D.C.S.B.〜永劫の絆〜 PageE 暗く、深い森の中をただ黙々と歩いていく。 彼ら全員がこの島に来て最初に思ったことは、生物が生息していないということに対する小さな疑問だった。 最初の頃はあまり気にも留めていなかったが、今こうしていると、その理由がなんとなくだがわかるような気がした。 この森だけではなく、この島全体が“死んでいる”のだ。 無論、目の前にある木々は生い茂っており、枯れ果てているというわけではない。 では何故そう思うのか? それは、周囲に漂う邪気やそれに類する気が原因なのだ。 その理由を決定づけるのはやはり“邪神”の存在。 封印されても尚、その封から漏れ出す邪気。 それが数十年もの時間をかけてこの島全体、いやこの島にかけられている結界内全体を覆い、蝕んでいるのだ。 長い年月の中で蝕まれ、汚染された『気』は、やがてそこに生ける存在にもその牙を剥いた。 故にこの島には生ける存在など無く、仮に汚染された『気』を浄化したとしても、完全な浄化は数十年の月日を要するだろう。 刹那達が捜索を始めて約二時間が経過しようとしていた。 突然皆の足が止まる。 その理由は一つ。 今まで周囲に流れていた大気が微弱ながら変化したからだ。 全員がそれぞれ武器を構える。 全員が武器を構えた途端、周りに生えている木々や草が慌ただしく揺れ始めた。 “―――――――――ゴクッ” 誰かが飲み込んだ唾の音が周囲に響き渡る。 瞬間、それが合図となった。 刹那「散解っ!!」 刹那の掛け声とともに全員が別々の方向に跳ぶ。 その瞬間、草むらや林の中から“邪神”の『分身体』が持ち得る技、生き物の姿を象った影、『魔影獣』が勢いよく飛び出してくる。 魔影獣A「ガアアアアアアアッ!!!!」 魔影獣B「キシャアアアアアアアアッ!!!!」 魔影獣C「ゴアアアアアアアアアッ!!!!」 魔影獣D「オオオオオオオオオオオオッ!!!!」 雄叫びを上げながら獲物を狙いに来る獣達。 数は全部で25。 距離を離そうと元いた場所から跳んだ刹那達だが、この獣達の身体能力を見る限りあまり意味はなかった。 刹那達が跳ぶと同時に飛び出してきた獣達は刹那達をまるで囲うようにして飛び出している。 それは必然的に包囲された獣達に飛びかかられているのと同意だ。 あと数秒もすれば刹那達はズタズタに切り刻まれるであろう。 だが、それは刹那達が“常人”だったならの話である。 跳びかかってくる『魔影獣』の一匹から鮮血が舞う。 そして次にはなにかが吹き飛ぶ音。 その次に地面になにかがゴトリと落ちる音が響いた。 これとまったく同じ音が、ほかにも十数……………合計“25”回鳴った。 周りには血の海と死骸の山。 血の海は誰のところにも出来ており、彼らの足元を濡らし、また死骸も同じように首を刎ねられ、身体の四肢を悉く切り刻まれていた。 そう。全ては一瞬の出来事だった。 最初に飛び出してきた『魔影獣』の首を刹那が刎ね飛ばし、次にその身体をバラバラに切り刻んだ。 ほかの数秒遅れて飛び出してきた獣達は、最初の獣同様首を刎ねられたり潰されたり、体の四肢を切り刻まれたり吹き飛ばされたりした。 これほどの行動を、彼らは一瞬で成し遂げたのだ。 故に“常人”というカテゴリには当て嵌まるわけがない。 全員は己の武器についた血を払い、そして鞘に納める。 香恋「ふぅ。これが凍夜の言ってた『魔影獣』ってやつ?」 香恋が少し気持ち悪そうな顔をしながら確認を取る。 凍夜「ああ。構成されている霊子、そして内包している魔力の桁から見て間違いないだろう」 香恋の確認に、凍夜は斬魄刀を鞘に仕舞いながら頷いた。 諒「………ということは」 刹那「……ああ。この先にいるってわけだな」 香恋「“邪神・ヤトノカミ”――――――」 香恋の言葉に、刹那達全員が頷いた。 この先に待っているのは“邪神・ヤトノカミ”。 しかし待っているのは『本体』ではなく『分身体』。 力量は刹那達に届くか届かないか辺りだが、それは以前の話。 今は以前に対峙した以上の力を内包している可能性が極めて高かった。 それだけに、刹那達の中に渦巻く不安の気配は消え去らない。 堕ちたとはいえ相手は“神”。 そんな存在(モノ)と戦って無事で済むはずがない。 彼らが胸に抱えているものは不安だけでなく恐怖。 そんな“負の深淵”を背負ったまま、刹那達は歩を進めた。 [Back][Next] [戻る] |