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もう一人の戦術予報士






「俺、元々ユニオン軍に居たんだよ」
「そうなのか?」

最初の告白から、少なからず驚いた。
守秘義務に触れるどころか、思いっきり違反している。
あまりにもさらりと言うものだから、前置きがなければ世間話か何かかと思って聞き流していたところだ。
戦術予報士の彼がよしと判断したのだから大丈夫なのだろうが、割と適当な部分のあるロキターシュに、刹那は一抹の不安を抱いた。

「これとは一応同期でさ。よく話した」
「そうか」
「刹那も聞いたから分かると思うんだけど、なんていうかこいつは変態だから。
こう一度火がつくと自分へのダメージなんか度外視で突っ込んで来るんだ。
お陰でコイツの作戦プランを練るのは苦労した。練り直しが半端じゃない」

思い出したのか、ロキターシュがくつくつと笑う。

「優秀な技術者が隣にいるはずだ。
対お前用にカスタムしてくるぞ、絶対。
外装が今回と少しでも変わってたら気をつけろ。
性能は今回の比じゃないはずだ」
「了解した」

まるで未来が見えているかのようにロキターシュが断言する。
そう断言できるほど彼はこのフラッグファイターのことを知っていて、笑えるほど近しい関係を築いていた。
今、ロキターシュが所属しているのはソレスタルビーイングで、ユニオンとは完全に対立している。
あまつさえ、刹那は先ほど件のフラッグと交戦してきた。
今回のこれは偶然に過ぎないが、近い将来本格的な戦闘に発展する可能性は十分にある。それは、刹那よりも先を見据える力のあるロキターシュがよく判っているだろう。

「ロキターシュ・ヴェルネ。どうしてお前はソレスタルビーイングに入った?」

率直な疑問だった。

「そうだな。別に俺は直接戦争の被害は受けていない。軍に居ただけだ。
家族と死別したのはただの事故だし、元々俺は戦争をする側の人間だった」

戦術予報士は、ソレスタルビーイングの指揮権を持っている。
人を使う以上、その人を知ることを必須とし、ヴェーダを通じてメンバーの経歴は知っていた。
悲しみや辛さなど競うつもりもないし、競うものではないが、マイスターたちよりずっと安全な日々を送ってきていたことは明らかだ。
刹那の過去も知っている。
だから、慎重に言葉を選んで話す。

「俺がユニオンで屈指の戦術予報士になって少しして、一つの戦術プランを頼まれたんだ。
酷いもんさ。あれは虐殺だ。
戦力の残っていない敵に対して、絶対的物量差を持って殲滅をかける。
俺はそんなプランを立てるために戦術予報士になったんじゃない。
被害を最小限に。俺にはドンパチやる才能は欠片もなかったから、頭を使って人を助ける。そのための戦術を立てる」
「ロキターシュ」
「だから俺は軍を辞めた。そんな非道なことを正義とする軍が赦せなかった」
「それで、ソレスタルビーイングに?」

こくり、とロキターシュが頷く。

「軍隊があるから戦争が起こるのか。戦争が起こるから軍隊があるのか。
そんなことは分からないけど、戦争がなくなれば、軍隊の存在意義はなくなるだろう?
存在を消すことはできなくても、戦争の抑止力として、俺たちがいればいい」

いつも寝起きのような顔のロキターシュが、眉間に皺を刻んでいた。
それほど彼の決意は固い。

「ガンダムなら、それができる」
「刹那?」
「だから俺は、ガンダムマイスターになった」
脈絡の無い刹那のセリフに、一瞬戸惑ったものの、ロキターシュは力が緩むのを感じた。
知らないうちに、力が入っていた。
白くなった指先を見て苦笑する。

「わかってるよ刹那。わかってるから、あまり無茶はしないでくれ」









どうかこの子に愛の盾を








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