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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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シン、と静まり返る一帯。

それは嵐の前の静けさと言っても過言はなさそうだが、今の状態は本当に静まり返った水面そのもの。


何物にも侵されず、何物も侵すことのない、そんな静けさ。

そんな心地の良い静寂を裂くかのようにして発せられる飛沫音。

その音は思った以上に小さく、そして短いものだった。



そしてまた暫くの静寂に包まれる。

だが、その短い沈静も宙より降ってくる空気を切る音によって遮られてしまう。

キン、という地に鋭利な金属が突き刺さる音が響く中で、二つの影はただじっとそのままの姿勢を保っている。


だが、それもほんの数秒。

一人は忌々しげに、一人はちょっとだけ悔しそうな声を各々で漏らす。



悠「ちぇっ。まさか、片方の剣が折られるなんてね」


先に声を漏らしたのは、少しだけつまらなそうに自身の剣を見て残念がっている悠からだった。

その声に後悔の色はなく、あるのは少しの“誤算”に対する落胆だけ。



デュナス「はっ。なにを落胆することがある?私を、ここまで“破壊”しておいて……………」


悠が落胆の声を上げた直後に、デュナスから漏れるのは忌々しげな声だった。

それは、自身の肉体の半数以上を破壊している結果に対して。

それほどの結果を招いているというのに、悠から漏れた落胆の声にデュナスは怒りすら感じている。


悠「別にキミをそこまで傷つけたことに対する落胆じゃないよ。ただ、技の完成形がまだ見えてないっていう事に対する落胆」

デュナス「技……だと?」

悠「そう。俺がキミに使った壱の型・『水面』。初の型である『空蝉』と違って、この技は厄介な点が多いってことなのよっ♪」

デュナス「どういう……意味だ?」

悠「キミはさ、水面の意味を知っているかい?これってさ、実は空と水面の境界線のことを指しているらしいんだ。俺が思うに、それは互いに互いを映し合っているという合わせ鏡みたいなものなんじゃないのかって………ほら、空は水面を映したかのように蒼く澄み渡り、水面は空を映したかのように青く澄み渡っている。どう?似たようなことしてるじゃない?」

デュナス「つまり、その技の完成形とは―――――」

悠「そう。互いを互いに映し合い、“騙し合っている”というのなら、この技の真意はその言葉の意味に該当される。だけど、俺はそれを再現し切れなかった。だから、二本のうち一本の剣は折られてる……」


