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西
ハートのどら焼きを 三蔵
春一番の吹く、よく晴れた日
私はこの日を忘れない


ブワッと吹き付ける風に思わず目を閉じた。
数秒後、瞼を開け、私は呟いた。
「…太陽?」
その声が聞こえたのか、金髪の男性はこちらを見た。
(に、睨まれてる…?!)
「三蔵、どうかしたんですか?」
私の目的地でもあった花屋から、知り合いの八戒さんが出てきた。
あの男性と八戒さんは知り合いらしい。
「三蔵、何か…おや、名前さんじゃありませんか」
「…知り合いか」
三蔵と呼ばれた男性は八戒さんに尋ねた。
「ええ、お得意さんなんです。名前さん、いらっしゃい。三蔵、こちらは名前さんです。悟空がよく買っているお団子は、名前さんのお店のものなんですよ」
「名字名前です。えっと…悟空君ともお知り合いなんですか…?」
「玄奘三蔵。知り合いじゃねぇ、猿の飼い主だ」
猿って言うのは悟空のことですよ、八戒さんが言った。
「ところで名前さん、今日はどうしたんですか?」
「お店に飾るお花を探しに…。あ、お土産持って来ました」
「いつもありがとうございます。もしよろしければ、奥でお茶でも飲みませんか?三蔵も一緒に」
話を振られた三蔵さんが断るよりも早く、八戒さんが
「三蔵、お饅頭お好きでしょう?」
とにっこり笑って言った。

初めてのお客さんに買っていってもらうときは、未だに緊張する。人によって甘さの感じ方は色々だ。目の前の人が甘すぎると感じるかもしれないし、甘くないと感じるかもしれない。
「名前さんの和菓子は絶品なんですよ」
「八戒さん、ハードル上げないで下さい!」
三蔵さんがお饅頭を一口齧った。
「…悪くねぇ」
「三蔵の『悪くない』は褒め言葉なんです」
「八戒、抹茶出せ」
「はいはい」
八戒さんが立ち上がり、台所に消えていった。




そして今日
「まさか、自分の結婚式の和菓子を自分で作るとは思ってなかったわ」
「だって名前の和菓子めっちゃ美味いじゃん!なぁ、三蔵?」
「まずくはねぇ」
「素直じゃないんだから、三蔵サマは。いやぁしかし、器用なもんだなぁ…。八戒の店の飴細工も名前の店のなんだろ?」
「そうですよ、悟浄。名前、お花はどうしますか?」
「悟空、つまみ食いしちゃ駄目だよ。お花ありがとう、八戒。そこに置いておいてくれる?」
ウェディングドレスを着ちゃうと作業ができなくなるから、今のうちに全部やらなきゃいけないのに、悟空や悟浄が茶々を入れる。
それでも、今日を迎えられたのはみんなのおかげだなぁなんて思う。


ハートのどら焼きを
(引き出物はこれで)
(…おい)
(文句は聞かないからね)



あとがき
コンセプトは、出会いの日だったのに…。
いつの間にか、和菓子に移ってしまって…お腹空いてるからかな。

091018 14:25

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あきゅろす。
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