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もう一人の戦術予報士






「刹那」

男の呼ぶ声に、刹那が顔を上げた。
視線の先には、予想通りルームウェアのような普段着を着た戦術予報士が立っている。
セイロン島での武力介入の後、東京にある隠れ家に戻ると居るはずの無い男が居た。
非戦闘員の戦術予報士、ロキターシュだ。

見事なまでに何も無い部屋で、ロキターシュはベッドの上に座っていた。
ロキターシュがやることの無い状況で寝ていないのは珍しい。
刹那が注意してみなければ分からないレベルで瞠目した。
が、ロキターシュの手元にある端末を見止めて納得する。

「おかえり。怪我は?」
「ない」

簡潔に答えて、ターバンを解く。
すぐにベッドに寝転がりたかったが、ロキターシュが居るため叶わなかった。
文句を言うでもなく、刹那がベッドの横に腰を下ろす。

「ほら、端末寄越せ。戦闘データ取るから」

催促するように伸ばされた手に、ポケットから引っ張り出した端末をのせる。
部屋の主が逆転しているようにも見えるが、二人の距離感はこれがいつもだ。

もとより少々俺様の気があるロキターシュは、基本的に誰に対しても憮然とした態度をとる。
十も歳の離れた二人ならばロキターシュが上に来るのは当然で、ロックオンとは違うが兄のように刹那に接していた。
俺様のようなのに、傲慢ではないロキターシュのやり方はさらりとしていて気持ちよく、誰も異を唱えない。
あのティエリアでさえも。

「……刹那、お前」
「なんだ」
「フラッグと戦ったのか?」
「あぁ」

作戦には入っていなかったが、突如現れたフラッグ一機と交戦した。
事実なので肯定する。すると、ゴン、と鈍い音がした。
刹那が振り向くと、壁に頭を打ち付けた状態で固まるロキターシュが居る。
いつも飄々としているが冷静沈着なロキターシュにしては珍しい行動に、刹那は驚く。
作戦はきちんと守ったし、大体今回の戦術はスメラギのものだ。
ロキターシュは口を出さないし、しかしそうなると彼の奇行の理由が分からない。

「どうかしたのか?」
「これ、改竄とかしてないよな。マジでこんなこと言ったのか?このフラッグ」

端末からかすかに漏れる音声は「君の存在に心奪われた男だッ!」といっていて。
それが終わるか終わらないかのうちにロキターシュは映像をストップさせた。
改竄なんて、セキュリティレベルの高いソレスタルビーイングの端末では刹那は手も足も出ない。
やるつもりはもちろん無いが、やろうと思っても出来ないことだ。

「あぁ、言った」
「だよなぁ」

溜息と共に魂まで出るのではないかというほど深い溜息をこぼし、ロキターシュは項垂れた。

「しっかり名乗ってるし。ったくこのバカめ」
「知り合いなのか?」
「守秘義務守秘義務。……まあいいか。刹那ってばこいつに気に入られたみたいだし、変態対策ってことで」

なにやらぶつぶつと呟いて、ロキターシュはガシガシと頭を掻いた。
唯でさえぼさぼさの髪が更に絡まる。









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