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D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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はやて「…………って、なんや始まったかと思うたらさっきの展開」

愛香「凍夜くんって、自分の恥ずかしいことは絶対に口にしないタイプかと思ってたのに……………ある意味すごいね」

凍夜「頼むからそこの二人、回想している最中にこういったツッコミと天然を発動させないでもらえるか?正直、場の雰囲気が台無しだ」

稟「お前、場の雰囲気とか考えて進めてたんだ」

凍夜「それは当然だろう?それほどのことを話そうとしているのだからな」

稟「………そうかい(もはやなにもツッコむない)」

とりあえず、凍夜の心意気を悟った稟は、錆つきまくった鎖で自分のツッコミ魂を抑止することを決意した。


さて、そんな彼らを尻目に、回想はどんどん進んでいく。



凍夜「まず七年前のある日、それは起こった――――」




――七年前――





世界は暗い空によって包まれていた。

いや、正確には時刻は深夜。つまりは夜の出来事だ。


街灯はところどころ壊れ、照らされるはずの道すらも、黒の色によって染められている。

そんな暗い夜道を、一人の少年が必死になって走っていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


走る度に息は擦れ、呼吸もままならない。

額には玉のような汗が幾つも滲み出ており、それが走る体の振動に合わせて頬を伝い、すでに通った道に一つ、また一つと落ちていく。


目の前の光景は依然として変わらず、相変わらずの暗闇だ。

それでも、少年は必死に走る。


それは、“何か”から逃げるように。



“グルルルルルル――――――”



何処からか、唸るような呻き声が聞こえてくる。

だが、少年は立ち止まらなければ振り返りもしない。


まるで、“ソレ”の正体を知っているかのように、恐怖で硬直しようとする身体に鞭を打ち、先程以上の速度で走り続ける。


走る、走る、走る、走る、走る、走る。


されど、減速することはない。

速度を落とせば諸共に喰われるのがオチだ。


―――――喰われる。そう、喰われるのだ。



少年をまるで標的(エモノ)のように追うモノはまさに魔物(ケモノ)。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


途切れ途切れになる呼吸はすでに整うはずもなく、ただ空しく回転するエンジンのように空回りし始める。


そして――――――、



「っ!?うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!????」



それは、無慈悲にも少年に飛び掛かった。






……………
………



噴き出る赤い液体。

それは、否応なしに地面を紅く染め上げる。


点々と地面を染め上げていくシミを辿って行くと、二人の人影が見えてきた。


一人は少女。歳は大体高校に上がったくらいの歳だ。

外見は水色の腰まで届く長髪に、整った顔立ちをしており、美人と呼ぶにはもってこいの人物だろう。


その隣では、少女に手を引かれながらともに走る少年の姿があった。

歳の程は、小学校の高学年に上がったばかりの歳だろう。

歳に似合わず、髪は蒼みがかった銀髪を持ち、瞳はそれでいて深い青(サイレントブルーと呼ばれる色)に染められている。


少女と少年は必死に走っていた。

その必死さは、まるで外敵から逃げるような、そんな必死さ。



「はぁ…はぁ…はぁ…、“刹那”!しっかり走って!」

刹那(子)「ま、待ってよ、“静香(しずか)”お姉ちゃん!」


彼らの名前は“柊静香”と“柊刹那”。

名字からも察せられるに、この二人は姉弟であり、家族だ。


“柊静香”

