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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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周囲に響き渡る、とても形容しがたい音色。

それは何かが“ひしゃげ”、潰される音のソレだ。


浮遊する体躯。

その身体は軽過ぎるではないのかと思わせるほどの重量感で宙を漂う肉体。

風によって靡かれる髪は美しく、そしてそれと同等に惨たらしかった。



サクヤ「―――――――――――っ、」


ゴプ、と口元から溢れ出す液体。

それは人形である彼女には決して循環することはない鮮血であった。


恐らく、彼女の核であり、“命”そのモノでもある『無限炉』がもたらした、“人間らしい”営みなのだろう。

サクヤは心を持った頃からずっと思ってきた感情、『想い』がある。

それは、“人間として生きてみたい”……というモノだ。


一介の人形には到底叶うはずのない夢想であることは確かだ。

しかし、もしもそれが叶うというのであれば、サクヤは延々とそれを願い続けるだろう。



つまり、今彼女の口元から零れ落ちる鮮血はその結果なのだ。

彼女の『願い』が聞き届けられた、というたった一つの揺るがない結果。


それを理解すると、サクヤは不謹慎にも微笑んでしまう。

自身が人間として振る舞えているのか今一自信が持てなかった彼女に、こうして結果を見せることによって教えられているのだ。

自身が死ぬ間際にそれが解るというのは、皮肉と言えば皮肉だ。

故に、自嘲的な笑みが零れてしまうのだ。


そんなことを思っていると、ふと自分の身体が止まっていることに気が付く。

いや、正確には“止まった”のではなく、“止められた”だ。


シレン「おい、ガラクタ。なに笑ってやがる?」

サクヤ「―――――――ふふっ。私も、案外馬鹿なのだと思いましてね……」

シレン「気に入らねえな。その悟り切ったような面と眼。ムカつくぜ…………人形風情が、人間様の真似事なんかしてんじゃねえよっ」

サクヤ「………貴方は、何故そこまで私のような存在達を嫌悪するのですか?」

シレン「そんなもん決まってんだろ?憾みがあるからだよっ。人形ってヤツ等にはなっ」

サクヤ「“憾み”……?」

シレン「ああ。“憾み”だっ。なにせ俺の家族は、」


―― 戦闘魔導兵器に殺されたんだからなっ ――



シレンの冷徹に言い放った言葉に、サクヤの表情が凍りつく。

確かに“裏”の世界では、自分のような高性能な魔導機械などを違法改造して殺戮兵器へと仕立てる輩もいる。

しかし、それは心無い人間達の身勝手な欲望や憎悪などと言ったモノが具現化されたにすぎない。

それなのに、全ての魔導人形やそれに類する者達を険悪したり、憎悪するのは御門違いだ。


シレン「魔導兵器だけじゃねえ。俺はあの世界に住まう人間達にすら憎悪の念を抱いている。いや、“あの世界そのものに”憎悪しているんだよ。俺から家族を奪い、それでも尚、醜く変化しつつあるあの世界がなっ」

サクヤ「……………で、ですがっ!あの世界に住まう人々全てがあなたの家族を奪った者達と同じというわけでは…っ」

シレン「そんなモンはカンケイねえんだよっ!!あの日あの時から、俺の中では世界そのものは“絶対的な悪”だっ!!そこに一片の曇りなんてねえっ!俺は俺の理想を、信念を貫き通すだけだっ!!」


荒々しい口調は最早怒声へと変わり、彼が抱えている『想い』や『願望』を赤裸々に吐き出させる。

その言葉に、サクヤは耳を逸らせることは出来なかった。


かつて、己のそうだったのだから。



生まれて間もない彼女は、人知れず密かに心を持ち始めていた。

それは、一介のただの人形にしてみれば有り得ないこと。

しかし、事実彼女は最終的に“心”を手にした。

その事実には絶対に覆らない。


彼女が“心”を持ち始めた頃に芽生えた感情はどうしようもない『怒り』。

いくらパートナーとして造られた存在とは言え、夏季家は初代当主と現代当主を除けばほとんどの者がぞんざいに彼女を扱ってきた。

それはまさに道具を使うかのようなぞんざいさだ。

そのことに『怒り』を覚えないはずはないだろう。

況してや、それが己に起こったことならば尚のこと。



彼女は夏季の家系を、そして自分自身を生み出した“人間”達に憎悪を念を抱き始めたのである。




サクヤ「(ですが………それも“あの御方”と香恋様に出会うまでのこと。“あの御方”が私にこの“命”をくれて、香恋様が私に“心”のなんたるかを教えてもらいました。だから私は、今こうしてこの場に立っていられるっ!)」


かつての自分を見るかのような瞳は、次の瞬間には全くの別のモノを見る瞳へと変わる。

その表情の変わりように、シレンは一瞬だけ戸惑いを見せる。

しかし、それも本当に一瞬だけ。

すぐに先程までの冷徹な表情に戻すと、瞳の奥に更なる憎悪を募らせた眼光でサクヤを睨みつける。



シレン「なんだ、その眼は?」

サクヤ「私には、貴方の苦しみや悲しみが痛いほど解ります」

シレン「解る……だって?人形風情が、一体なにが解るって言うんだっ!まさか、“心”でもあります、なんて言うんじゃないだろうな?」

サクヤ「ええ。私には、“心”があります。“サクヤ(私)”という存在を示す証がっ」

シレン「っ!?傲慢な考え方だなっ。人形風情が、人間と対等な立場なとっ!?ふざけるのもいい加減にしやがれよ、ガラクタぁぁぁっっ!!!!」


強張ったままの表情でサクヤを突き飛ばし、そして手に持っていた剣でサクヤに斬りかかる。

突き飛ばされた反動と、先程受けた攻撃の傷の所為で身体が思うように動かないサクヤ。


今度こそ終わりだと、そう思った時だった。



「ふざけてんのは、テメエだァァァァァァっっ!!!!」

シレン「――――っ!?」


剣が振り下ろされるよりも迅く、そして且つ正確に二人の間に割って入る無数の鋼達。

その正体は剣。

そのどれもが本物でありながら偽物に位置付けされる贋作達。

それを自在に操れる者は、彼女が知る中でたった一人。



サクヤ「……………士郎、さん」


彼女を護るようにしてシレンに立ちはだかった男――――衛宮士郎の表情は、危機迫るようだった。

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