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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
Page25
―side to 静香―



脳裏に焼き付いて離れない、さっきの忌まわしい光景。

お母様の……首が……、あ、あぁ…いやぁぁあ……!!!!??


思い出すだけで胃の中身が喉を競り上がってくる錯覚に陥る。

気持ち悪い。それも生で見てしまった惨状。


他人ならまだやり過ごせるが、身内の死は生半可なものでは絶対に塗り潰せはしないだろう。

そう言えるだけの自信が、少なくともある。


現に、今がそうだ。

アレはもうすでに一種のトラウマと化している。

咽返るような血の臭いと、噴き出る赤い液体。

あれこそ、まさに地獄と言えるのではないのだろうか。


絶対にそうだ。あれこそが、私たち家族にとっての地獄。

思い出したくもない、忌まわしい存在の具現。


「――――――!!」


誰かが私の名前を呼んだ気がした。

そう思った瞬間、私は得体の知れない“ナニカ”によって身体を引っ張られた。


ああ、そうか。私にも来たんだ、「死期」が。

人間には、それぞれいずれ訪れる『死期』が存在すると言われているけど、たぶん私の『死期』はこれなんだ。


身体を引っ張ったってことは、私は空に投げ捨てられ、そして二つに裂かれる。

きっとそうに違いない。


けれど、これでお母様たちのところに逝ける。

それは、嬉しいことなのかな。


変な思考を浮かべている自分を心の中で嘲笑う。

私は、なんて不甲斐なく、それでいて臆病な者なんだろうかって。

私がいなくなったら、刹那は……あの子はどうなるのだろうか。


すでに一秒が数時間単位の感覚に襲われた思考で、そんなことを思い浮かべる。


多分、あの子ならなんとか一人でもやっていけるだろうな。


まるでスローモーションのように、外界の映像が送られてくる中で、そんな思考が浮かぶ。

それを思い浮かべただけで、ちょっとだけ寂しい思いになった。


ああ、私って………なんて弱い人間なのかな。

あの子のことを考えただけで、決心が折れちゃいそうだよ。

どうしてかな………どうして、こんなにも……………、


――あの子といられなくなるのが、寂しいのかな――




刹那(子)「――――お姉ちゃん!!!!」



消え逝く意識の中で、私はあの子の、刹那の声が聞こえたような気がした。




―side to out―





―――――――――
――――――
――――






―side to 刹那―




身体が硬直して動かない。

身体が金縛りのように動かない。

身体が恐怖によって動かない。


――――つまりは、逃げられない。


そんなことはわかってる。

だから、今なにが出来るのかなんて、考えただけ無駄だ。


だって、


「おやおや。もう鬼ごっこは御終いですか?残念ですねぇ。もう少し楽しめると思ったのですが…………期待外れだったようです」


この男からは、どう足掻いても逃げきれないのだから。


刹那(子)「………期待外れ…?白々しい………最初から期待なんてしてないくせにっ」


男の言葉に苛立ちを覚える。

最初から、この男にとって僕たち二人はただの石ころ程度の存在だ。

そんなちっぽけな存在に、一体なにを期待してたってんだよ。


「……ふむ。心外ですね。私は他の者達と違って、貴方方二人を高く評価していたんですが………?貴方方は彼の有名な御二人の血を継ぐ者。そんな方達を期待しないほうが、どうかしていると私は思いますけどね?」


男は僕の言葉が残念だったのか、少しだけ暗い表情を浮かべる。

だけど、なんだってこいつは僕たちをすぐに殺さないんだ?

向こうの実力は、僕たちよりも遥かに上。


そんなことは、なんの手解きも受けてない僕でも直感でわかる。

だけど、この男は僕たち二人の後を追い掛けはしたけど殺しにはかからなかった。

だが、結果お母さんはこいつに殺された……っ。


こんな………こんなふざけた奴に…っ。



「おや?どうかしましたか?そのような、“復讐者”のような顔をされて……」

刹那(子)「…………誰が原因か、なんて言わなくても解るはずでしょ。おじさん、そこまでバカには見えないよ…?お茶らけてるけど、実際はもっとヤバい人なんだってことも……っ」


睨みつけるように、いや実際睨みながら目の前の男に言う。

そう。この男の風貌はぱっと見、そんなに強そうには見えない。

だけど、それは外見だけ。

この男が相当の使い手なのは、僕の直感がそう叫んでいるから。


―――戦うな。戦っても勝機は微塵もないぞ、と。

下手なことを仕出かせば、たちまち殺される、と。


額には玉のような汗が幾つも浮かんでいる。

相当な重圧(プレッシャー)がこの男からは放たれている。


とにかく、この場はどうにかしてお姉ちゃんだけでも逃がさないと……。

ちらっと、僕の隣でうわ言のようにお母さんの名を呼び続けているお姉ちゃん。


正直、さっきのことが相当堪えているんだろう。

このまま発狂しかねないほど、危険な状態だ。

そうなる前に、なんとか手を打ちたいんだけど…。


―――――どうする?



「さて、最早時間はありませんので…………すぐに、」


――楽にしてあげますよ……――


ゾワリと全身の毛が逆立つのを感じた。

次の瞬間には、今までとは比較にならないほどの重圧が、僕たちを襲う。


くっ。このままむざむざと殺されてたまるかっ!

折角お母さんが、自分の命と引き換えに護ってくれた命なんだっ。

絶対に無駄には出来ないっ!


