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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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デュナス「な―――――――っ」


脈動する鼓動。

それは信じられないほど高速に循環し、全身の血液を沸騰させる。

徐々に全身の穴という穴から噴き出る汗。

それは嫌というほど味わった恐怖心。


「意外そうな顔してるね。ま、それも無理ないかっ」


お茶らけた様子で話しかけてくる人物を見るだけで鼓動は高速に伸縮し、いつ爆発してもおかしくないほどの速さで脈動する。

背筋に這い上がってくるのは“死”という恐怖からではなく、“絶望”という否定から来る絶対的な恐怖感。


呼吸も鼓動に合わせてその速度を増し、荒々しく彼の肺を満たしては破棄させを繰り返す。

額に溜まった玉のような汗は次第に重力によって滑り落ち、そして音を立てて床に付着する。

絶対あり得るはずがないと言いたいが、その否定の言葉すら否定されてしまう現実が、デュナスの思考を沸騰させ、彼に定めた思考をさせる余裕を与えない。


デュナス「きさ――――ま、どう……やって……」


やっと絞り出せた声は、何処か頼りなく、何処か恐れをなしているようだ。

それも当然と言えば当然だろう。

なにせ、今目の前に立っている人物こそは―――――――


デュナス「何故……平然と立っているっ!?“藤村悠”っ!!」

悠「―――――――♪」


先程自身がトドメを刺したはずの男に他ならないのだから。


困惑する思考。

それは頭の中身がぐちゃぐちゃな証拠だ。

誰であれ予期せぬ事態が起こった時、冷静に対処できる者がいるとしても、それは場によって変わってくるだろう。


デュナスの場合もそれだ。

彼にとって最も予期せぬ事態が起こったことこそが、彼が冷静さを失うなによりの証拠。

普段の彼ならばさらりと流すように対処し、そして済ませてしまうだろう。

だが、今目の前に広がっている光景に対してはその冷静さを欠かざるを得ない。

自分が殺したはずの人物がそこに立っているのだ。

これで冷静さを失わない人物がいるとしたら、それは生粋の殺人鬼かソレと同じ類いのもの。

如何に殺人や殺傷に特化した破面といえど、自分が倒し切ったはずの相手が生きていることに対しての対処法など心得ているわけがない。

つまりは、そういう事である。


悠「どうして生きてるんだぁ〜、って?そんなの簡単だよ。現に、“俺は死んでいないんだもの”っ♪」

デュナス「そんなはずはないっ!?貴様の肉を、そして心臓を貫いた感触は、私の手の中にあるのだっ!そして、貴様から流れ出る熱き血を私はこの手に受けたっ!確かに殺したのだっ!?私は、貴様をっ!!」


デュナスの疑問に、悠はさらりと答える。

その答えは至極簡単。

自分は死んでなどいない――――そういうことだ。

だが、デュナスにしてみればそれは有り得るはずがない。

彼の言うとおり、確かに彼は剣で悠の胸を貫き、そしてその剣から伝ってきた血をその手に受けている。

それが彼の言うなによりの証拠でもある。


そう。それが本当ならば、今目の前に立っている“藤村悠”は死んでいることになる。

しかし、本人は死んでいないと主張している。

これは、一体どういうことなのだろうか。


悠「そういえば、キミって霊力に関しては知っていても、『魔法』に関しては全く知らなかったんだよね」

デュナス「『魔法』?貴様達人間が作り出した戦闘技術かなにかと聞いているが?それがなんだと言うのだっ!?」

悠「それじゃあ聞くけど、キミは魔法に関してどこまで知ってるのかな?」

デュナス「詳しくは知らんっ。ただ、貴様達人間の持つ“敵を殺さぬお人好しの力”だ、という事は伝え聞いているがなっ」

悠「あららぁ………それは残念だったねぇ。確かに、俺達の魔法の中にはそういう種類も存在するよ。だけどね、俺達の世界に於ける“本来の魔法”は人も魔物も、そして破面でさえ殺すことの出来る力を持っているんだよっ♪他の魔法文化はところどころ違っているらしくてね。俺達はその魔法文化と同じことが出来ることを“魔術”と呼んでるんだけど、解るかい?」

デュナス「それが一体なんだと言うのだ?」

悠「判り易く言うと、この力で出来ることが予め決まってないんだよ。だから、こうやって――――――――――――自分と全く同じ精巧な“幻術”を生み出すことだってできる」

デュナス「なっ―――――」


すっとした手つきで悠がなにかを紡いだ瞬間、目の前に現れる悠と全く同じ動き、全く同じ姿をした数多くの“実体”。

それは明らかに異常を通り越した変貌。

幻が現実を侵食するなど誰が思おうか。

否。誰も思いはしないだろう。


しかし、目の前に起こっていることはまさに現実。

逃げることも出来ず、そして見続けるしかない地獄のソレだ。


悠「さて………さっきキミが言ってたことだけど、アレはこんな風に俺が作り出した精巧な幻術で、キミが殺したのは俺が作り出した幻術だったってわけよっ」

デュナス「バ………かなっ」

悠「さっきも言ったよね?キミみたいな奴とは嫌というほど戦って、嫌というほど理解してるってさ」

デュナス「いつからだ………」

悠「ん?」

デュナス「いつから……貴様は幻術と入れ替わっていたっ!?」


明らかな怒りを露わにし、デュナスの怒声が辺りに響き渡る。

屈辱からくるモノではなく、恐怖からくる怒り。

自分と戦っている存在が、途中から幻術などという偽物に掏り替わっていたのだ。

怒りこそすれ、恐怖が湧くのは当然だろう。

普通ならば考えもしない、戦っている最中の入れ替わりなど一体誰がやると思うのだろうか。


悠「そうだねぇ〜…………あのくそ生意気な破面くんを斬り殺したくらいからかな?」

デュナス「…………ほぅ、ジオを殺したあのときから……つまり、私とは最初から刃を交えていなかったと?」

悠「そういうことだねぇ。まあ、最もなのは達に指示を出したのは俺だけどさっ」

デュナス「という事は、貴様の真の力を見誤っていた、というわけか………」

悠「別に気に病むことはないんじゃないかな?今のキミになら全力で戦ったほうがよさそうだしねっ」


自分の不甲斐ないという負の感情に打ちひしがれているデュナスを前にして、不敵な笑みを浮かべる悠。

それは、これからの出来事が楽しみで仕方がないという子供のような笑みにも見られる。

それを見た者にしてみれば、ゾッとした恐怖感が背筋を掠めたことだろう。

なにせ、危険な男だと一瞬にして理解出来ることこの上ないほどの笑みなのだから。



悠「それじゃあ見せてあげようか――――――俺達が手にした、“呪い”の力をっ」

デュナス「――――――っ」


左手を翳す。

それは彼の虚化の合図だ。

だが、それをなにも知らないデュナスはただ構えていつでも迎撃できるように固まっているだけ。


その選択が誤りだと、すぐ後悔することになることも知らずに。

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あきゅろす。
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