もう一人の戦術予報士
2
「アレルヤ」
「なんですか?」
「部屋に戻れ。昼寝するぞ、付き合え」
「えぇ?」
なぞるついでに引っ掴んで、ロキターシュはアレルヤの腕を引っ張った。
アレルヤが踏ん張ればロキターシュの力ではどうすることも出来ない。
だが、アレルヤは抵抗をしなかった。
上擦った声をあげ、ロキターシュを見る。
「ロキ?」
「俺たち戦術予報士は、マイスターたちが100%の実力を出してくれると信じてプランを立てる。
もしお前たちに不調が出れば、ミッション失敗どころかお前たち自身も危険に晒されんだよ」
わかってんのか?と、ロキターシュが、いつもは眠そうな垂れ目でアレルヤを睨んだ。
その眼力に、アレルヤが言葉を詰まらす。
ただ睨まれるだけなら、アレルヤは負ける気はしない。
だが、ロキターシュの目は。彼の目は、怒りと共に心配の色が濃く出ていた。
そんな目で睨まれて平気で居られるほど酷い心をアレルヤは持っていない。
きっと、ハレルヤも持ってはいないだろう。
「ごめんなさい、ロキ」
しゅんと、大きな体ですまなそうに縮こまる。
ロキターシュはさっきまでの鋭い目を引っ込め、いつもの眠そうな目を眇めた。
「分かればいいんだよ」
ちょっと怒りすぎたかとは思ったが、一筋縄ではいかないのがマイスターだ。
口で言っただけでは分からないだろう。
ティエリア辺りなら、殴るなり何なりしないと分かってくれそうに無い。
「でも、僕の部屋ベッド一つしかありませんよ?」
昼寝宣言をし、居住区域に進むロキターシュの背中に呼びかける。
手は相変わらず握られたままだ。
肌の色もだが、その白い腕の細さが自分の腕と比較されてより細さを強調している。
アレルヤが軽く振り払えば、その腕は難なく落ちるだろう。
だが、そうする気は起きなかった。
今まで、誰かに手を引かれてこうやって進んだ記憶は無い。
腕に触れる体温が温かかった。
「大丈夫、俺は何処でも寝られるから」
「そうだろうけど」
それは知っている。
さっきもそれを目の当たりにしたばかりだ。
ニッと笑うロキターシュは、自分より七つも年上とは思えない少年らしさを含んでいた。
「いいか?俺はミッション中も寝られるけど、お前らは一時の気の緩みさえ許されないんだぜ?黙って寝てろ」
「お願いですからミッション中寝るのは止めてくださいよ」
さらりと言われた台詞に苦笑する。
彼ならやりかねない。
スメラギだって、ミッション行動中に酒を飲んでいた。
「善処はする。だけど寝ちまうもんはしかたねぇだろ」
「それって、努力する気ありませんよね」
「あ、わかる?」
そのうち、ブリッジのロキターシュの座席にリクライニング機能が取り付けられる日も近いのではないのだろうか。
数分後、宣言通り部屋の隅ですやすやと眠るロキターシュと、ベッドの上で静かに目を閉じているアレルヤの姿があった。
ありがとうと君に囁く
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