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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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―side to 悠―


何処からか“声”が聞こえる。


“―――、か――――よ―――!!”


それは何処か、僕の“胸の内”から語りかけてくるような声。

されど聞こえてくるのはいつも眠っているときだけ……。

起きているときに聞こえてくるわけがない。


そう思って、その声を無視し続けた。



凍夜(子)「………悠くん?」


軽く頭を振っていると、凍夜が心配そうな面持ちでこちらの表情を窺っていた。


悠(子)「……平気だよ。ただ、ちょっと眠くなってきちゃったのかも……っ」


たはは…、と笑い話にもならないことを口にする。

この非常時に、何処に眠くなる子供がいるというのだろうか。


まあ、先程嘘でもそう言ってしまった自分は、恐らく例外に入ってしまうのだろうけど。


凍夜(子)「………はははは、悠くんってば…」


苦笑しながら、凍夜が僕の言ったことを軽く笑い飛ばす。

まあ、そうしてくれた方がこちらとしてもありがたいんだけどね。


凍夜(子)「………ねぇ、悠くん」

悠(子)「ん?なに?」


先程までの空気を濁すかのように、凍夜は恐る恐る声をかけてきた。

その表情は、あんまりいいものではない。

多分、聞いてくることはだいたい見当が付く。


だって、僕も凍夜に聞きたいことがあるとすれば、それは同じことなんだから。


凍夜(子)「悠くんのお父さんやお母さんは、どうしたの?」

悠(子)「…………………」


やっぱり、その質問が来たか。

あんまり思い出したくもない記憶を掘り返して、静かに告げた。


――二人とも、目の前で殺されたよ………――


と。


僕から返ってきた答えを聞いて息をのむ凍夜。

多分、予想していたことよりも遥かに上をいく回答だったんだろう。


聞かないほうが幸せだった、とでも言いたげな表情だ。

その意見には僕も正直賛成。

だって、知り合いの身内の最期を聞く、だなんて怖くてできやしない。


仮に出来たとしても、それは自分のときと変わらない絶望の巻き返しでしかない。

それなら、あんまり追求なんてしないで、そっと悟ってあげたほうが、相手にも、そしてなにより自分にとっても賢い選択だ。


そう。ヒトの真理の奥の奥………………なんて大層なモノは、知らなくてもいい、パンドラの匣(トラウマ)と一緒なんだから。




―side to out―




……………
………






―side to 刹那―




鮮血が舞う。

それはまるで噴水のような勢いを以って。


ビチャビチャと、聞いただけでもゾッとする音が何回も何回もそこら中に響き渡る。


咽返るような鉄の匂い。

されど、それはヒトを生かすための赤き液体。


それはどうしようもなく人の感覚を麻痺させてしまう。

強いて言うのであれば、感覚が凍りつく、といった感じだ。


僕の近くでお姉ちゃんが泣いている。

それは悲鳴という叫び。

あまりにも衝撃的な事実を目の前に突きつけられて、混乱している存在の証拠。


その隣にいる僕は、どういうわけか落ち着いていた。

さっきはお母さんの変わり果てた姿を見ただけで取り乱していたのに。


どうして…?どうして僕は今、


――心が冷たいんだろう――



「……まずは、一匹…か」


ふと、僕たちの後ろで声がした。

―――振り返る。すると、そこには男が一人で立っていた。


その瞬間、僕の内側から湧きおこった感情は………………“恐怖”だった。


此処にいてはいけない。此処にいてはしぬ。

此処にいては殺される。此処にいては二人とも助からない。


この四つの思考が、僕を埋め尽くしている。

本能がそう告げているんだ。


この場にいては、絶対に助からない、と。


刹那(子)「……お姉ちゃんっ!!」


咄嗟に走りだす。

その先には未だに泣き叫んでいるお姉ちゃんの姿。

だけど構わない。


今はどう足掻いてもこの場所から逃げなくちゃならないから。


お姉ちゃんの身体を掴む。

そして、そのままの勢いでお姉ちゃんの衣服を引っ張った。






走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る。



身体が重い。足が重い。腕が重い。

そしてなにより――――風が重い。


圧し掛かってくる重圧は一体なんの意味があるのだろうか。

否、恐らくこれらにはなんの意味などない。

意味などないけど意味はある。


そんな矛盾した思考が、脳裏に浮かぶ。


くそ―――!そんな余分な思考など振り払えっ!

今はそんなことを考えているより、逃げることだけに集中しろ!!


頭に浮かぶ余計な思考を弾き出すように、心の中で言い聞かせる。

そうだ。今は余計なことを考えている余裕などない。


そんなことに頭を使っている余裕があるのなら、今は必死に逃げることだけを考えろ。

所詮、今の自分にできることなんて、たったそれだけなのだから。


静香「………お、かあ様……お母様…………おかあ……様…………」


後ろから聞こえてくる声が煩わしい。

後ろから迫ってくる影が煩わしい。

そんな余計なことを考えている思考が煩わしい。


ギアを上げろ。もっと上げろ。

そうしなければ、いずれ追い付かれる。

そうなったら、僕たちは……………、


「終わりだな……小僧」

刹那(子)「っ……!?」


瞬間、聞きたくもない声が頭の上から響いてきた。

――――上を向く。


その瞬間、思考を含む全てが凍りついた。


そこには、


「この私からここまで逃げたこと、存分に褒めて差し上げましょう。その代わり、褒美と言ってはなんですが、貴方達に『死』をプレゼントして差し上げます……っ!」

刹那(子)「――――――あ、」


闇夜に浮かぶ“死神”のように、狂喜に満ちた微笑みを浮かべた、


ある種の“闇”が、僕たち二人を見下ろしていた。



―side to out―

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あきゅろす。
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