D.C.S.B.〜永劫の絆〜
Page39
〜風見市光陽町・某所〜
凍夜「…………」
街を徘徊しながら、凍夜は顔をしかめていた。
凍夜「空気の流れがおかしい………。いや、空気だけではないな……これは…大気までも汚染されているというのか……………?」
一人でぶつぶつ独り言に集中していると、後方から足音が聞こえてきた。
凍夜「さて、どちら様だ?このような“紅き月”の出る夜に、一人で現れる者など皆無と聞くが……?」
「ほぅ。妾の気配を感じ取っての寸断か……。汝(なれ)、中々やるのよぅ」
クスクスと、さも楽しそうに微笑む“少女”。
外見は、一見して黒を強調としてゴスロリ衣装。
そしてその上には、白い羽織のようなものを羽織っている。
その珍妙な服装とは裏腹に、少女の顔は幼く、どちらかと言えば可愛い美少女、といったところが似合いの言葉だ。
だが、それは外見だけ。
この少女からはただならぬ“魔力”を感じ取れる。
凍夜「……何者だ、貴様?見たところ、魔族ではないようだが…?」
「なんじゃ、汝。妾をそのような下等な種族と同一と見られては困るの…」
凍夜「ならば答えろ…。何者だ、とこっちは聞いている」
「やれやれ……せっかちな奴よのぅ。折角妾が汝を好(す)いて来てやったというのに………これ故に男というものは………」
はぁ…、と大げさにため息を吐く。
だが、場の緊張は解(ほぐ)れはしない。
凍夜「……………まあ、貴様が何者であるかは“今”は問うまい。その代わり、別なことを聞かせてもらおうか」
「なんじゃ?スリーサイズならば教えてやらんぞ?」
やれやれといった感じで肩を竦める少女。
凍夜「貴様のような容姿の者にそんなこと聞いてなんになる?それに、俺はそんなものに興味などない。さて、こちらの質問だが……………その体中から漂ってくる、咽返るような“血の臭い”は、一体どういうことだ?」
先程まで肩を竦めていた少女の動きが止まる。
そして、それと同時に肩がぴくりと動いたのを、凍夜は見逃さなかった。
凍夜「………その反応から見て、なるほど。貴様、“真祖”だな?」
再び肩がぴくりと反応を示す。
たまにはカマをかけてみるものだな、と心中で考えていると、突然夥しいまでの殺気が、凍夜を襲った。
「ほぅ。妾たちの存在を知る人間がおろうとはな……。汝、名はなんという?」
凍夜「己の名前すら教えられない者が、相手に名を教えてもらえると思っているのか?」
殺気に対し、同じく殺気で返しながら、凍夜は斬魄刀に手をかける。
「ふむ。そうであったな。ならば教えてやろう。我が名は、“レイア”、“レイア・モルガン・ル・フェ”。愛称は、“レア”とでも呼んでもらえればよい」
凍夜「……っ!?」
その名を聞いて絶句する。
“レイア”、またの名を“レア”という女神がいた。
その女神は、ギリシャ神話に於ける創世時代より存在したと言われている原初神の一人であった、“ガイア”と呼ばれる女神を母に持つ、文字通りこの世界に於ける『神々達の母』と呼ばれる存在と同じ名だ。
それを聞いて、凍夜の背中には、ジワリと嫌な汗が伝い始める。
凍夜「……レア、か。大層な名を貰ったものだな。創生者は、“朱い月”か?真祖よ」
レア「なにゆえそのようなことを聞く?汝が聞いたところで、なんの意味も持たぬことであろう?」
緊迫した空気の中で、言い知れぬ威圧を感じ取っている凍夜に対し、彼女はあっけからんとした表情をしている。
レア「まあ良い。妾の名は教えた。汝の名、教えてもらおうかの?」
凍夜「鬼藤凍夜だ。見ての通り、人間だ……」
レア「鬼に、凍える夜…とな。汝のほうが大層な名をしている。まあ、それも良かろう。妾にとって、汝は最高の血の持ち主なのじゃからなっ。それに、ただの人間が、そのような“物騒な物”を引っ下げている、ということが解せぬが……?」
凍夜「全てお見通し、というわけか………。さすがは真祖。並大抵の敵とはケタが違い過ぎるというわけか…………」
レア「ふむ。この感じ……………、汝、以前彼の邪神と戦っていた人間の一人であろう?」
凍夜「なっ………!?」
レア「何故知っているのか、かえ?当然であろう。妾は全て見ておったのだから。だが、あまりにも弱いの、汝らは………“あの程度”の存在、あのように血塗れにならなくては勝てぬのかえ?」
凍夜「どう……いう、意味だ……?」
レア「あのような劣等種など、妾にとっては赤子と戯れることよりも容易い…と言っておるのだ」
その言葉を聞いて、凍夜は耳を疑った。
今目の前にいる少女は、一体なにを言っているのだろうか、と。
レア「ふむ。このまま汝といても妾の欲求は満たされぬようだな。それでは、妾は失礼させてもらおうかの。また会うときは、もう少し男を磨いておれ。そのときこそ、ゆっくりと可愛がってくれようぞっ」
そう言って、彼女は霧の中へと消えていった。
凍夜「…はぁ、はぁ、はぁ………」
彼女がいなくなってから数秒後、一気に身体の力が抜けたような感覚に陥って膝をつく。
凍夜「………はっ。これが、彼の有名な真祖の力と言うわけか。く、くくっ……。刹那、奴がいれば、俺達の創設する組織は安泰かもしれんな……」
誰もいない道路の真ん中で、凍夜はただ静かに笑いを零すのであった。
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