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小説
  13



カラオケ店を予定より早めに切り上げて、俺とヨシは二人で良く行く駅前の居酒屋チェーン店に入った。
ヨシはどうやら俺とそんなに恋バナをしたいらしい。
女かよ。
俺の若かりし高校時代の女友達も、話す内容が大体誰が誰を好きだっつー話ばっかだったぜ。

「お前結構そういう話好きなのか?」

俺はビールを飲みながら、枝豆を出すのに失敗して机の上に豆を転がしていたヨシに疑問を飛ばす。

「好きっちゅーか、いんやまあ好きだけどさぁ、お前絶対モテんのにそーゆー話全然してこんから、ちょい今回のに俺的興味津々的な」

くそっ、と机上の豆を別の小皿に投げ入れながらヨシが答える。
勢いをつけすぎて投げられた豆は、そのまま皿をバウンドして、また机上に着地した。
俺がその様子が面白くて笑っていたら、睨まれた。
キンパに睨まれたって、ただの中身アホだと分かっているから怖いも何も無い。
ヨシは溜め息をついて、あぐらをかいていた足を片方だけ立てた体勢に変えた。
行儀悪い座り方だが、わざわざ注意指摘をするつもりもない。

「だってお前高校ん時とか、絶対モテてたろ」
「うーん照れるぜ」
「うざさ満点だな」
「ぶっちゃけ高校とかカッコつけたもん勝ちだったからな、バンド組んでますとか言やさ」
「まぁモテる?」
「モテるモテる。ねーバンドやってるって本当?とか言ってくる女の多さな」
「おい、俺言われてないっちゃ」
「キンパいかつめだったからだろ」
「俺高校の時はノットキンパでしたー」
「マジで?何色?」
「赤メッシュ最初やってたんよ、で後で真っ赤っかにしてみましたー。ナイステイスト」
「どこが」

ナイステイスト、と言うヨシのあまりにも最高なドヤ顔に、どこかだよアホか、と言おうとしていたが途中で笑ってしまった。

「それは話しかけちゃいけないヤツだわ」
「あん時は赤がかっけーって信じてたわけ」
「キンパの方が似合うぜ」
「サンキュー」

ヨシが口角を上げて、ちょっと頭の弱そうな笑顔を見せる。
実際弱いのだろうが、同じ大学に通い同じバンドを組み友人をやっている俺が言えないので、静かに口を閉じる。

「その一目惚れ相手ってそんなかわいいやつなのけ?」
「顔は普通だな。頭真っ黒。あれは絶対染めたこと無いな」
「えっ、モテモテマンの一目惚れ相手がそんな真面目っ子なのかよ、じょーだん」
「話してみたら中身は変なやつだった」
「なに、そーゆー系なん」
「どーゆー系だよ。いや、マジで変なやつ。あーでも明るいんだよ、絶対友達多い性格」
「ノリ良いって?」
「ばっちりだ。初ナンパとか俺の目の前で言っちゃうんだわ。しかもナンパだろ奢れよ、とか言ってきた」
「いや奢れよ」
「いや奢ったに決まってるだろ、なめんな。話途切れないし」
「良い子すぎるって?」
「家まで送るのは断られたけどな」
「それ危なくね?」
「だろ」

ヨシはへー、やらほほう、やら楽しそうに一人で頷いている。
こんな顔を高校の時の女友達でも見たことがある。

「お前ほんとに恋バナ好きなー」
「乙女モード炸裂のお、れ」

俺、の言い方の溜めが腹立たしいぜ。
腹立たしさ日本代表だぜ。
さすがだぜ。
さすが俺の友達だぜ。

「ヨシりんうぜーえ」
「次それ言ったらマジでぶっ飛ばしちゃるからな」
「こわ」

そう返しながら箸でししゃもを挟み持ち上げる。
ししゃもを口に入れると、苦味が広がった。

「なんかこのししゃも苦い」
「そ?」
「あ、そうだ。でな、俺のアパートって並んでるだろ?」
「あぁ隣にな。すごい近くに」
「そう、端通しでベランダ立ったら絶対に普通に話できる距離でさ」
「マンガみたいじゃん」
「その隅の部屋の人をこの前初めて見たんだよ」
「女だったらそこからラブロマンス」
「そいつがな、まぁ夜だから顔は見えなかったんだが俺の一目惚れ相手にすごい似てたんだよ」
「マンガかよすげくね?」

ラブコメ大好きなヨシがさっきより目を輝かせてこっちを見てくる。

「まぁそんな訳無いと思うけどな」
「まぁ…夢無いなお前」
「それが俺ですからー」



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[*退却!]

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