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鬼灯の冷徹
7話:【素直になるとろくな事にならん】

やって来ました桃源郷です!(2度目) 
相も変わらず、足元でぴょこぴょこ跳ねるウサギの一匹を抱きかかえながら、ココに来るまで来るまでの事を思い返した。        
「いやぁ〜〜大変だった」   
ここに来るまでかなり時間が掛った。別に、距離的な問題ではない。例の鬼神を説得するのに時間が掛ったのだ。

自称保護者である鬼灯さんが、私が一人で桃源郷に行くのを許す筈もなく、色々話し合った末(話し合いではない。ほとんど口喧嘩だあんなの)、「あ、そう言えば閻魔様!昨日腰が痛いって仰っておられましたよね?!」「うっ、うん・・・・・・?」「分っかりました!何か腰痛に効くお薬を頂いて来まぁぁぁす!!」と叫びながら飛び出して来たのだ。今更ながら、私はこの後無事に地獄へ帰れるのだろうか・・・・・・。鬼灯さんは絶対怒ってるだろうし・・・・・・。

別に、白澤さんの用事の為にココまでの危険を犯したわけではない。本当の理由は・・・・・・    
「一度くらい1人でこっちの世界を周りたい!」  
思わず口からこぼれ出てしまった本音に赤面しつつ、極楽満月の前までやって来た。  

「こんにちは。吉乃で   
す。と言い終わる前にドアが開いた。否ブチ破られた。中からはひょろ長い給食当番と、彼をぶん殴ったと思われる女性が怒りに満ちた表情を浮かべながら出てきた。内心ビクつきながらも、恐る恐る女性に視線を向ける。
「あなたもこんな男と一緒にいない方がいいわよ!!」
うおっ怖ぁ。肝に銘じておきます。

ご立腹な様子の女性が離れて行くのを軽く見た後、改めて白澤さんを見る。ピクリとも動かない様子見る限り、相当堪えたのだろう。あれ、大丈夫なのかコレ。    

「大丈夫ですか白澤様〜」  
お店の中から聞いた事のない男性の声が聞こえた。振り向くと彼も私を見て固まっている。    
「あ、初めまして」         
「初めまして。――まさか1日に2人もの女性を弄ぶなんて・・・・・・」             
ん?何か勘違いしてらっしゃる?!私は別に白澤さんに口説かれてなんていませんよ!?
慌てて自己紹介をすると物分かりの良い彼はすぐに分かってくれたようだ。          

「俺は桃太郎って言います」     
瞬間思考が停止した。聞いた事ある名前だぞ、と思って考えてみたら1つの昔話と繋がる。桃から生まれてお供引き連れて鬼をぶっ倒すアノ話だ。  
「え!??あの!?」   
彼は少し照れたように笑うと白澤さんを背負って中へ入れてくれた。










何だかいい匂いがする。これはそう、女の子の匂いだ。目を開けてみると心配そうに覗き込む吉乃ちゃんの顔が見えた。      
「うわぁ〜幸せ。どうかまだ覚めないで・・・・・・」
「夢じゃないですよ」     
「!?」      
一気に覚醒した頭でそのまま飛び起きてしまったのが悪かった。      
「うぎゃぁっ!!!」             
「って!!」             
鈍い音を立てて吉乃ちゃんと僕の頭は思い切りぶつかった。うぎゃぁっ!!!って吉乃ちゃん・・・・・・。

「痛いじゃないですか・・・・・・」        
「対不起・・・・・・ゴメンゴメン」       
ジト目で睨んでくる吉乃ちゃんを微笑ましく思っていると、この前会った時とは決定的に違うある事に気付いた。     
「あれ?白装束じゃないんだね?」      
「似合いませんよね、知ってます。でも洋服が1番落ち着くんです」            
「似合わない筈ないじゃない。とっても可愛いよ」 
真顔で言われた言葉を僕が即座に否定すると、少しだけ赤くなって視線をそらした吉乃ちゃんは、話題を変えようとココに来るまでの経緯を話してくれた。  















「本当に大変だったんですから」     
ココに至るまでの出来事を話し終えた私はお菓子をつまんで一息ついた。
「お疲れ様。それと、桃タロー君も有難うね」  
謝謝、と言って頭を下げる白澤さん。タオって何だタオって。不思議に思って首を傾げていると白澤さんが補足してくれた。           
「桃の事だよ」               
なる程。なら私もタオ君と呼ばせて貰おう。   

「それはそうと・・・腰痛に効く薬ってありますか?閻魔様に渡したいんですけど」      
「腰痛?あるよ〜」       
そういうと白澤さんは何やら棚をごそごそしだした。

「あの吉乃さんは・・・・・・亡者ですか?」 
「そうですよ。でも前世の記憶が一部ないんですよ〜」
「そんな軽い調子で?!」    
おおっ、キレのあるツッコミだ、なんて考えていると、探し物を見つけた白澤さんの声が聞こえた。 
「あったあった。はいどーぞ」     

棚をごそごそしていた白澤さんが小さな紙袋を渡してくれた。                 
「ありがとうございます。あのお代は・・・・・・?」 
「あ〜いいよいいよ」        
「そんな悪いですよ!」     
「いいからっ」        
押し切られてしまい渋々諦める。       

「あ、そういえば・・・・・・私に何か御用だったんですよね?」            
つい自分の目的ばかりを優先してしまってすっかり忘れていた。            
「ん?あぁ、吉乃ちゃんと遊びたいな〜と思って」
成る程。流石は女好き。私にまで手を出すなんて本当に、性別が女なら誰でもいいんだなこの人。
「何だかすっごい冷たい目だね」      
「白澤様が節操無いからですよ」      
「え〜ヒドイなぁ桃タロー君は」   
「いや、タオ君の言う通りです」    
「タオ君!?」               

