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鬼灯の冷徹
10話:【忘・年・会☆】

今日も今日とて、閻魔殿の中は慌ただしい。
「はいはーい、ちゃんと並んで下さーい。あ、ほらそこ。列を乱さない」     
閻魔殿の外にまでのびる列を整頓させていると、遠くから地獄で一番仲の良い同僚二人組が走って来た。   
「吉乃〜」        
「茄子〜」         
「「イェア☆」」            
パチッとハイタッチをしていると呆れた様子で唐瓜もやって来た。       
「何だよその変な挨拶・・・・・・」    
「唐瓜もどう??」       
「遠慮しとく」           
全く、大人びてるなぁ唐瓜は!

何となく周りを見渡してみると、色んな所が忙しそうだ。
「どこも忙しそうだね」
「もう年末だもんなぁ〜」
「えっ!そうなの??」       
驚愕の事実!!最近鬼灯さんの部屋がうるさかったり部屋の前の廊下にゴミ袋があったのは年末大掃除のせいか。

「あぁそっかぁ〜。吉乃がこっちに来たのは最近だったもんねぇ〜」   
「仕事納めだし、今からが一番忙しくなるだろうなー」
うわぁ。嫌だなぁ大仕事。

「高槻、そろそろ休憩に・・・・・・お二人も一緒でしたか」        
愚痴に近い話をしていると、閻魔殿の中から鬼灯さんが出てきた。いつも愛想のない無表情だけど、今の鬼灯さんの表情はレベルが違う。何かこう・・・・・・スゴク怖い。

「いつもに増して顔が怖いですよ」  
「今日の夜、大王が忘年会に誘われてまして・・・・・・」
「鬼灯さんも一緒に行くと」     
「そう言う事です」         
「お相手は?」         
「上官や十王の皆さまです」    
「ご愁傷様です。」        

つまり堅っ苦しいヤツじゃないですか。私は絶対に行きたくない。      
「あなたも行くんですよ」
「うぇえ!?嫌ですよそんな!」
「気持ちは痛いほど分かりますが・・・・・・仕事なので」
日本人は『仕事』と言われるとどうしても断れなくなってしまう。それはモチロン私も同じな訳で。ものスゴク行きたくないが、行くしかないだろう。

「うわぁ〜茄子達とが良かったなぁ・・・・・・。私も一応新卒ですよね?」
「・・・・・・出来るだけ早く終わらせますよ」

たまには部下の事も考えているな!っと感動したのは一瞬の事だった。
「正直ダルイんですよねぇ。忘年会とは名ばかりで、仕事の話ばかりですし」 
それがあんたの本音かよ。

ああでも行きたくない。行きたくない。行きたくない。と、半分魂が抜けていると、私はある名案を思い付いた。    
「ねぇねぇ。終わったら皆で別の忘年会しようよ!」
唐瓜と茄子の方を向いて提案してみた。 
「皆って・・・・・・一体何人呼ぶ気なんだよ」
「知り合いの獄卒と・・・・・・あとタオ君たちかな?」
(((タオ君??)))        

我ながら名案。こっちの方が数百倍は面白そうだ。
「って事で鬼灯さん。閻魔様とか白君たちに声駆けておいて下さいね?場所は・・・・・・」 
「当たり前のように上司を使いやがったなお前・・・・・・場所、なんてそうですね。8時に集合地獄の『居酒屋・血祭り』でいいでしょう」
「何だか嫌な名前ですね・・・・・・」    
「つまらない方の忘年会の会場の近くです」 
流石は第一補佐官。急な出来事にも凄い対応力。
こっちの方は鬼灯さんに任せて、私は天国に向かうとしよう。・・・・・・鬼灯さんと一緒だと、誘えない人もいるしね。
















「タオ君〜、白澤さん〜いますか??」 
いつも通りの道を通って極楽満月に行くと、何やら店内は忙しそうだった。 
「あれ?吉乃さん?」
「あ〜っと・・・・・・今は忙しそうですね。出直します」
店内の様子を確認し、踵を返そうとした時だった。
「あっ!吉乃ちゃん!あがりなよ」 
店の奥から白澤さんが出てきた。 

よし、じゃあお言葉に甘えてササッと言っちゃおう。
「8時に集合地獄の『居酒屋血祭り』へ来て下さい!忘年会やりますよ皆で!」 
「えっ、俺も行っちゃっていいんですか?」  
「勿論です。白君達も誘った(はずだ)し」
「あいつらも!?」        
私の言葉に表情明るくするタオ君。ここまで喜んでもらえるとこちらとしても嬉しくなる。

「白澤さんは・・・・・・鬼灯さんも行きますけど・・・・・・行きませんか??」      
鬼灯さん、と言った瞬間苦い顔をする白澤さん。・・・・・・本当に仲悪いな。しばらくの間考えてから白澤さんは再び口を開いた。    
「いや、行くよ!他ならぬ吉乃ちゃんからの誘いだしね」    
「ありがとうございます!」
よし!これで天国の2人はオッケーだ。後は・・・・・・

私は2人と別れると、もう1人の誘いたい人の所へと向かった。





















「義経公〜」    
誘いたい人と言うのは、スーパー美男子義経公です。
「あっ!吉乃さん!!」
私の言葉にどこからか声が返ってきた。その方向に目を向けると、キラキラと目を輝かせた義経公の姿が見える。笑顔が眩しいぜ!

