D.C.S.B.〜永劫の絆〜 Page21 〜管理外世界『クロノス』・管理局司令拠点〜 目の前に佇む、五つの影。 その影を前にして、同じ数の影が対立する形で佇んでいる。 そんな彼らを、悠はぐるりと見渡した後にとある男に視線を向ける。 悠「どうもっ。真・七宝聖天のメンバーでしょ?」 「ほぅ。一目見ただけで判るモノなのか?」 悠「そりゃあもう。他の連中とは“質”が違ってるみたいだからね…っ」 悠の質問に、如何にも猛者としての威厳がある男は感心した声で返す。 その声に、悠は悪戯っぽく笑いながら微笑んだ。 「戦場とはいえ、ここは互いに名を知っておいたほうがいいだろう。真・七宝聖天、“天空のゼムス”」 悠「ご丁寧にどうも♪円卓の騎士団・第二騎士、藤村悠。よろしく」 悠が目を付けた男――ゼムスは悠の名を知るや否や頬が緩み、不敵気味の笑みを零す。 その不可解な変化に悠は少なからず疑問を抱きながらも男の思考を読み取ろうと策を募らせる。 しかし、そんな悠にゼムスから意外な一言が突き付けられた。 ゼムス「藤村悠、と言ったな。“七年前のあの日”に受けた“傷”は、完治したかね?」 悠「――――ッ!?」 ゼムスから告げられた言葉。 その言葉に、瞬間的に反応を示す悠。 動悸が速度を速め、血の循環を荒々しく掻きたてる。 記憶という名の箱に仕舞っていた忌まわしい過去は容赦なく彼にあの頃の映像を鮮明に映し出していく。 目の前に広がるのは、家族であった者達の亡骸。 その姿はすでに“人”としての形容(カタチ)を保っておらず、そしてその下には夥しいまでの血痕がまるで海のように溢れ返っていた。 その赤い世界の中に、一人佇む自分。 泣くこともせず、ただそこに虚ろな瞳でその亡骸を見つめている―――――己。 悠「――――っ―――――っ、!?」 動悸は先程よりも速度を速め、煩いくらいに耳にその鼓動が響いてくる。 ノイズ雑じりに見える映像。 その映像の中に、確かに見た事のある顔が一つ。 悠「―――――――っ!!」 それを思い出した瞬間、悠は誰よりも迅く動き、そして目の前の男に喰らい付いた。 次の瞬間、火花が小さく咲き、そして鉄同士のぶつかり合う音が静まり返った場所に響き渡る。 周囲は呆然とし、その光景はただじっと見ていた。 いや、見ていることしか出来なかったと言ったほうがいい。 それだけ今の悠には余裕がなく、且つ手を出せば諸共に呑まれると本能が理解しているのだ。 故に、見ていることしか出来ない。 ゼムス「ふっ。あれからどれほど成長しているのか見物だな」 悠「貴様………っ」 怒り心頭している悠とは違い、ゼムスは落ち着いた様子だ。 それに加え、さらに悠を挑発に来るあたり、余程腕に自信があるのか、それとも単にからかっているだけなのか。 その真意は判らないが、それでも悠と戦う事に『恐怖』は勿論、『慢心』もないだろう。 なにせ七年前のあの日、藤村家を滅ぼすために投入された人数は凡そ千人を超えているのだから。 ゼムス「お前達は他のメンバーと遊んでやれ。この男は、どうやら俺でないと相手をしてくれないらしいからな」 悠「――――っ!」 自分自ら嗾(けしか)けるような言動を吐いた上での挑発。 それを知っている上での発言に、悠は更なる憎悪を膨らませ、その形相をさらに歪める。 「ほほっ。なにやら楽しくなって来たようじゃのぅ」 そんな場所に、不釣り合いにも程がある声が響き渡る。 全員がその声のする方へ視線をズラすと、 「どうした、始めぬのかえ?」 「ワシらは面白いものを見に来たんじゃがの」 そこには、見知らぬ“老人”とその老人の傍らでお茶を啜りながら見物している“レイア・モリガン・ルフェ”の姿があった。 [Back][Next] [戻る] |