D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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―side to ???―
「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………」
暗がりの中を、ただ必死になって走っていた。
――――理由なんて定かではない。
ただ、本能に従って、僕はこの暗がりの中を“逃げている”。
いや、正確には“僕たち”だ。
そう、“僕たち”。僕、“鬼藤凍夜”と僕の妹である“鬼藤雪香”の二人だ。
僕に手を引かれながら、雪香は泣きじゃくった顔で必死に走っている。
そうしなければ、僕たちは“死んでいる”のだから。
何故僕たちが狙われているのか、なんて、子供である僕たちには解るわけもなく、ただ必死にその『死』という概念から逃げるようにひたすら走る。
雪香「…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
凍夜(子)「………ずっ、お父さん。お母さん……っ」
自然と眼から涙が零れてしまう。
そのことに気が付くと、僕は慌ててそれを拭う。
だって、僕は雪香のお兄ちゃんなんだ。こんなことで泣いてたら、雪香まで不安にさせてしまうのは目に見えている。
だったら、今この瞬間だけは強がって見せよう。
それが、雪香のためであり、なにより僕自身のためでもあるのだから。
「――――!――――、――――――――!!」
走る。たとえこの身が千切れようとも。
雪香だけは助けてみせる。
「――――――!?――――――ちゃん!避けてっ!!」
凍夜(子)「………え?」
“ゴキャ!ゴシュ!――――ブシャアアアアアアアアアアアア!!!!!”
――――――え?今、“なにか”が潰れたよう……………
凍夜(子)「……っ!?」
振り返らなければ良かったと、振り返った瞬間に後悔した。
だけど、振り返ってしまった。それはもう後戻りはできないとでも言いたいかのように。
凍夜(子)「…あ………あぁ………ぁあぁ………………あぁぁあぁぁ………」
瞳を見開く。
まるで、信じられないモノを見ている気分だった。
いや、恐らく“信じたくなかったのかも知れなかった”、心のどこかでそう思ってしまう。
そこには―――、
凍夜(子)「あぁあ…………あ、あぁ、ああぁぁぁああぁぁ…………………ぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁああぁぁぁぁぁ………………………………………」
そこには―――――――――、
凍夜(子)「あぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁァァァァァアァァァァァァァァァッァァアアアアアァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁあああぁぁああぁぁああぁぁAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaAAaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????????????????????????????」
――――身体がまるで10tトラックに時速120キロほどのスピードで激突されたように“ひしゃげて”おり、そしてなにより…………雪香の顔が………顔が、“無くなっていた”。
…………い、一体なにが。
……………なにがあったって言うんだっ!?
わなわなと震え出す身体。
それは、恐怖と絶望、そしてなにより憎しみから。
雪香だったモノは、未だに胴体から止め処なく血が噴き出ている。
その様は、まさに噴水と言ったほうが的確な表現だった。
首が、いや頭がないというのに、その身体は未だに僕の手を握ったままその場に立っている。
気持ち悪いとは思わない。けど、いつまでも手を握っているわけにはいかなかった。
凍夜(子)「!」
勢いよく手を振りほどく。
でも、僕の手から雪香だったモノの手は離れてはくれない。
次第に苛立ちが募る。
思い切って乱暴に雪香だったモノを突き飛ばしてみた。
すると――――、
“ドスン―――!”
離れた。いや、倒れたと言ったほうがいいのだろうか。
とりあえず、僕の手を握っていた手は、僕の手から離すことが出来た。
じっと、雪香の亡骸に視線を落とす。
ジワリと、瞳に涙が滲んだ。
髪にでも付着した血が垂れてきたのだろうかと、試しにそれを拭ってよく見ると、それがなんであるか唐突に理解した。
僕は………泣いていたんだ。
当たり前か。目の前で大切な妹が“何か”の手によって死んだんだ。
泣かない奴のほうがどうかしてる。
次第にその波はどっと押し寄せて、瞬く間に僕を飲み込んでいく。
泣き叫びたい衝動を抑え、ただ“雨”が止むまでずっとその喉を殺し続ける。
それが終わったら、“やらなくちゃならないこと”があるんだ。
だから神様、お願いします。
――――僕に力をくださいっ。
誰にも負けない、そして誰も彼も救えるような力をっ!
凍夜(子)「…………………っ」
ぐっと出かかった声を無理矢理飲み込む。
多分、こんなこと言っても仕方がないと思ったからだ。
相手はすでに亡き人。
言いたくても、相手はすでに亡く、聞いてもらえることは叶わない。
そしてなにより、今さら何を言ったところで全てが遅い。
だから、この言葉だけは言わないで行くよ。
いずれ胸を張ってお前に会えるように。
…………
……
雪香の亡骸を看取った僕は、静かに立ち上がる。
凍夜(子)「―――――ねぇ。いい加減出てきなよ、お侍さん?」
誰もいないはずの場所に話しかける。
いや、この表現はおかしいかもしれない。
だって、誰もいないはずの場所になんか、誰も話しかけはしないだろう。
だから、誰かがいるはずの場所、と言ったほうが的確かな。
まあ、今さらそんなことはどうでもいいんだろうけど。
凍夜(子)「ねぇってば、聞こえてるんでしょ?返事くらいしてよ………?」
先程と変わらない態度のまま、僕はそこにいると思われる人物にまた語りかける。
だけど、ちっとも反応はない。
――――しょうがないなぁ。
凍夜(子)「出てこないなら、僕から行くねっ」
にっこりとその方角へ微笑みかけながら、僕は一歩、その場から動きだした。
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