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もう一人の戦術予報士






ロキターシュ・ヴェルネは変わっている。それは、プトレマイオス乗組員の全員の総意であった。

ストレートのオレンジの髪、垂れ目がちな茶色の瞳。
欧米の血の入った白い肌に、整った顔立ち。
そうなれば女性に持てることは必須であるが、彼は『観賞用』に留まる人間であった。

まず第一に、体格がお世辞にもよいとは言えない。
ひょろりとしているを通り越して、成人男性にあるまじき細さの体は、体重やウエストを女性と比較しても大差はない。
そのクセ身長はちゃんと伸びており、ロックオン以下ティエリア以上を有している。
モレノから再三カロリー摂取を言い渡されているのに関わらず、寝過ごしたり面倒くさがったりで食生活は乱れまくりだ。
クリスティナから「ロキさんって細いって言うか、薄いですよね」と男としては大変不名誉なコメントをいただいたほどである。

次に、服装。ゆったりしているのが好きとは言えど、程度がある。
明らかにサイズの合っていないシャツとスウェットが彼の標準装備だ。
時々サンダルで出歩いているから油断なら無い。
いつ何が起きるか分からないから、機能性に優れたものを履くように指示が出ているはずだ。
 
最後にして最大なのが、彼の言動だった。
簡単に言うと奇行。神出鬼没で、行動が読めない。
ものぐさで面倒くさがりかと思えば、はっとしたように頭をフル回転させてみたりする。
そして、戦術予報士として優秀な彼は、同時に睡眠欲が半端無い。
人間の三大欲求が、全て睡眠欲に回されているんじゃないかと思うくらいだ。

今日も、その睡眠欲は遺憾なく発揮され、ガンダムキュリオスのマイスター、アレルヤ・ハプティズムを呆れさせていた。


「ロキ、何もこんなところで寝なくても」

ガンダムが収容されるコンテナに、彼はいた。
大方、キュリオスのデータを抜いていたのだろう。
電源の入ったままの端末が近くにある。
整備を手伝おうと来てみたらこれだ。

「ロキ、起きてください。風邪引きますよ」

近くに毛布か何か無いかと探してみるが、無い。
声を大きくして肩を揺らすと、寝起きのいいロキターシュは気がついたようにまつげを揺らした。
睡眠量が多い分、質は悪いらしい。
すぐに覚醒したロキターシュは数回瞬きをし、アレルヤを見た。

「おはよ」
「おはようございますロキさん」
「……なにしてんの?」

周りを見て、今時分が何処にいるのか理解したロキターシュは、整備員ではないマイスターを胡乱気に見た。

「何って、整備の手伝いをしようかと」

特攻が多い分、キュリオスの機体は小さな傷やバグが多い。
それを次の作戦までに直すのがイアンたち整備員の仕事だ。
だがアレルヤはまかせっきりにするのが嫌らしい。
いや、他の人が働いているときに休んでいるのが落ち着かないのだろう。
彼はマイスターで、肉体の消耗が激しいのだから大人しく休んでいればいいのに。

「ミッション終わったばっかりだろうが。体休めとけよ」
「大丈夫ですよ、僕は頑丈ですから」
「そうかもしんねぇけどな。物事には不測の事態ってもんが付き物なんだぜ?」
「その不測の事態が起こらないように、ロキたちが戦術をくれるんでしょう?」

にっこりとアレルヤが笑う。
信頼されるのは嬉しい。
嬉しいが、ロキターシュの心中は複雑だった。

「あのな、体調不良で動けなかったら意味無いだろう?」
「だから僕は頑丈なんですって」

たしかに、筋肉のついた体は頑丈そうだ。
ロキターシュには縁の無かったその体を指でなぞる。








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あきゅろす。
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