この当時はまだ16歳の年端もいかぬ少女。

魔術師、退魔の家系でもある柊家の次期当主の役割を担っており、そして、柊家最強と言わしめるほどの実力を誇る女性だ。


そんな彼女が、弟である“柊刹那”の手を引きながら、必死になって“何か”から逃げている。

その“何か”というのが――――


静香「くっ。お父様やお母様がいない隙を狙ってくるなんてねっ!なんとも悪趣味な敵さんだことっ」

刹那(子)「お、お姉ちゃん………」

静香「泣かないの。刹那は男の子でしょ?だったら、どんなときでもどっしり構えて、ふんぞり返ってなさいっ!」

刹那(子)「う……うん…………」

静香「(それにしても、まさかこれだけの魔物を同時に操れるなんて…………奴ら、一体何者なのっ!?)」


そう。彼女の言うとおり、今彼女達を追っているモノ全てが魔物なのだ。

その数はすでに百を軽く超えており、群がる魔物は遠くから見れば蠢きまわる虫の集まりと同等に見える。


静香「(どちらにしろ。あいつらの正体が解らなきゃどうにもならない、それに……)」


ちらっと横目だけで自分に手を引かれながら走っている弟(刹那)を見る。

その表情は怯えきっていて、泣きべそすら浮かべている。


静香「(これじゃあ、どうにもならないじゃない!?せめて、お父様やお母様さえ帰って来てくれれば……なんとかなるのに!)」


悔しそうに表情を歪めると、今彼女に出来ることは仕事でこの地にいない父と母の帰還を切に願うことしかなかった。





さて、ここで少し柊家のことを話そうと思う。


本来、柊家は魔術師の家系ではなく、退魔の家系であった。

元々は魔術師の家系ではあったのだが、何十代か前の代でその血は廃れていき、いつしか魔術回路を持った子は生まれなくなっていた。


しかしどういうわけか、二代ほど前の、つまり刹那や静香とって祖母に当たる人物が、生まれたときに魔術回路を持って生まれてきたのだという。


元来、魔術師の家系で一度血が廃れれば、魔術回路は絶対に発現されることはない。

だが、ここに一つの異例として、彼女達の祖母が魔術回路を発現して誕生したのだ。

彼らの遺族や血縁者達は、これを“先祖返り”と呼んで称え、喜び合った。


これでまた魔術師の家系として歩むことが出来る、と。

そう信じ、喜びに浸っていた矢先、一つの事件が起こってしまった。


それは、彼女達の母親、“柊玲奈(ひいらぎれいな)”が魔術師として歩まず、挙句の果てに時空管理局に入局し、魔導師になるという異例を発したためだ。

このことに、遺族や血縁者達は怒り狂った。

彼らの怒りの矛先は当然彼女の母親、つまりは刹那達の祖母、“柊葵(ひいらぎあおい)”に向けられたのだが、魔術や退魔の才能が飛び抜けていた彼女には、到底敵うはずもなく、遺族達は渋々玲奈の時空管理局入局を許可する。


それから、暫くして、再び事件が起こった。


それは、玲奈が自分の伴侶として連れて来た一人の男が原因となっている。


その男の名は“柊羅刹(ひいらぎらせつ)”。

後の刹那と静香の父親である。


誰にでも優しく気さくで、それでいて他人のために歩み続ける、という感じの男だったのだが、彼には一つ問題があった。


その問題というのが、彼が“死神”であるということ。


尸魂界にいるはずの死神を、こちらの都合で婿にするのはいただけないというのが、遺族たちの見解であった。

それに、死神という異端な存在を受け入れることすら異例であり異常だ。

そのような異端な存在よりも、正当な魔術師の家系と縁を結ぶべきだと、遺族達は口を揃えて言ってきたという。


しかし、ここは“あの”刹那達の母親。ただむざむざと引き下がるわけもなく、玲奈は一つの口約束を、遺族達と交わす。


その口約束というのが、


“自分と羅刹の仲を認める代わりに、自分達の生まれてきた子供には、きちんと魔術師の家系を継がせる”


というデタラメ且つ子供にしてはハタ迷惑なモノだった。


しかし、魔導師としても魔術師としても当時優秀であった玲奈の言葉に、遺族達は異を唱える者は一人もいなかったという。


というわけで晴れて結ばれた二人の間に、二人の子供が生まれた。


それが、柊家長女、“柊静香”と長男の“柊刹那”である。

そして約束通り、静香には魔術師の当主としての全てを教えたのだという。

まあ、その内容はどのようなものだったかは定かではない。

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