D.C.S.B.〜永劫の絆〜
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〜柊邸・リビング〜
ことり「ん〜。それにしても、刹那くんって本当にお料理上手だよね…………」
叶「そうだね。けど、別にいいんじゃないの?」
ことり「そうなんだけど、やっぱり女の子としては、男の子にお料理で負けるだなんて、正直悔しいっすぅ〜…………」
叶「あ、あはははは…………」
リビングで楽しい朝食のひと時の中、少女達はやはり男性によって用意された美味しい料理の味に、がっくりとその意欲を削られていた。
亜沙「………むむ〜」
愛香「…えっと、どうかしましたか?亜沙先輩」
亜沙「………うーん。これほどの腕前を持ってるせっちゃんに、次期料理部部長を任せようかなぁ……なんて邪な考えを募らせてるんだけど…ほら、うちの部ってボクとカレハと楓の三人じゃない?だから、ずっとボクの後ろをついて来た楓も外しがたいというかなんというか………」
愛香「えっと、別に無理に刹那くんを部長に仕立て上げなくてもいいんじゃ…………」
亜沙「あぁんもうっ!なんだってせっちゃんはこうもお料理が上手なのよぅ〜……!お姉さん困っちゃうじゃなぁい…………」
愛香「…………あ、あははは(刹那くんが料理部に入るのかどうかも怪しいこと、亜沙先輩わかってるのかな……?)」
苦悩する亜沙をよそに、愛香は心中でそんなことを呟いた。
もちろん、ほかの誰にもそんなことは悟られないように、だが。
そんな楽しい朝の食卓を満喫?していたときだった。
刹那「おっ。凍夜、お帰り」
凍夜「ああ」
凍夜が帰宅した。
刹那「なんか朝いなかったみたいだけど?何処行ってたんだ?」
凍夜「少し、魔王に用事があってな。それで家を離れていた」
刹那「魔王のオッサンのところに?なんでまた?」
凍夜「………………」
刹那の質問に、答えづらそうな面持ちで顔を逸らす凍夜。
眼を逸らすあたり、ほかの誰かには教えていないのだろう。
少なくとも、今の刹那が知らないのだ。残りのメンバーで知っていそうな人物は悠くらいであるが。
刹那「なんだよ、もったいぶらずに教えろよっ。別に、教えて損するような情報でもないんだろ?」
凍夜「………………別に、教えてやっても構わんが、まず先にこれだけは約束しろ」
いい加減面倒になって来たのか、渋々口を開き始めた凍夜。
その瞳には、少しだけ言いづらそうな感情が篭っている。
刹那「なんだよ?あんまり無茶な約束ならお断りだけど、出来る範囲でなら聞いてやらんでもない」
何故か偉そうに語る刹那だが、次の瞬間、その悪ふざけも吹き飛ぶこととなる。
凍夜「いいから、真面目な話なんだ。ふざけながら聞くというのであれば、この場にいる者“全員に被害が及ぶぞ”?」
その言葉にギョッとする刹那。
何故、彼がそんなことを言うのか。
その真意は解らないが、本当の意味での“真面目な話”であるということは理解できる。
刹那「わかった。約束ってやつを言ってくれ」
凍夜「一に、この後俺がなにを話そうが、絶対に“霊圧だけは乱すな”。二つに、この先俺がどんな話をしようが、絶対に“殺気を撒き散らすな”。……以上だ」
刹那「…………は?」
先程凍夜の言った言葉に疑問を抱いた。
何故彼は“霊圧”と“殺気”の二つを“乱すな”などと言って来たのか。
それほどまでに、凍夜から聞こうとしている話は自分にとって不利益なものなのだろうか。
考えても考えてもその真意は掴めず、刹那はただその条件を呑むことでしか答えを見つけることは出来なかった。
凍夜「……わかった。それじゃあ、言うぞ」
凍夜の言葉にただ頷く。
そして、凍夜の言葉を聞いた次の瞬間、
凍夜「―――――、―――――――――」
刹那「!!」
全身の毛がざわめくのを感じた。
速くなる呼吸。 整わない視界。
重く圧し掛かる、忌々しき“言葉”。
言葉の意味を失くした。
生きている心地を失くした。
感情というモノを失くした。
自分というモノを亡くした。
思考は断裂され、あるのはただの剥き出した本能。
吼えることは赦されず、しかし吼えずにはいられない。
高ぶる感情を抑制しようと脳を使うが意味を為さず、“ソレ”は加速し続ける。
“コレ”は一体、どのような感情だったか?
怒り、憎しみ、畏怖、殺戮、狂喜……………どれも違う。
否、どれも“当て嵌まって”いる。
だが、これを一つにした感情など在っただろうか。
だが、別の言葉で言い表すのであれば、これこそまさしく“本能”。
ヒトが原初の奥深くに封じ込め、一時の感情が高ぶること以外では発することのないようにと、精神(カラダ)の何処かで“誰か”が叫んでいる。
「―――!―――――!?―――――――!!!!」
誰かが呼んでいるような気がする。
だが、すでに聴覚を失った耳はあまり意味を為さず、その擦れたような雑音を身体の何処かに響かせているだけ。
「―――!?―――――!?―――――――――!!!!!!!!」
誰かが必死に声を振り絞って自分に呼びかけている。
だが、潰れた瞳から映り込んでくる映像は、ぼんやりとしていて、それが誰なのかが定まらない。
重いこの身に宿るのは、一体なんだったか?