反応の良いタオ君を横目に1匹のウサギを抱き上げる。
「そんな事ばっかしていると私以外の女の子は本気にしちゃいますよ」           
「吉乃ちゃんも本気にしてよ〜」 
「しません。そこまで自惚れていないので」   

話しやすい白澤さん達と他愛もない会話をしていると、その時は急に訪れた。       
「失礼します!」               
バンッという凄い音と共に、これまた凄い形相の鬼神が部屋に入って来たのだ。       

「っげ、鬼灯さん・・・・・・」         
「仕事をさぼって随分楽しそうですね」   
そう言うと鬼灯さんは私を荷物抱えにして歩きだす。
「うおっ!ちょ、危なっ!!」        
「っちょ!おい!」        
慌てて立ちあがった白澤さんの顔にストレートパンチを決めると涼しい顔して店を後にした。    












「白澤様!大丈夫ですか?!」     
地獄一の強さのパンチを顔面に受けたのだ。大丈夫な筈がない。    
「桃タロー君・・・・・・ちょっと氷持ってきてくれない?」
「は、はい!」               
勢いよく奥へ走って行く桃タロー君。できた弟子を持つと師匠は鼻が高いね。

いやぁ、それにしても・・・・・・。私以外の女の子は本気にしちゃう、か・・・・・・。
「吉乃ちゃんが本気になってくれないと、意味無いんだけどなぁ・・・・・・」        
「白澤様〜」         
忌々しい鬼神につれて行かれた彼女の事を考えていると、氷と1匹のウサギを抱えた桃タロー君が戻って来た。 
「どうぞ」                
そう言って桃タロー君は氷を入れた袋を差し出してくれた。うん、冷たい。

「それから・・・・・・」            
と、僕に抱えていたウサギを手渡す桃タロー君。不思議に思いながらウサギを持ち上げると、ウサギがつけていたバンダナがチャリンとなった。    
「これは・・・・・・お金?」      
「そのウサギ、吉乃さんが撫でていたウサギですよ」      
「・・・・・・律儀なんだから」       
少しだけ温かいお金を握りなおして、抱えていたウサギを降ろした。




















「鬼灯さん!!鬼灯さんってば!肩が腹にめり込んでるんですけど!」  
荷物状態で抱えられて桃源郷を(鬼灯さんが)歩いている。
「周りの視線が痛いです!」       
「少し静かになさい」           
落ち着きのあるバリトンボイスが何だか無性に懐かしく感じられた。             

「あのっ、仕事をさぼった事は謝りますから・・・・・・えぇい!このッ!!」        
無理やり体を捻って鬼灯さんの肩から降りた。 
「ぐえっ!!」             
降りた、じゃない落ちた。顔面から思いっきりね。
ずきずきと痛む額を摩りながら鬼灯さんを見上げる。うわ怖っ!明け方の受験生の顔だコレ。   

「その・・・・・・やっぱ怒ってますよね。無理やり出て行っちゃって・・・・・・」            
直視する事が出来ず目をそらしつつ尋ねる。   
「私は別に、出てい行った事に腹を立てているのではありません」           
「え?」                  
想像と違う回答に思わず鬼灯さんの顔を見る。   
「あの淫獣と・・・・・・」             
そう言いながら、だんだん距離を詰めて来る鬼灯さん。
「一緒にいた事に腹を立てているんです」    
至近距離で目線を合わされた。         

反射的にビクリとしてしまったが、しっかりと目を反らさずに見つめ返す。          
「ッ、・・・・・・」              
鬼灯さんの目が一瞬ピクリと動いたかと思ったら、不意に立ち上がった。

「正直迷惑、ですよね」         
立ち上がった状態で顔を背ける鬼灯さん。
「え?」              
何の事か良く分からず、思わずおかしな声をあげてしまった。                  
「ただの上司のくせにこんなに過保護だと」   
いつも通りの無表情だが、その中には少しだけ悲しそうな色が含まれている気がした。    
「嫌がられるのも当然ですね」     

そう言って、何か自己完結して後ろを向いた鬼灯さん。   
「違う。」                
確かに、この野郎!と思った事は何度もある。ドSだし、冷徹だし、厳しいし、何かとムカつく上司だとは思う。だけど・・・・・・       
「迷惑だなんて思った事、ない、です。多分」  
本当は優しくて、周りの人達の事もちゃんと見ていて。
「本当に、尊敬できる、頼りまくれる上司です!」 
「高槻・・・・・・」           

顔を背けていた鬼灯さんがこちらを向いた。 
その表情は――     
「では、今後とも過保護前回で厳しくいかせて頂きます」
――いつも通りの無表情だった。悲しい色なんて微塵も含まれていない、ワーカホリックのそれだった。

え?何で?何かこう感動的な雰囲気だったじゃないか。 
「たまには引いてみるものですね。まさかあの高槻がこんなに素直になるなんて」   
ッコイツ!!                 
「愉快犯かぁぁぁぁあ!!??」      

こっちが素直になってみたらコレだよ!何この人!!
「この鬼っ!!!」             
「鬼です」                
「そうだったぁぁぁ!!」        
改めて鬼の恐ろしさを痛感しました。      

「前言撤回です!尊敬なんてしてません!軽蔑です軽蔑!!」                  
「なんとでも言ってなさい」         
駄々をこねる子供をあしらうようにして歩きだす鬼灯さん。

もう2度とこの鬼に本音は話さないと誓いました。

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