だけどどうする?僕には奴を打倒はおろか撃退するほどの力はない。

………………それも当然か。

だって、お父さんやお母さんからは、一度も戦いについて教えてもらったことはない。

お姉ちゃんでさえ、ごく稀に僕と組み手紛いのことをして遊んでくれていただけのことだし。


ここまで来ておきながら、自分の無力さに腹が立つ。

なんだって、僕には………、


――僕には、力がないんだっ!?――


“――ドックン…”


刹那(子)「……え?」


今、なにかの“脈動”を感じた。

それも、僕の“内側”から。


“ドクン――ドクン――ドクン――”


“脈動”は次第にその速さを増す。

なんとなくだが、僕にはコレがなんであるか理解した。


そう。これは……………、



『小僧………やっと我のところに来たか…』


目の前に聞こえてくる、“聞き覚えのない”声に目を開ける。

そこには、一頭の蒼き竜がいた。

見るからに、世間で言うなれば飛竜、それもワイバーンと呼ばれる種類の姿をしている。


正直、唖然とした。

なんで、こんな存在が僕の中にいるんだろうか、と。


『どうした小僧。我の顔になにか付いているのか……』


ボーッと自分を見つめてくる僕に疑問を抱いたのか、怪訝そうな顔――正直わからないけど――をしながら問い掛けてくる。


刹那(子)「………君は…誰?」


やっとの思いで絞り出せた言葉。

だけど、この言葉に聞きたいこと全てを含んで口にした。


『――――――我は、■。小僧、お主の元来持っている能力(チカラ)だ』


暫し思考が停止する。

一つは一部だけ言葉が聞こえなかったことと、一つは、信じられない、ということ。


だって、僕にはなんの力もないと、小さい頃にお母さんに言われているからだ。

僕には物騒な力なんてないから、幸せに、そして平和に暮らしてほしい、と。そう言っていたことを覚えている。


『………ふむ。それは嘘だな』

刹那(子)「………え?うそ?」


竜の言葉を聞いて、自分の耳を疑う。

一体、何が嘘だって言うんだろうか。


『貴様には、父方のほうから“死神”の血を濃く受け継いでいる。つまりは“真血”』

刹那(子)「…えっと、一体なんの話を………?」

『そうでなければ、我がいるはずはない。我が此処にいるということは、つまりはそういうことなのだ、小僧』


とりあえず、なんか無理矢理納得させられた。

要するに、お母さん達は僕の力については知っていたけど、教えたくはなかったってこと……になるの、かな?

まあ、確かにそう言われれば納得できる節はいくつかある。


小さい頃、お姉ちゃんに雑じって一緒に剣術を習おうとしたら、お父さんに閉め出され、挙句の果てにお母さんに捕まりおもちゃにされたことを今でも覚えている。

あ、思い出したら目尻になんか溜まってきた。



『一体なにがあったのか、までは追求すまい。せずとも、我はお主といつも共に在った。故に大抵のことは把握している』

刹那(子)「それって………プライバシーの侵害ってやつなんじゃ……」

『細かいことは後回しにしろ、小僧。今お主がせねばならぬことはなんだ?』


そう言われて思い出す。

そうだっ!僕は今こんなところで呑気に雑談していられるほどの余裕なんかない。

今は一刻も早くお姉ちゃんを逃がし、そしてあの変なおじさんをどうにかして打倒しなくちゃっ!


刹那(子)「ねぇ!話はもう済んだんだよねっ!?だったら、僕を元いた場所に戻してよ!早くしないと、お姉ちゃんがっ!」

『まあ待て。そんなに急ぐ必要はあるまい。向こうと此処では、時間軸の流れが大幅に違い過ぎるからな。それに………』

刹那(子)「……な、なんだよ?」

『お主はどうやら、我の名が聞こえていないと見える。それでは戻ったところで無駄死にだ……』

刹那(子)「………っ」


くっ……。確かに、コイツの言ってることは正しい。

僕なんかが戻っても、ただの犬死だ。

これじゃあ、なにも護れやしないっ!


お姉ちゃんも!そして、ほかのみんなも―――!


『力が…欲しいか?小僧』

刹那(子)「!?」


竜の声にバッと顔を上げる。

竜の銀色をした瞳には、真剣な眼差しだけが燈っていた。


刹那(子)「………本当に、力を、護ることのできる力をくれるの?」

『うむ。それは約束しよう。お主にとって護るための力を、我は与えると、な』

刹那(子)「…………じゃあ、どうすればいいの?力を手にするには、どうすればっ」

『そう焦るな。案ずることはない。ただお主は、自然な気持ちのまま、我の声に耳を傾ければいい――――』

刹那(子)「じゃあ、誓いを。アンタと僕だけの、誓いを結ぼう」

『それも良かろう。では、此処に誓いを結ぶ。我が主の名の下に…』

刹那(子)「その誓い、確かに受け取ったよ……」

『ならば征くがいい。現実に戻ったときこそ、我の力全てをお主に託す……』

刹那(子)「……うん。ありがとう」

『ではな、主よ。またいずれ会うであろう……』


その言葉を皮切りに、僕の意識は遠ざかっていく。

その、遠ざかる意識の中、僕の瞳に映り込んで来たモノは……、


蒼き僕の守護竜と、


“氷で象られた丘”に、何処までも続く“武具の墓標”だった。



―side to out―

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あきゅろす。
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