義経公は何やら筋トレをしていたらしく、細い腕を使って大きなダンベルを持ち上げようとしていた。いやぁそれは流石に無理ですよ・・・・・・。

邪魔になるといけないので手短に用件を述べた。
「え!?僕も行っていいんですか??」 
「勿論です!」                
嬉しそうに笑う義経公からは少女漫画のキラキラトーンがあふれ出ていた。あぁ〜誘って良かった。

一通り声をかけ終えた私は閻魔殿へ戻り、つまらない方の忘年会へと向かった。   










「本当・・・・・・クソつまりませんでした」    
ようやくつまらない方の忘年会(仕事)から解放された私達は急いで第2の会場へ向かう。
「仕事の話ばかりだったしねぇ・・・・・・」    
どうやら閻魔様もああいう場はあまり得意ではないようだ。仕事人間ばかりの大人な飲み会は。・・・・・・ん?飲み会?
「私って・・・・・・お酒飲んでもいいのかな・・・・・・?」
もし死んだ時の年齢が未成年だったら、これから飲むお酒は初めてという事になる。      
「初めてかぁ〜・・・・・・」         
「酔い潰れないようにして下さいね?」     「きっ・・・・・・気をつけまーす」     
一抹の不安を抱えながら、私達は何やら物騒な名前の居酒屋へと入店した。

















「吉乃〜遅いよ〜!」    
そう言いながら茄子が飛び付いて来た。     
「うぶっ!!!」               
姿勢の出来ていなかった私の体は情けなく後ろへ転ぶ。
「ごめんごめん・・・・・・って皆揃ってるんだ・・・・・・」
大広間の中には見知った顔がズラリと並んでいた。
「ほらぁ吉乃も鬼灯様も閻魔大王様も座って〜。乾杯しましょうよぉ」          
大人の女性の色っぽさをすべて内包したその声の持ち主はもちろんお香姐さんだ。流石と言うべきか。タイミングを見計らって注文したのであろうドリンクはキンキンに冷えた状態でテーブルの上に置かれている。何もかもやっておいてくれるなんて・・・・・・あぁもう好き!と、心の中で褒めまくり、空いている席へと着いた。


「「「カンパ〜〜〜イ!!」」」      
賑やかに始まった忘年会だが、私達の席はどうやらそうは行かないらしい。       
「何で貴方がここに居るんですか。この淫獣」 
「僕は吉乃ちゃんに誘われたんだよ朴念仁が」 
理由は簡単。私の右側には鬼灯さんが、左側には白澤さんが座っているからです。
一見するとイケメン二人に囲まれて最高な状態なのだがーー私が知る限りでは最悪なサンドイッチである。
何でこんな事に・・・・・・。

白澤さんお世話係兼お母さんであるタオ君はというと、何やら白君達と話し込んでいるようで。斜め前に座っている唐瓜と茄子にSOSを送ってみたのだが、唐瓜はこの状況を見た瞬間、苦笑いで目を反らし、茄子は既に目の前の食べ物に夢中になってる。どうやら完全にこの場から逃げる術はないらしい。

しょうがない、こうなったら2人共思いっきり酔わせて雰囲気を和やかにする作戦で行こう。頑張れ!私のまだ見ぬ力を秘めた肝臓!!  
「そんないがみ合ってないで飲みましょう!てか飲みます!いただきます!」     
早口に言い放ち目の前のグラスの飲み物を一気に飲みほした。・・・・・・少し体がぽかぽかするが、全くと言っていい程酔ってない(気がする)。どうやら私の体はなかなかどうしてアルコールに強いらしい。・・・・・・まあまだ1杯目と言う事もあるのだが。

「こんなのを気にしていても仕方ありませんね。では頂きます」                 
そう言うと、鬼灯さんは手にした升に口を付けた。その姿があまりに様になっていたので不覚にも目を奪われる。
「じゃ僕も〜。吉乃ちゃん何食べる〜??辛いのとか平気??」          
「っ、はい。何でも来たれです!」  
隣からの声により、私の意識は現実に引き戻された。流石は白澤さん。慣れた手つきで料理を盛る姿はそれだけなのにどこか洗練されていて、一体何人の女性を落してきたのだろうと好奇心がわいてくる。

「はいどうぞ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうごさいます!」
差し出された料理を受け取り、一瞬にしてたいらげた。実を言うと、つまらない方の忘年会では、緑茶しか飲んでいなかったのです!当然お腹もぺっこぺこな訳で・・・・・・。

お酒の力もあってか、ようやくこっちも賑やかになってきた。他愛もない会話をしていると、誰も見ていないのに何故かついているテレビが合コン特集をしだした。  
『王様ゲームで皆仲良くなっちゃおう!!』 
たまたま会話が止まりその言葉が耳に入る。
「「「「「・・・・・・。」」」」」        
誰がとも言わずに、近くにいた全員が無言ままに割り箸を割り始めた。


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あきゅろす。
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