻魔様。ううむ。やはりこの人優し過ぎないか?鬼灯さんに厳しい所全てを持っていかれてしまったのではないかと思ってしまう。  

「それより大王。私達がいない間ちゃんと仕事はこなせましたか?」       
「っ!?それは〜〜・・・・・・」
 閻魔様・・・・・・。ご愁傷様です。鬼灯さんは獲物を狩るかのような目で閻魔様を睨んでいる。
「何故・・・・・・ですか・・・・・・?」       
あぁ、可哀そうに。まるで尋問だぞコレ。閻魔様はオドオドした様子で目を泳がせている。情けない姿だ。
「まさか・・・・・・サボっていたのですか?」 
今にも飛びかかりそうな鬼灯さん。隠し通せないと悟ったのか閻魔様は理由を話し出した。   
「実は・・・・・・鬼灯君達が出掛けている時に白澤君が来て・・・・・・ちょっと喋ってたんだよねぇ」   
途端に不機嫌になる鬼灯さんを宥めつつ話の先を聞く。
「何か吉乃ちゃんに用があったみたいだよ?」 

予想外の理由が飛び込んでまいりました。


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