D.C.S.B.〜永劫の絆〜 Page33 放たれる氷刃。 それは絶対零度を持った氷雪の息吹。 喰らえば一人の例外もなくその身を氷結へと包まれるだろう。 しかし、アリオーシュはその攻撃を真っ向から受けた。 包み込まれる肉体。 通常であればその場で氷漬けとなり、砕け散るのを待つばかり。 だが、それが“通常であれば”の話だ。 氷雪の息吹が止む。 すると、そこには――――― 刹那「な……っ」 アリオーシュ「やはりな―――――所詮は、人間レベルか」 何事もなかったように平然と佇んでいるアリオーシュ本人の姿があった。 刹那「無傷…………だとっ…」 アリオーシュ「なるほど。確かに強力だが、俺には遠く及ばん。だが、貴様の放つ技は“俺の力によく似ている”」 刹那「………テメエの力と、俺の力が似てるだと?ふざけんな。テメエなんかと一緒にすんじゃねえっ」 アリオーシュ「それが普通の反応だ。ならばこの際見せておいてやろう」 そう言って、アリオーシュの右手の人差し指に凝縮し始める霊圧。 それは、今まで感じた事のない力でもあった。 アリオーシュ「これが、刀剣解放時に俺が放つ――――――蒼き閃光だ」 刹那「……………!?」 アリオーシュ「“蒼闇月下(アズル・オスクリダ・ルナ)”」 放たれる蒼き閃光。 それは何処までも澄み切っていながら闇へと誘う月そのもの。 この閃光を前にして、刹那は身動き一つ出来なかった。 直撃すればただではすまないことは理解できている、だがそれでも………何故か避ける気にはなれない。 そういった思考を頭に浮かばせながら、刹那は月の魔力によって魅入られ、その一撃をその身に受けた。 限りなく響き渡る破壊音。 何処か世界の果てにまで響きそうな一撃は、たった一人の敵を駆除するためにだけ放たれた。 それは考えるだけでもゾッとした光景しか浮かばせず、誰もが見たくもない恐怖と化す。 破壊と衝撃との間に生じた煙の中から落ちてくる一つの影。 その姿は見るに堪えなく、それでいて滑稽。 上半身を護っていた衣服は半数以上が焼け焦げ、その意味を失くし、そしてその面に付けていた仮面すら完全に破壊されていた。 刹那「く……そっ……」 忌々しげに吐き捨てながら敵を見やる。 だが、そこにすでに戦うはずの敵の姿はなく、気が付けば自分の目の前にまで来ている。 刹那「!」 アリオーシュ「―――――」 一息吐く暇もなく、その翼によって弾き飛ばされる体躯。 流石に受けたダメージが大き過ぎたのか、踏ん張ることが出来ずに近くの壁へと衝突してしまう。 上から落ちてくる瓦礫を除けながら、刹那は立ち上がる。 その身体には、無数の火傷や切り傷が惜しみもなく曝け出されていた。 アリオーシュ「………理解したか?いくら貴様が虚の力を手にし、それを真似て似せようと―――その力の差は天地ほどにも隔たっている」 刹那「―――っ―――っ―――っ」 アリオーシュ「人間や死神が更なる高みを目指し力を得ようと虚を真似るのは妥当な道筋だが――――それで虚(おれたち)と人間(おまえたち)が並ぶことは永劫ありはしない」 冷淡に告げられる言葉。 それには、真実も含まれている。 確かに妥当な道筋だ。 死神が更なる高み、力を手にするには同じでありながら別の種である虚を真似るのは。 しかし、それでも限界がある。 如何に優れようが、真似をし近づこうが、その二つが並ぶことなど永劫ありはしないだろう。 どちらかが、どちらかに染まる以外に。 刹那「―――っ―――っ、蒼牙………」 アリオーシュ「……………――――っ、無駄だと言っているっっっっ!!!!!!」 出来ないと、無駄だと言われても尚立ち上がり、その刃を振るおうとする刹那。 だが、そんな彼をアリオーシュは激情に任せて斬り捨てる。 弾き出される身体。 それを追う影。 迎撃しようと刃を振るうが、その前にさらに一撃見舞われる。 さらに吹き飛ばされた体躯は次々と柱にぶち当たり、その全てを容赦なく破壊していく。 斬り付けられた次には拳を叩きこまれ、その次には手刀によって腹部を貫かれる。 激しい痛みに耐えながら、刹那はその攻撃を耐え凌ぐ。 しかし、気が付いてみれば意識は飛びかけ、“勝つ”という心だけがその飛びかけの意識をギリギリのところで保管する。 柱を抉り、そして尚その上を削るようにして滑っていく。 ふと、身体から勢いが消える。 朦朧とする意識の中、そこは広い床になっていることに気が付く。 その時、自分の身体が浮く感覚がした。 そう。アリオーシュが刹那の残っている上半身の死覇装を掴み、持ち上げているのだ。 アリオーシュ「………何故、剣を放さない?これほどの力の差を見せつけられて、未(ま)だ俺を倒せるなどと思っているのか?」 刹那「………………――――はっ………力の……差、か…………それが何だ?」 アリオーシュ「なに?」 刹那「テメエが俺より強かったら、俺が諦めるとでも思ってんのか……?」 アリオーシュ「………っ」 刹那「テメエが強いってのは、会った時から解ってんだ…………それを今更、テメエの力を見せられたところで何にも変わらねえんだよっ。――――俺は、テメエを倒すぜ………アリオーシュ」 そう言った直後、アリオーシュの手から刹那の衣服が放される。 刹那はそのまま膝をつく形で床に足を付け、反撃出ようとする。 だが、 アリオーシュ「―――――戯言だ。柊刹那。お前のそれは―――――真の絶望を知らぬ者の。知らぬのなら解らせてやる。これが―――――」 アリオーシュの肉体が変化する。 それは今まで以上の禍々しさを発しながら。 とても形容し難い音を発しながら、それは正体を現す。 アリオーシュ「――――真の、絶望の姿だ」 まるで月夜の晩に現れる黒き龍のように。 彼の男の姿は、最早人外すら凌駕したモノだった。 [Back][Next] [戻る] |