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鬼灯の冷徹
17話:【少女マンガの桃色乙女】

「う〜!鬼灯さん!腹潰れます!!」
極楽満月を出てからしばらく歩みを進めていると、突然高槻が暴れ出した。
「降ろして下さい!」
子供のような表情を浮かべて今にも暴れ出そうとする高槻を静かに降ろす。

「まったく〜!冗談じゃないですよ内臓出るかと思ったじゃないですか!」
腹を押さえながらYシャツのシワを伸ばす高槻。

――冗談じゃないはこっちのセリフだ。
いきなりの事で自分の頭が対応しきれていないのが分かる。第一補佐官として何事にも対応してきたはずなのだが・・・・・・。本当に自分らしくない。
「私のペースをここまで乱したのは・・・・・・あなたが初めてです」
呆れながらそう言うと、当の本人は目を泳がせていて聞いていなかったようだ。

――さっき、高槻は何と言おうとしたのだろうか。上司に向かってとんでもない暴言を吐かれた所まではハッキリと記憶している。だが、その先。
「高槻・・・・・・」
ただ考えているのは性にあわない。

「なんです・・・・・・わッ!?」
顔を上げた彼女の肩に手をかけ地面に押し倒した。













目の前に広がる整った顔。背中に感じる固い感触。何だこの状況。
「鬼灯・・・・・・さん・・・・・・?」
若干余裕のない能面フェイス。顔を中心に熱が集まってくる感覚。何だこの状況。
「高槻・・・・・・」
近くにあるのは超美形。異常に上昇する心拍。何だこの状況。
「あなたはさっき何と言おうとしたのですか・・・・・・?」

鬼灯さんの言葉が、真っ白になった頭に少しずつしみ込んでくる。
「あ、えっと・・・・・・」
ドSな鬼灯さん。冷徹な鬼灯さん。容赦のない鬼灯さん。――誰よりも、尊敬している鬼灯さん。感じた事のない少女マンガのような感情。感じた事のない、お花畑の少女のような感情。
「すっ・・・・・・」
これは、あれだ。多分、例の、思春期特有の・・・想い?
「す?」
沸騰しかけた頭を冷やすかのように一瞬で目の前がピンクの煙に包まれた。











「あれ、鬼灯さん?・・・・・・って何ですかこの状況は!!」
私の上に覆いかぶさるかのごとく、鬼上司がそこにいた。

何だこの状況。

「早くどいて下さい!あれですよ、ハラスメントですよ!」
私の必死の叫びに鬼灯さんはゆっくりと体を起こした。そして――
「ヒィッ!?」
部下に、いや、人に向けてはならないような、ゴミでも見るかのような目を向けられた。

「な、な、んです、か・・・・・・!?何でそんな目で見るんですか!?」
押し倒された私は被害者なのに!理解出来ないままでいると、鬼灯さんは深くため息をついてから、私の頬に金棒をぐりぐりと押し付けてきた。













突然煙に包まれたかと思うと、目を見開いた高槻の顔が煙の合間から見えた。
「あれ、鬼灯さん?・・・・・・って何ですかこの状況は!!」
例えるのなら、氷がビキッと音をたてた時のようなそんな擬音が、私の頭の中に響き渡った。
「早くどいて下さい!あれですよ、ハラスメントですよ!」
それと同時にこのバカを全力で殴りたいと言う衝動に駆られた。
ゆっくりと体を起こしつつ、少しだけ高槻の方に視線を送ると情けない悲鳴を上げられた。全くもって腹が立つ。

――高槻の答えに少し期待していた自分がいた。

「期待?」
初めての感情に首を傾げつつ高槻の手を引いた。













「戻りますよ」
あきれ顔の鬼灯さんに手を引かれ閻魔殿へと戻る事になった。薬は・・・・・・いいんですかね。白澤さん待っているかもしれないのに・・・・・・。
「ほら!さっさと歩く!」
「ッはい!」
鬼灯さんに引っ張られ、おとなしく歩き出す。白澤さんには悪い事をしたな、と少し反省した。

「何ニヤついてるんですか」
不機嫌そうな顔で言われ慌てて口を隠した。


鬼灯さんと手を繋いでいるという事実に、不覚にもドキドキしてしまった事は、内緒にしておこう。





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