鬼灯の冷徹
9話:【お山の泥沼姉妹】
木霊さんに連れられて、件のお山にやって来た。木の陰に隠れながらイワ姫様の様子を見ている訳だが・・・・・・
「清々しいくらいに荒れてる・・・・・・」
美人に対する恨みがにじみ出ている。
出て行くタイミングをうかかがっていると、眩い光を放つサクヤ姫様が現れた。
「見て下さい鬼灯さん!すごい美人!!!」
「少し落ち着きなさい」
「むぐぐ・・・・・・」
テンションが上がり思わずはしゃいでしまい、鬼灯さんに口を塞がれてしまった。
「あぁっ!気を反らさなきゃ!!イ〜ワ〜姫ぇ〜素敵な方をご招待しましたよ」
そう言いながら鬼灯さんを引っ張って行く木霊さん。当初の予定通り、お香姐さんは木の陰で見守り、私は普通について行く。普通に歩けるというのに何故か鬼灯さんに腕を引っ張られている私です。
「閻魔大王第一補佐官の鬼灯様とその部下の高槻吉乃さんですっ」
鬼灯さんの姿を認識した瞬間、イワ姫様の状態が変わったように見えたのは気のせいか?
「おおっ予想以上にごきげんになった・・・・・・!!」
気のせいではなかったようだ。
途端に恋する乙女(とでも言うのだろうか・・・・・・?)の表情になったイワ姫様は、頬を赤く染めながら鬼灯さんを見た。・・・・・・可愛いじゃないですかイワ姫様!!
「あの・・・・・・えっとぉ・・・・・・鬼灯様はぁ・・・・・・どんな女性が・・・・・・」
とイワ姫様が言ったところで持っていた鏡と私を見て言葉をやめる。おい、何で私も見た。言いたい事があるならハッキリ言って下さい。地味に傷つくから。
少し悲しそうな顔をするイワ姫様に対して、鬼灯さんが口を開いた。
「私は貴方に興味ありますね。矯正し甲斐がありそうな人を見ると・・・・・・燃える」
おまわりさ〜ん。此処に危険人物がいまーす。
「私は大人しすぎる女性にはさして興味ありません。最初から言うことをきく人なんて面白くもなんともない」
そう言いながらこちらを見て来る鬼灯さん。おい見るな。こっちを見るな。
「何だコイツの屈折した愛情・・・・・・怖ッ」
そう言いながらも、頬を染めるイワ姫様。ーーん?イワ姫様なんか目覚めてません?
「この高槻は本当にどうしようもないじゃじゃ馬です。この位威勢が良くないと・・・・・・」
「いやですねぇ鬼灯様。私はとても従順な部下ですわ」
「何キャラ変えてんだお前」
眉間に皺を寄せた鬼灯さんにほっぺたをつねられた。
「姉様〜その方々はどなた??」
そんな混沌とした空気を浄化するかのごとく、彼女はやって来た。女神です。リリスさんやお香姐さんと同じ位の美人がいらっしゃいました。
サクヤ姫様と目が合った瞬間、不機嫌なオーラを醸し出すイワ姫様。
「姉様・・・・・・そろそろ仲直りしましょうよ」
「あたしだってね!本当はあんたを恨んだりしたくないわよ・・・・・・!でも現実は残酷なのよ!!ねえ鬼灯様!?アタシとサクヤ・・・・・・結婚するならどっちがいい!?正直におっしゃって!」
そう言いながら、イワ姫様は泣きだしてしまった。何でこんな男がいいんだろう?あれか、顔か。結局は顔なのか。
「私なら・・・・・・」
何かを言いかけて、また私をチラッと見た。だから見るなっての。
「私の作ったミソ汁を笑顔で飲める人と結婚しますね」
「気をつけろ!!コイツの言うミソ汁は絶対普通じゃないですよ!!」
「高槻は飲めますよね?私のミソ汁」
「絶対飲まねぇ!」
流石のイワ姫様もちょっと引いてますしね!私には絶対無理です。
「ちょっと、吉乃・・・・・・とか言ったわね!ちょっと来て!!」