この身は、一体なにで創られていたのか?
この身は、一体なにを宿すためのモノだったのか?
――バチバチバチバチバチィィィ!!!!!――
何処かの回路が焼き切れるような音が、すぐ近くで鳴っているような錯覚に陥る。
聴覚はすでにその機能を焼かれ、意味を為さなくなっていたはずなのに、何故この耳障りのような音はすぐ近くで鳴っているのだろうか。
そんな余分な思考が行き来する中、
―体は、幻想で成り立っている―
そう、自分に言い聞かせるような声が聞こえたような気がした。
凍夜「――い、し――――ろっ!」
浮上した意識に先程の声が響いてくる。
よく見れば、視力が戻っているようだ。
刹那「………う、あれ?」
ぼんやりする意識の中、目を覚ました。
周りには、刹那を取り囲むように恋人達や家族達が集まっている。
刹那「………………あ、れ?みんな、一体どうしたん、だ…?」
香恋「どうしたのはこっちよっ!アンタが急にぶっ倒れて霊圧解放したりするから、一体どうしたものかと思っちゃったじゃない」
刹那「……え?」
安堵しつつも怒鳴りつけてくる香恋の言葉に、刹那は自分の耳を疑った。
彼女は、今なんと言ったのか。
急に倒れて、霊圧を解放した、と言ったらしい。
刹那「は、はああっ!?ちょっと待て!俺が倒れたって、い、いつっ!?」
麻弓「え?いつって、ついさっきよ?倒れてから目覚めるまでの時間は、大体8〜10分程度の短い時間だったけど……」
刹那「……………(あんなに長く感じた変な感覚が、そんなに短い時間で起こった現象なのか……けど、一体なんでそんなことに?)」
などと考えていると、頭上から鉄拳が振り下ろされた。
――ごすっ!!――
刹那「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
あまりの衝撃とダメージに頭を抱えながらその場に蹲り悶える刹那。
そして、鉄拳を振り下ろした本人はというと、
亜麻「もうっ。せっちゃんったらお母さんにこんなに心配させてぇ。本当に心配したんだからねっ!」
なんて、とても母親らしい発言を吐いていらっしゃった。
刹那「んご〜〜〜っっっ」
しかし、鉄拳を受けた刹那本人はシャレにならんほどの痛みが残留し、亜麻のお説教など耳にも入っている様子はなかった。
メリア「それにしても、一体どうしたんですか?急に倒れられたのでびっくりしましたよ?」
ライガ「昨日、なにか疲れるようなことでもしたの?」
はやて「私らは別になにもしてへんよ?」
ライガ「いや、なにもはやてさんたちになにかされたのかとか、そういうのは一切聞いてませんからね?それに、そんなこと言ってる時点でなにかしたと自白してるようなモノじゃないですか」
はやて「あっれ〜?おかしいな?私そんなこと言うてたっけ〜?」
フェイト「………はやて」
なのは「にゃははは…………」
とりあえずこの際墓穴を掘っているようなおマヌケな少女達のことは放っておいて、話を進めるとしよう。
凍夜「平気か?」
刹那「ああ。けど、なんだって急に意識が………」
凍夜「恐らく、俺の話の中に出てきた“奴ら”のことだろうな」
その言葉を聞いた瞬間に、刹那の中でなにかが蠢いた。
慌ててそれを抑止する刹那。
彼自身、自分の身体だけにこの反応は異常ではないのか、とさえ思うほどに体は敏感にその言葉に反応していた。
凍夜「その様子を見る限り、あまり話してもいいような話題ではないな。悠に話しても、似たようなことにはならなかったが、流石に殺気や霊圧を完全に抑えることは出来ずじまいだったからな………」
改めて自分の話題について後悔の念が滲み出ている凍夜。
彼からすれば、この反応は“あの惨劇”を知っている者ならば起こって当然のことだろう、とのこと。
凍夜「とりあえず、一応部屋に行って少し休め。今度は別の意味で倒れられたら堪らんからな」
刹那「ああ。そうするよ」
ふらふらと立ち上がりながらも、恋人達の手を借りながら、刹那は部屋へと戻って行った。
瑠璃「凍夜………刹那のさっきの殺意ってなんなの?」
凍夜「俺達にとっては、忌まわしい記憶のことだ。いや、これを記憶と言ってもいいのかも怪しいか」
珊瑚「もしかして、昔のことと関係してるの?」
凍夜「完全に関係がない、というわけではないな」
茜「その当時に、一体なにがあったんですか?」
凍夜「………………っ」
蓮「凍夜様……」
百合「顔、怖い………」
凍夜「………………いずれ話さなければならない時が来るとすれば、それは今なのかな」
仙禮「だったら、みんな呼ぶ?それとも、僕たちだけにする?」
凍夜「刹那以外の全員を此処に呼んでくれ。全てを、俺達がこの島からいなくなるまでのことや、いなくなってからのことを、包み隠さず話す時が、来たのだから」
凍夜のその決意に満ちた声に、少女達は全員黙ってうなずき、それぞれ縁のあるモノ達に、連絡と取りに動き出した。
ついに語られる、忌まわしき過去。
その過去は、果たして――――――
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