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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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静まり返る周囲。

霊圧の波は対象を呑み込み、炸裂し、そして砂埃を発生させて消滅した。


香恋「やった…………の?」

メリア「まだわかりません。ですが、……っ……あのタイミングで完全に躱せる人は少ないと思います………ッ……」

香恋「ちょっとメリア、大丈夫?すごい汗だくだけど………」

メリア「平気……です。ちょっとだけ………霊力(チカラ)を使い過ぎちゃっただけ……ですから……」

香恋「もうあんたは戦わなくていいわ。休んでなさい。さてっと、ねえアンタ!そこのクソチビっ!」


メリアの身を案じながら、香恋は残る敵と対峙する。

現状で残っているのは茜華ただ一人。

しかし、先程の攻撃で雷景を倒せたのかについては未だに不明だ。

故に、気を緩めることは勿論、周囲の警戒は怠らない。


茜華「なんじゃっ!」

香恋「アンタの弟くんはどうやらやられちゃったみたいね?どうする?あんた一人だけになっちゃったけど」

茜華「別に良い。雷景は“あの程度”で倒されるほどヤワな鍛え方はさせておらぬからのっ」


茜華の言葉で周囲に走る緊張。

それは、戦いがまだ続いているという事を意味している。

茜華は言った。弟が“あの程度”で倒されることはないと。

そしてなにより、メリアが全力を注いだはずの一撃を、“あの程度”と判断した。

それが意味していることは、恐らく―――――



香恋「なるほどね……………どうやら、真・七宝聖天っていうのは伊達じゃなさそうね。確かに………最強の七人かもっ」


額と頬に伝う冷や汗。

香恋も本能的には理解していた。

彼女達の実力も、彼女達の覚悟も。

恐らく戦って死んでも本望だと言える者達だろう。

それだけディシアは彼女達にとって支えでもあるのだろうと。


そして、どちらかが動こうとした直後、近くの瓦礫の山が盛大に弾け飛ぶ。

その音に反応して、香恋はメリアを護る形でその様子を窺う。



弾き飛ばされた瓦礫の山から出てきたのは、やはり雷景。

確かに茜華の言うとおり、ヤワな鍛え方はされていない様子だ。

あれだけの一撃を受けても尚、雷景にはまだまだ戦う余力が残っているようなのだから。



雷景「いっつつつつ…………。あっぶねぇなマジでよ。もう少し反応が遅かったから完全におっ死んでるレベルだぜ、アレ?」

茜華「なんじゃ、もう起きたのか愚弟よ。つまらぬ奴じゃの」

雷景「うっせーよ。やることやんねえで寝てる奴に厳しいのは一体何処の誰だってんだよ、クソ姉貴っ」

茜華「雷景、姉上であるわっちに向かって“クソ”とはなんじゃ“クソ”とはっ!それではまるでわっちがお主に手厳しいように聞こえるではないかっ」

雷景「全部事実だっつーの。ったく、自分でやったこと自体忘れてやがるなこのアマは………っ。とにかく、この女は俺に譲ってくれたんだろ?なら、最期まで俺にやらせろよ」

茜華「ほっほっほ。解っておるのならば良い。うんうん。こころゆくまで楽しめ」

雷景「んじゃ、そうさせてもらうわっ」

香恋「ちっ――――」


ちょっとした姉弟ゲンカ?も済み、雷景は標的を再び香恋に変える。


予想出来ていたとはいえ、敵の復活に多少舌打ちしながらも香恋は構える。

今この場を自分が動けば、無防備であるメリアが危険に晒されるのだ。

だったら、動くわけにはいかない。

一対二の状況に不利感を覚えながらも、香恋は思う。


―――やれるところまでやろう、と。



雷景「そんじゃあ、景気良く死んでくれやっ!」

香恋「――――っ!」


餓えた獣のような眼で香恋に突進してくる雷景。

その時、


「悪いが、死ぬのは貴様だ―――――」


響き渡る、地獄の底から来るような声。

その声と同時に響き渡る霊圧。

その重さは、量り切れる領域を遥かに逸脱し、その受けたモノ全てを恐怖に陥れる圧力。

しかし何故だろう。香恋とメリアだけは、その霊圧に覚えがあった。


次の瞬間、雷景の背後の壁が盛大に破壊され、砂埃からは恐ろしいまでの“手”が這い出てくる。

突然の事態に雷景は反応出来ず、頭を鷲掴みにされてそのまま地面に叩き伏せられる。



雷景「―――がっ!?」

茜華「な、何奴じゃっ!?」


弟の突然の事態に困惑するも、冷静に対処する茜華。

その肩は、微弱ながらも震えている。


そう―――――――彼女は『恐怖』している。

砂埃に包まれているが、恐らくそこに居るのは人間を超えた“異形”。

自分達が到底到達することのない“領域”にまで辿り着いた者が発する『死』の“畏れ”。



本能が叫ぶ。

逃げろと、この場から早々に避難しろと。

しかし、身体は弛緩してしまったかのように動かない。


そんな恐怖を感じている彼女を他所に、砂埃は徐々に薄れ、その人物を現し始める。

最初に見えたのは黒い着物。

そしてその次には、黒き刀身が。

最後に現れるのは、“鬼”のように恐ろしく、“鬼神”のように歪な形をした仮面。


茜華「―――――ひっ」


仮面の奥に潜む瞳が彼女を捉える。

その瞳に捉えられた茜華は恐怖のあまり悲鳴が漏れる。


本能が理解していた。

この存在と戦う事は無謀だと。

この存在と刃を交えたが最期、自分達に明日はないと。


真・七宝聖天である彼女にそこまでの恐怖を抱かせる者の正体、それは――――――



雷景「誰だぁ、テメエっ!?人の頭をいつまでも……掴んでんじゃねえよっ!!」


自分の頭を鷲掴みにしている手を解き、そして弾き飛ばす。

雷景に弾き飛ばされた男はゆっくりと地に降り、“彼女達”を護る形で雷景達と対峙する。


雷景「テメエ!一体何処の誰だっ?!俺を真・七宝聖天の一人だって知っててやってんのか、ああっ!?」

茜華「ま、待て雷景っ!迂闊に向こうを刺激するではないっ!?」

「ほう。ならば貴様らが本物の七宝聖天というわけか。確かに、感じる力のレベルは桁違いだな」


雷景の言葉を聞いて、仮面越しに聞こえてくる声は、何処か納得気なものだった。

まるで存在が以前から解っていたような口振り。

そのことに、雷景はさらに言葉を続ける。


雷景「名を名乗りやがれっ!俺様が殺す第一万人目として表彰してやるぜっ!!」

茜華「雷景っ!!」

「名か?いいだろう。冥土の土産に教えおくとしよう。俺は――――」


左手を翳し、仮面を外す。

そこから晒し出される素顔。それは、メリアや香恋の二人にとっては馴染み深い、“あの男”の顔だった。



凍夜「王族特務・零番隊隊長。鬼藤凍夜だ。真・七宝聖天とやらの実力、しかと見せてもらおうか」


仮面の男――――凍夜は不敵に微笑みながら、いがみ合うようにして真・七宝聖天の二人と対峙した。

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あきゅろす。
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