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西
アメシストの君に酔う

心の距離とかを取っているわけじゃない。
ただ、少し甘えたりするのが苦手なことは自分でも気づいている。



「だから何故言わなかったかと聞いているんだ!!」
「言うほどのことでもないと思ったんです。欲しいと思ったのは自分ですし」
何も変わらない普通の日のはずだった。朝、悟空が目を覚ますと執務室のほうから三蔵の怒鳴り声が聞こえてきた。
「欲しいと思ったならまず俺に言え」
「それは命令ですか…?それには従えません」
「何故だ…?」
「…だいたい、いちいち言わなければならない意味がわかりません」
慌てて悟空が寝室から出ると、名前と三蔵はこんな口論をしていた。
「やめろよ二人とも、何やってんだよ!!」
「…チッ」
三蔵は出てくる、と告げ執務室を出て行った。
「ごめんね、悟空、起きちゃったよね」
「…何があったんだよ?」
名前は普段は固い口調ではない。しかし、怒りを抑えているときは敬語になる。さっきはその状態だったのだ。
「三蔵に怒られちゃって…でも怒った理由がわかんなくって、だからそう言ったらまた怒られちゃって…」
「そ、そっか…まあ、三蔵表現が苦手だからさ…」
悟空は今は触れないほうがいいだろうと思い、話題を変えようとした。
「そ、そのペンダント綺麗だな!どうしたんだ?」
「この前綺麗だなって思って買ったの…でも三蔵に見せたら何で買えって言わないんだって怒られちゃって…」
失敗した、悟空は思った。
「せっかく三蔵色だったのに」という台詞を聞くまでは。
「それさ、三蔵に言えよ!そしたらわかるって!」
そういった後、八戒たちのところに行くことを告げ、部屋を出た。

「はっかーい、三蔵いる?」
「ああ、悟空。ちょうどお話を聞いていたところなんです」
八戒の裏で悟浄は引きつった笑みを浮かべていた。三蔵は背中で怒りをあらわにしている。
「俺は悪くねぇ」
「だからその話を詳しくしてくださいと言っているんです」
八戒の怖さは相変わらずだった。悟空が椅子に座ると三蔵が口を開いたが、すぐに黙らせてしまったのだ。
「俺さ、名前からも話聞いたんだけど」
悟空が口を開くとこの空気に耐えられなくなっていた悟浄が
「何をだよ?」
と乗ってきた。
「名前が買ってきたペンダント見て三蔵怒ったんだろ?」
「そんなことしたんですか」
八戒の視線が三蔵に刺さるが、悟空は続けた。
「三蔵さ、買ってあげたかったんだろ?」
「誰がそんなことをするか!」
三蔵はいきり立った。
「そういや、あいつは物とかねだらなそうだもんな」
悟浄が頷く。
「だろ?でも三蔵、自分から聞いたりできないし名前も言わないから好みとかわかんない」
「だから何で俺が買ってやりたかったって結論になるんだバカ猿!」
「いい加減素直になったらどうですか、三蔵」
八戒がため息をつきながら立ち上がった。
「つまり三蔵、あなたは自分が名前に何か贈りたかった。けれどそれを素直に言うこともできず今に至るわけですね。…名前も可哀想に」
「何だと…?」
「せっかく買ってきたペンダントを見せたのに訳もわからず怒られた名前の気持ちにもなってください!あなたが素直になれば全て解決することなんですよ?!」
三蔵は舌打ちした。
「邪魔したな、行くぞ猿」
「あーおい猿、今日はうちに泊まれ」
悟浄が悟空を引き止める。
「え…あ、うん。三蔵、名前に伝えといて」
三蔵は再度舌打ちをすると、邪魔したなと言い、出て行った。
「全く…三蔵は素直になれませんし」
「名前チャンは鈍いからなぁ」
「あ、でもでも俺、名前が買ってきたペンダント見たぞ!」
悟浄が興味を示す。
「へぇ、どんなだったんだよ?」
「うんと…普通のペンダントだったぜ?真ん中にちっちゃなハートの石があるんだけど、紫なんだ。アメシストって言ってたぜ!」
「…それって…」
「…だよな…」
八戒と悟浄は顔を見合わせた。
「で、名前が怒られた話したときに、『せっかく三蔵色だったのに』って言ったから、『それ三蔵に言えよ!』って言ってきたんだ」
「悟空、あなたのしたことは正しいですよ」
「あーあ、なんか無駄に疲れた…」
「はいはい、ご飯にしましょうね」
「飯?やったー!」


ガチャ、と執務室のドアが開く音がした。
「悟空?ずいぶん時間がかかったね」
言いながら振り向いた名前はドアを開けたのが三蔵だとわかると、表情を消した。
「おかえりなさい」
その感情の籠もっていない口調が更に三蔵を不愉快にさせる。
「残念だったな、悟空じゃなくて」
自然と三蔵の言葉もきつくなる。
「そういう言い方はないんじゃないですか」
「お前だってせっかく買ってきたペンダントを見せて説教した男よりは褒めた男のほうがいいだろ」
「だから…っ、もういいです」
その行動が三蔵をキレさせた。舌打ちをし強引に名前の腕を掴む。
「何を」
「お前はいつもそうだな、名前、何も言わねぇ!欲しいものもやりてぇことも何もかもだ!そういう態度が俺をムカつかせんだよ!」
「…言ってる意味がよくわかりません」
「欲しいものはまず俺に言え、やりてぇことがあれば最初に俺に言え、我儘ぐらい言え!」
名前はまだよく理解できなかった。
「…我儘を言って欲しかったんですか?…私が我儘を言わないから…?」
「チッ…そうだ」
三蔵は名前から顔を背けた。
名前も三蔵を直視できなかった。
「…私は、あまり甘えるのが得意ではなくて、三蔵もそういうの嫌いだと思ってたから、ちょうどいいかなって…」
「相手がお前だったら話は別だ」
「ただでさえ迷惑かけているし、これ以上手を煩わせるわけには…」
「迷惑だと思っていない」
でも、と続ける名前の顎に手を沿え、上を向かせる。
赤い顔と潤んだ瞳が愛おしい。
三蔵は名前が我儘を言わないことが距離を取っているように思えてならなかった。
こんな感情は抱いたことがなく、最初は戸惑ったが、今、自分の気持ちを伝えるとすっきりした。
「俺はお前に素直に気持ちを伝えて欲しいんだ。お前は思ったことを言わないから不安になる」
名前は目を逸らそうとしたが、叶わないことを知ると、恥ずかしそうに呟き始めた。
「じゃあ…お願いしてもいい?」
「何だ」
「…キ、ス…して」
名前は唇をふさぐ瞬間の三蔵の表情と瞳の色に胸が高鳴った。
名前の首元には確かに三蔵の瞳と同じ色をした石が輝いていた。


アメシストの君に酔う


おまけ
「ねぇ三蔵、何でこれにしたかわかる…?」
「ああ?そんなことより…」
「三蔵の瞳と同じ色…私は三蔵に囚われっぱなしね」
三蔵は少し嬉しそうな顔をしたあと、名前の耳に唇を寄せ
「俺はお前に囚われたままだ」
と囁いた。


あとがき
泣ける甘を書けているでしょうか…?!
無理そうですね…
アメシストには心の平和、冷静などの石言葉を持ちます。
また、名前はギリシャ語の「酒に酔わない」という意味の言葉に由来するそうです。
日本では紫水晶と呼ばれていますね。
ではでは、またお目にかかる日まで
090107 21:34


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あきゅろす。
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