小説
冬の彼と暖房。下
俺は『思い立ったが行動』という言葉は、非常に恋人間においては大切だ、という考えを持っている。
藤原を愛しいと、そう感じた次には俺は立ち上がっていた。
「え、何?どうかしたの?宮脇?え、もしかして怒った?うそ、みかんがちょっとすっぱかっただけで?!」
一人でそう言って慌てる藤原。
「そんなわけあるかよ」
俺は言い終わった頃にはもう藤原の横に立っていて、俺を見上げながら、逃げようかどうしようか、と腰を上げそうで上げていない藤原の横にどかっ、と音がしそうな勢いで座る。
少し狭いが、いけるだろうとこたつに足を突っ込む。
すると自然、藤原と密着するかたちになる。
こたつの中で足首を使って、足を藤原の方に傾けて藤原の足にくっつけた。
そうして一人で満足した俺は、横に座る藤原を見た。
藤原はもうこっちを見ていなかったが、急に近くなった俺に戸惑っている事が雰囲気で分かる。
「藤原」
「何だよ」
答えるくせにこっちを見ない藤原を、愛しいと思う気持ちが俺を動かす。
前を向いたままの藤原の頭を撫でる。
その手をそのまま下に持って行き、藤原の頬をするりと撫でる。
「藤原」
名前を呼ぶと、藤原が観念したようにこっちを向く。
かわいいなぁ、愛しいなぁ、好きだなぁ、と思っても思い足りない気持ちが伝わるように、ゆっくりと藤原に顔を近付けて口付ける。
触れるだけの口付けを何度もする。
こたつの中の足が暖かい。
彼と密着している部分が暖かい。
彼に触れている唇が暖かい。
彼の頬に触れている手のひらが暖かい。
彼を思うと込み上げてくる愛しさで、心が暖かい。
お前、恥ずかしいんだよ、とベッドで俺に抱き締められたままの藤原が、ぼやくような、呟きのような訴えをしてきた。
「は?」
「うっさい。お前顔がおしゃべりすぎるんだよ」
「訳わかんねぇ。俺がどんな顔しようと、それこそみかんの白い筋ぐらい自由だろ」
「俺に影響が出る事に関しては自由にするなよ」
「訳わかんねぇー」
「だから、は、恥ずかしいんだよ。そうゆうさぁ、なんつーか。こう…俺を大好きです!みたいな顔」
「ばっか、お前に俺の気持ちが伝わるように、っていつも思って意識してんだから、そういう顔になるのは当たり前だろ」
俺がそう言うと、藤原は一度俺を睨むと、照れを隠すように俺の肩に額をぐりぐりと押し付けた。
俺も負けじと彼を抱き締める力を強めて、彼の首筋にぴたりと額を付けた。
「意識しすぎなんだよ」
藤原のその呟き声を聞きながら、俺は強く幸せを感じて、
「好きだ」
「…俺も好きだよ」
彼の返事に幸せになって、心から暖かくなる。
返事の代わりに、彼の首筋に軽く口付けて、俺は目を瞑った。
「おやすみ」
「おやすみ」
明日起きて一番初めに見る顔が、鏡の中の俺じゃなく、藤原の顔である事を願いながら。
俺はとろとろと頭から落ちてくるような睡魔に身を任せた。
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