D.C.S.B.〜永劫の絆〜 Page38 響き渡る重低音。 その範囲、質量から見て威力は言うまでもない。 正にこの世の終わりを見せるかのような光景が目の前に広がっていた。 メリア「……………どう、なったんでしょうか?」 凍夜「さてな。だが、あの威力から見て……敵は塵一つ残ってはいないだろう」 壮絶な威力を目の当たりにした二人は半場呆けたような表情で辺りを窺う。 そこに広がっている光景は先程までの機械気質なパイプや回路が見るも無残な結果となった惨状だけ。 その光景の中心に、二つの影が薄っすらと見える。 刹那?「――――――――」 アリオーシュ「………………っ」 二つの影―――“異形”を超え“異質”となった刹那と、その刹那に下半身全てを塵にされ、頭を鷲掴みにされた状態で持ち上げられているアリオーシュ。 その状況だけで全てを察することが出来る。 一に、刹那は完全にアリオーシュを殺してはいなかったということ。 二に、恐らくアリオーシュを半死半生状態にして嬲り殺しにすることが目的であるということ。 三に、今の刹那は恐らく前回同様正気ではなく。単にメリアが助けを求める声を呼応して暴走しているにすぎないということ。 アリオーシュ「―――――――微温(ぬる)いな。先程の一撃で俺を完全に殺さんとは。―――――………いや、わざと殺さずに嬲り殺しにでもしようと言う魂胆か……なるほど、確かに筋は通っているのかも知れん」 刹那?「―――――――っ」 アリオーシュ「……………やはり、返答はなし…か。ならば、本能のままに殺戮を尽くす“ケモノ”よ。今のうちに俺を殺しておけ。そうしなければ、いずれ後悔するぞ……?」 刹那?「………………」 アリオーシュの意図が伝わったのか、刹那は鷲掴みにしていた彼の頭を離し、地に落とす。 そして振り上げられる刃。 ――――――これで終わる。 確かにこれで終わるのだ。 そう――――――――思っていた。 振り下ろそうとしていた腕が、誰かの手によって阻まれる。 いや、振り下ろそうとして腕を、誰かに掴まれたと言ったほうがいいか。 ギリギリといった抑制の力が“異質”の異端を阻む。 凍夜「――――その辺にしておけ、刹那」 そんな時、制止を呼び掛ける声。 それは、振り下ろそうとしていた腕を掴み、それを止めた本人に他ならない。 凍夜「もうこれ以上、お前が手を汚す必要などない。これ以上の行為は無意味だ。なんの意味もない。それに、今ここでお前がそいつを斬り殺せば、お前もそいつと同じになってしまうぞ……っ」 刹那?「―――――――――っ」 凍夜「それに、手を汚すのは俺の専門分野でもある。ここは、俺に任せてお前は少し冷静になれ」 刹那?「――――――――ッッ」 制止の声は続く。 それは刹那が止めるという意思を見せるまでずっとだ。 刹那は“虚の本能”に従い敵を斬ろうとしている。 だが、凍夜はそれを良しとせず、彼を制止する。 そんな硬直状態まがいが少しだけ続いた。 しかし、そんなジレンマが彼の“本能”を刺激してしまったのか、 凍夜「いい加減にしろ、刹那。少しは―――――」 刹那?「―――――ッッッ」 凍夜「―――――――ごふッ」 腹部に走る鋭い痛み。 口元から溢れ出たように零れ始める赤い液体。 彼はよく知っている、この痛みの意味を。 彼はよく知っている、この赤い液体の意味を。 そう。彼の腹部には、 凍夜「刹……那…………お、マエ…………っっ」 メリア「―――凍夜さんっ!?」 彼女の悲鳴。 その声は、仲間(トモ)によってその腹部を貫かれた男に捧ぐ、悲哀の唄のようだった。 零れ落ちる鮮血。 それは床に大きな花弁を象りながら徐々にその範囲を拡大させていく。 飛来する身体。 それは定期的な速度を以って宙を舞い、その勢いを如実に物語る。 だが、凍夜は別に普通に刺されて吹き飛ばされたわけではない。 刹那が凍夜に向かって剣を投げ飛ばしたのだ。 予期せぬ事態に回避も防御も間に合わず、凍夜は飛来する剣をその身に受けた。 その結果が、剣を飛ばした勢いによって飛来している状態というワケだ。 だが、吹き飛ばされたと言ってもほんの数メートル。 取るに足らぬ距離であり、宙に舞っていた高さも差ほど高いわけではない。 地面を滑る音。 先程の凍夜が未だに剣に残っている衝撃の余波によって地面を滑っている音だ。 数十センチ程滑った後に停止する。 メリア「凍夜さんっ!」 彼に心配の声を掛けながら駆け寄ろうとする。 ―――――だが、 刹那?「―――――――――ッッ」 再び指先に集束し始める閃光。 それを見て凍夜は勿論、メリアに関しては顔面蒼白。 凍夜は先程の攻撃とアリオーシュとの一戦の所為ですぐには動けないのか、その場でたたらを踏みながら苦々しい表情を見せる。 その表情から読み取れることは避けられないという事と、受ければタダでは済まないという事。 その結果が導き出す解(こたえ)は良くて重傷、悪ければ死。 メリア「ま、待って下さい……刹那様―――!」 彼女から発せられる制止の声。 しかし、その想いは彼の“異質”に届くわけもなく。 限界にまで圧縮され、凝縮された閃光はその色を黒へと染め。 刹那?「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッッッッッ」 彼女の想いも空しく、黒き閃光は雄叫びとともに解き放たれる。 その瞬間――――― 別の誰かが割って入ったことに、今の彼らは気付くことはなく。 [Back][Next] [戻る] |