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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
Page27
―side to 静香―



刹那(子)「―――――煌天穿て、『暁』」


静かな声で、刹那がソレを呼んだ。

瞬間、世界はまるで別のモノになったかのように変貌する。


見渡す限り、周りにあるのは“氷の世界”。

とても冷たく、触れた瞬間に自分までも凍り付きそうなほどの冷度を持っている。

これが、刹那の、あの子の力なのだろうか。


だとしたら、お父様やお母様はとんでもない存在をこの世に遺してくれたことになる。


感じられる圧力は、もはやお父様に匹敵するほどの圧力を持っていた。

それだけで驚きなのに、あの子はその中で平然としている。

それがどういうことなのか、言われなくても充分理解できる。


恐らく、あの子は化(ば)ける。

とんでもない存在に、いつの日か必ず。


「……な、なんだ…貴様はぁっ!!?」


あまりの状況に、男は狼狽している。

驚愕も含まれているだけに、見ているこっちとしては滑稽に思えた。


刹那(子)「あんたが知る必要なんてないさ。さあ、覚悟は出来た?」


ゆっくりと歩み寄っていく。それは、強者が弱者に行う手口によく似ている脅しだ。

そんなことをする余裕がある、ということは、あの子はそれほどの力を手に入れたと見て間違いないだろう。

そして、あの子に詰め寄られている男は実力の差が大きく開かれたことに気がついたらしく、恐怖にガタガタ震えながらうわ言のように怯えているだけ。


そんな男の前に立つと、あの子は“剣”から“槍”へと変化した自分の武器を振り上げ、そして――――――、


刹那(子)「せめてもの情けってやつ。一瞬で終わらせてあげるよ……おじさん」


“トスッ――――”


一突きで心臓を貫いた。


命(あるじ)を失くした身体がゆっくりと地に伏す。

そして、重力に逆らう事無く、私たち家族や姉弟を恐怖させた一派の一人は、そのまま絶命した。


刹那(子)「お姉ちゃん……………大丈夫?」


男の命を奪った刹那は、いつもと変わらぬ素振りで私に手を差し伸べてくる。

その姿は、どうしようもなくいつも通りで、どうしようもなく悲しい姿だった。


静香「うん。ありがとっ」


ぎこちない笑顔を作りながらも、その差し伸べられた手を握る。

そして気がついた。


静香「刹那っ!危ないっ!!?」


すでに取った手を力の限り引っ張り、刹那と私の位置を入れ替える。

その次の瞬間、


“――――ヒュッ―――ズシャッ!”


私の胸に、刃が突き立てられた。




―side to out―




――――――――――――




―side to 刹那―




静香「刹那っ!危ないっ!!?」


――――え?


“――――ヒュッ―――ズシャッ!”


……………………え?


気がついたときには、僕はお姉ちゃんに押し倒された形になっていた。

だけど、なにかおかしい。

さっきの、なにかを“貫く”音と、なにかが“滴り落ちる”音。


なにかがポタリ、ポタリと落ちてきている。

それは、僕の頬や服、そして髪に落ちてきていた。

気になって拭ってみる。


そして、我が目を疑った。


刹那(子)「………え?血?」


そう。僕の上にさっきから落ちてきている雫の正体は、血だった。

それも温かく、それでいて鉄の味がする。

しかも、それは僕の“上の方”から落ちてきている。


まさかと思って僕の上に覆いかぶさるような姿勢でいるお姉ちゃんに視線を向けた、そのときだった、


刹那(子)「……おねえ…………ちゃん?」

静香「……んっ………っ…………よか……った…………ぶ……じ…で………」


僕の視界に映るお姉ちゃんは、口と胸から止め処なく血を流し、とてもつらそうな表情だった。

そして胸に視線を落とすと、思考が凍りついた。


刹那(子)「おね……ちゃ…………それ…………は……?」


凍りついた思考で唐突に理解した。

お姉ちゃんの胸から、“剣が生えていた”。

いや、これは生えているんじゃない。刺さっているんだ。


そう理解した瞬間、その剣先がゆっくりと引き抜かれていく。


静香「…ご……がぁ………あが……っ………」

「ふむ。どうやら“ノイン”の奴は失敗したらしいな」


“ノ……ノイン”?誰…だ?