鬼灯さんのミソ汁を想像して青ざめている時だった。イワ姫様が急に私の手を引っ張って森の奥へと進んで行く。引っ張られるままに、私はイワ姫様の後に続いた。
「どうしたんでしょう」
「姉様が美人と話そうとするなんて珍しいわ・・・・・・」
不思議そうな顔をしながら、残された2人は静かに首を傾げた。
「あんた・・・・・・よくこの山に入ってこれたわね」
しばらく進んだ所で足を止めた。
「え?」
イワ姫様の言っている事の意味が分からず首を傾げた。入れない理由なんてないというのに。
「醜女は入ってもいいんですよね?」
「あんたは違うでしょ!!」
イワ姫様が何を言っているのか分からず、もう一度首を傾げる。
「まさか・・・・・・本当に自分の顔に自身がないの・・・・・・!?いや、そんな事より!あんたは鬼灯様の事、どう思っているのよ?」
「えっ!?どうって・・・・・・ただのクソ上司としか・・・・・・」
あれ?何だかイワ姫様呆れてる?ああ、上司の悪口を平気で言ったからかな?
「もういいわ・・・・・・。あんたは他の子と違って、私を見下してる訳でもなさそうだし・・・・・・」
そう言いながら、何故かそっぽを向いて話すイワ姫様。
「あんたなら・・・・・・吉乃なら、たまにはまたこっちに来てもいいわよ・・・・・・」
「え?それって・・・・・・」
後ろを向いているせいで顔は見えないが、耳がほのかに赤くなっているのが分かった。何というか、その――
「可愛いじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は思わずイワ姫様に飛びついてしまった。後ろに潜んでいた、ドSの鬼神の存在に気づく事も出来ずに。
「あなたはまた、私が目を離したすきに何を・・・・・・」
「あ、鬼灯さん?」
上を向いた時にやっと気づいた。鬼灯さんが金棒を振り上げていた事に。・・・・・・逃げられねぇぞコレ!!
「してるんですか!!!!」
綺麗に記憶が飛びました。
情けなく転がった吉乃を背負いながら、イワ姫の方を向いた。
「部下が失礼なことをしてしまい・・・・・・申し訳ありません」
「いや・・・・・・あの、別に・・・・・・」
「それでは私達はそろそろ失礼します」
一礼し背を向けた時だった。
「待って鬼灯様!!」
突然呼び止められた鬼灯は、おもむろに後ろを振り向いた。
「何でしょうか」
「鬼灯様は吉乃の事・・・・・・どう思っているの?」
「高槻の事・・・・・・ですか・・・・・・」
改めて吉乃を見てみると、規則的な寝息を立てている姿が目に入る。
「・・・・・・内緒です」
人差し指を口元に持って行き、シーっとジェスチャーをする。
途端に赤くなったイワ姫に再び一礼し、その場を後にした。
どう思っているか。普通の部下に対する感情だけではないというのは、薄々気が付いていた。
「何なんでしょうね・・・・・・こういう感情は・・・・・・」
経験した事のない思いを胸に、鬼灯は地獄への道を歩いて行った。
去って行った鬼灯を見ながら、イワ姫はふうと一息ついた。
「気づいてないのよね・・・・・・吉乃を見た時の自分の表情に・・・・・・」
無表情の顔が本当に、本当に少しだけ、もしかしたら気のせいかも知れない程の小さな変化だが――僅かに頬が朱に染まったのだ。その表情は『クソ上司』と罵倒していた吉乃にも共通する事で。
「お互い鈍すぎる・・・・・・いや、もしかして家族に向ける愛情と同じ、とかなのかしら・・・・・・?」
時間のかかりそうな2人の行く末が気になりながらも、イワ姫は木霊達の元へと戻った。
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