がっくりと、あからさまな態度でため息を零す悠。

それがなんの嘘偽りのない心の現れであることは、敵であるデュナスにも少なからず理解できた。


デュナス「さて………私の肉体はすでに死に体だ。焼くなり煮るなり、好きにすればいい」

悠「そう。なら……………お望み通りっ」


すでに腹を括っているのか、デュナスには迷いなどが一切感じられない。

その意思に対して、悠も彼の潔さに同意するように、刃を振り上げる。


悠「バイバイっ♪楽しかったよ、デュナス・オルベーン」

デュナス「私は、悪夢でしかなかったがなっ………」

悠「そう―――――」


最後にデュナスの皮肉に短く返す悠。

その直後、彼は刃を振り下ろした。




――――――
――――
――





〜虚空神殿・王座の間〜



暗雲が漂うこの場所に、降り立つ影が四つ。

二つは男、残る二つは女。

その四人がそれぞれ年齢が違う事を、此処に追記しておこう。


ロビーネ「ご到着いたしました、“雷(いかずち)の御子”殿」

ライガ「ご苦労――――」


目的地に到着したことを伝えるな否や、ロビーネは軽く一礼の後その場から立ち去ってしまう。


すっと辺りを見渡す。

そこは、彼が物心ついた頃から知っている風景と何ら変わりなどなかった。


ライガ「――――変わらないな、此処は」


そっと口にした言葉。

それはまだ彼が“今”より幼かった日々を容易に連想させるに足る言葉でもあった。


目を細めて周囲を睨むように見つめる。

瞳には、怒りや憎しみなどといった“負”の感情が宿っている。

暫く周囲を眺めるように見据えていくと、ピタリとその動きが止まる。


そして、彼の持つ真紅の双眸がある一点のみを捉えている。

そこには、彼が最も憎く、そして最も殺してやりたいとさえ思っている男が玉座にのうのうと腰を下ろしていた。


「ほほぅ?これはまた、随分と懐かしい顔が見えているじゃないか……………ええ?ライオネス・ヴォルテッカー」

ライガ「“ディシア”――――っ」


鋭い眼光をさらに研ぎ澄ませ、ライガは己が標的を見据える。

対して、ディシアはさぞ懐かしいものを見るかのような眼差しでライガを見つめている。


二人の間に沈黙が訪れる。

ソレは重く、到底常人では耐えることなど不可能に近いほどの圧力。

そんな状況の中で、ライガに連れて来られた二人がその圧に耐えられるはずがない。


あまりの威圧の重さに膝をついてしまう二人。

それはまるで、全身から力が抜け落ちたような、そんな感覚。


二人が膝をつく音が聞こえてくると、ライガは覇気の放出を止める。

向こうもライガからの放出を感じなくなったのが判ると放出を止めた。


ライガ「ご、ゴメン―――大丈夫、二人とも?」

メリア「はい………私は、なんとか……」

ルン「私は……ちょっと、厳しい…かな?」


二人を身を案じるライガに、メリアは空元気で、ルンは少し辛そうに答える。

それを見て、ライガは自分が如何に軽率な行動を取ったかを理解する。


自分には護らなければならない人がいるのだと再確認すると、ライガは殺気を押し殺して再びディシアと対峙する。

ディシアはライガ達の様子を退屈そうに眺めていたのか、ライガが彼に向き直った時には欠伸すら掻いている。



ライガ「久しぶりだな――――――ディシア」

ディシア「そうかね?私としては、お前がこの場所よりいなくなって差ほど時間が経ったとも言えないが……?」

ライガ「確かにそうかもしれないが、オレにとっては久しいという言葉がしっくりくるのでなっ」

ディシア「まあ、そのことについてはどうでもよい。して、此度(こたび)は何用だ?」

ライガ「そんなモノ、決まっているだろ?」

ディシア「――――――だろうな」

ライガ「覚悟しろ、ディシア。今日が、貴様の命日だっ!」


レッドクイーンを構え、そのまま雷の如く疾走する。

今のライガはほぼ刹那と同等の体躯をしている。

それだけに瞬発力や機動力、そして腕力などは幼い頃の彼と比べるまでもない。

否。比べても意味をなさないだろう。

それだけ今のライガは全てのステータスに於いて他を凌駕している。


そう。その強さは一部といえど遺伝子の元となった刹那に届くほどまでに跳ね上がっている。

故に、今のライガは刹那のソレと同義であり、唯一違う点は力の運用エネルギーの変換資質のみ。

刹那は氷であり、ライガは雷。

これは彼を造り出すに至った『プロジェクトF』が大きく関係している。


刹那が文字通り氷雪の息吹なのだとすれば、差し詰めライガは雷の閃光だ。

その速度はすでにフェイトのソニックムーブを凌駕しており、既に瞬歩に届くほどの速さ。

その速度を以ってライガはディシアの背後へと回り込む。

勢いを剣に乗せ、上段より振り下ろされる刃。

それはすでに高速を破り光速を以って標的の頭蓋に叩き込まれる―――――



――――――筈であった。



ライガ「ギッ――――」


鈍く漏れる苦悶。

それはある激しい痛みを身体が訴えかけて来たなによりの証拠。

腹部に激痛が走る。

くぐもった呼吸を整え、ライガは恐る恐る視線をその先へと傾ける。


すると、


ライガ「やはり―――――貴様達が残っていたのか…………“七宝聖天”っ」


そこには、ロビーネを加えた計七人の騎士が、主を守護する形で佇んでいた。

水が滴る音が聞こえる。

その音の先には、彼の腹部を貫く矛が突き刺さっている。


ライガ「―――――く、そ……」


薄れていく意識。

その最中、彼の最も尊敬する者の声が聞こえた気がした。

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