聞き慣れない名前に困惑しながらも、必死に思考を回復させようと頭を沸騰させる。

だけど、お姉ちゃんがそれを制した。


静香「……………っ」


静かに、抑止するように首を横に振るお姉ちゃん。

恐らくこれはお姉ちゃんなりの警告と抑制。

今は堪えて、そんな気持ちが篭っているように思えた。


「………ったく、これだからあいつは連れてきたくなかったんだよ。弱ぇくせにでしゃばりやがって……それで死んだってんなら、とんだ笑い話だ」

「言葉を慎め、“ヴォルクス”。たとえ貴様が現“第3十刃(トレス・エスパーダ)”だとしても、それを口にする権利はない」


誰…だ?声が……幾つも…聞こえてくる。

それに、“第3十刃(トレス・エスパーダ)”?なんだよ、それ?


ぼやけかかった思考で必死に現状を把握しようと試みるが、目の前の光景があまりにも酷過ぎるためにそれは叶わなかった。


ヴォルクス「ヘイヘイ………オメエに逆らってもいいことはなにもねぇからな。大人しく従ってやるさ」

「では我々は撤退だ。もはやこの場所に用はない」

ヴォルクス「あ?まだ餓鬼が一匹生きてんじゃねぇかよ。殺さなくてもいいのか?この場所にいる人間どもを殲滅することが、雇い主の依頼じゃなかったのかよ?」

「別に構わん。もしものときは、俺が直接殺すさ」

ヴォルクス「へーへー。なんともお心の広いこってぇ」

「我々には“心”などない。それは、ただの雑念と一緒だ」


男達は俺や死にかけのお姉ちゃんには目も暮れず、その場を後にした。



…………
……



刹那(子)「お姉ちゃんっ!お姉ちゃんってばっ!?」


男達がいなくなってから暫くして、僕はやっとのことでお姉ちゃんを退かすことができ、その容体を確認して絶望した。


静香「……あ、あはは。ごめんね……刹那……ごふっ」

刹那(子)「な、なに謝ってんさっ。ほ、ほらお姉ちゃん、魔術とかってやつで傷口塞ごうよっ!」

静香「はぁ……はぁ……、それは……む……ごっ………り…よ。万全のときの私………なら………ね………けど、無理なの………っ」

刹那(子)「嫌だよっ!お願いだから、一緒にいてよ、お姉ちゃん!」

静香「……ねぇ、刹那…一つ、約束、しよう………か」

刹那(子)「こんなときに、約束ってなにさっ!?そんなことよりも……おね「いいからっ!」……」

静香「……いいから。約束しよう?私が、いなくなっても……………絶対に、泣かないって…………」

刹那(子)「約束するから、だから…………っ!」

静香「私がいなくなっても……………泣いちゃダメよ?」

刹那(子)「………だ、誰が泣くもんかっ」

静香「………ふふっ。ありがとう………せつ…な」

刹那(子)「…え?……お姉ちゃん?」


お姉ちゃんから感じられていた感覚が消えていく。

ねえ、起きてよ……お姉ちゃん。


ほら、僕泣かないって約束したよ?

絶対に泣かないって、約束したよ?


だから、お願いだから、起きてよっ!!


刹那(子)「………う、ぐっ…………な、く……もん…、かっ」


必死に込み上げてくる感情を圧し潰す。


刹那(子)「泣く……もんかっ!」


圧し潰した感情に圧し潰されないように、もう一度奥歯を噛み締めて声を殺す。


刹那(子)「……泣く…っ……もん……っ……か…………」


ねえ、お姉ちゃん。やっぱり、僕約束守れそうにないや……。

だって、こんなにも涙が溢れてくるんだもん。

いくら拭っても拭っても、止まらないんだよ?

これって、どうすればいいのかな?

止まるまで、拭えばいいのかな?

それとも、一気に流しきっちゃったほうがいいのかな?


僕、どうしたらいいかわかんないよ……お姉ちゃん。


ポツリ、と手に“雨”が落ちてくる。

それ“雨”は、いつの間にか大雨に変わり、僕とお姉ちゃんを冷たく濡らしていく。


刹那(子)「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


その大粒の雨が降り注ぐ中で、僕は泣いているのか叫んでいるのかわからない、けどどちらにでも捉えられる声を、ただ虚しく上げた。




―side to out―

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あきゅろす。
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