D.C.S.B.〜永劫の絆〜 PageD それから約数時間―――――― 陽は傾き、太陽は自身の体を闇へと沈めていく。 そう、時刻はすでに夕方。 ここから、刹那達の死闘が始まる。 魔王「それじゃあ、刹那くん。私達が戦力を揃えるまでの間、頼むよ……」 刹那「はい。それが俺達の仕事ですから」 夕刻の浜辺に佇む船を前にして、魔王は刹那に対し、とても苦々しい顔をしながら自分達の到着までを頼んだ。 そんな魔王に対し、刹那は自信に満ちた微笑みを返す。 そんな刹那の微笑みに、魔王も精一杯、苦笑いではあるが微笑み返す。 このとき、すでにラバーズ達は船の中へと入り、出発の時を待つだけ。 しかし、彼女達は魔法によって眠りについていた。 それが、王達のできる唯一の情け、とでも言えばいいのだろうか。 恋人を死地へと向かわせるのは誰とっても嫌である。 故に、それはそのための処置。 船が島を出発するまでの暫くの間、神王が稟に泣きながら抱きついたり、魔王もそれに便乗して稟に抱きついたりとなんだか今生の別れを惜しむかのようなことをしていたりする。 そして、時間がやってきた。 船はすでに初音島に向け航路を走っている。 刹那達は船が見えなくなるギリギリまでその場を離れることはなかった。 辺りが次第に暗くなってきたところで、船の姿はコメ粒程度の大きさになっていた。 刹那「さて…………」 まるで振り切るかのように後ろに向き直る刹那。 その手には斬魄刀と、デバイスが握られている。 刹那「始めるか。俺達に任された仕事を―――」 後ろに向き直った刹那の眼には、皆がそれぞれ武器を手にし、いつでも戦えるような状態で立っていた。 悠「さぁてと、俺達は捜索の前に一仕事終わらせておこうか」 いつも通りの余裕たっぷりの表情をした悠が、少し背伸びをしながらその場に屈み、地べたに手を付ける。 それに続くように、刹那と凍夜もまた、屈みながら地べたに手を付ける。 瞬間、地面に付けている三人の手から光が溢れ出した。 その光に呼応するかのように少しだけ島全体が“揺れる”。 周りの者達はなにが起こったのかわからず、ただ狼狽するばかり。 中には“邪神”の本体が復活したのではと思った者もいたらしく、自身の武器に手をかけていた。 ほんの少しの揺れが治まり三人が立ち上がると、驚くことに空が少しだけくすんだ色へと変化している。 香恋「……な、なに…あの空?」 眼前に広がるくすんだ色をした空に驚愕の声を上げる香恋。 刹那「今この島全体に、俺達三人で厳重に結界を敷いた。外界からは視認できず、そして魔法での察知や霊力を使った捜索も遮断する結界をな」 稟「ってことは、今この島の存在を知っているのは………」 刹那「俺達だけってことになる。実際、本体のデカさを考えると、多分この島の約半分以上の規模だ。そんな奴を外界にでも出現させたら初音島の住人はもちろん、世界中の人が恐怖のどん底に落ちちまう。それを防ぐための保険だ」 稟達の抱えている疑問に、延々と答えていく刹那。 創「しかしどうするよ?俺達はともかくライガはまだ子供。あんまり危険な目に遭わせたくないのが、親の性ってやつじゃないのか?」 刹那「それについては俺もライガに言い聞かせたよ。けど、誰の受け売りなんだか、頑固な部分があってな。俺と一緒に戦うって言って聞かなかったんだよ」 ライガのことを気遣っている創の言葉に、刹那は苦笑しながら我が子を見つめる。 刹那自身も、本来ならライガをメリア達のところに置いておきたかっただろう。 なにせ、自分はこの戦いで死ぬかもしれないからだ。 自分を失った彼女らには“支え”が必要だ。 その“支え”としてライガを選んだのだが、そのライガでさえ、親不孝と言えば親不幸なことをしている。 もはや、彼には呆れてものも言えなかった。 呆れたのは自分が死ぬことになるかもしれないことを完全に理解していないことに対してではない。 ライガ程の年頃はまだ母親に甘えたい者が多々いるだろう。 そしてその逆で、母親もまた、ライガ程の子供にはまだまだ甘えてもらいたいと思う者も多々いることだ。 それ故に、刹那はライガの行動にはほとほと呆れた。 子は親より早く死んではならない。 誰かが言った言葉だ。 それは親や子が互いに支え合って生きていかなくてはならないからだ。 片方を失えば、どちらか片方が崩れ落ちる。 ライガにはその“支え”ということ自体が理解しきれていなかった。 自分が死ねば、必ず母達は皆悲しむだろう。 しかし、父を生かして帰すことが出来れば、母達の悲しみは半減するはず。 それがライガの考えだ。 しかし、刹那にとってその考え自体が堪らなく嫌だった。 自分達の間に出来た、初めての子供。 たとえそれが養子という形であっても、それは別の絆で固く結ばれた確かな『証』と言えよう。 その『証』を失えば、自分は恐らく壊れてしまう。 外見はなにも変わらない。 けど、内面はガラリと変わってしまうだろう。 その変容は、恐らく自分をあの英雄と同意とさせる要因ともなる。 そうなるのは刹那にとって御免被ることだ。 故に護る。 自身の命を賭してでも、ライガやほかの者達を守り抜く。 そう、この身に誓い、刹那はみんなとともに森の中へと入って行った。 [Back][Next] [戻る] |