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小説
犬猿、兼、恋人 4



次の日の食堂で、事件は起きた。



昨日のぶりっこ君の強引すぎる宣言と今日の強引すぎる連行のお陰で、俺達は副会長がやばキモ副会長に進化した原因の転校生を見るのと、昼飯もついでに食べる為に食堂へ来ていた。
―――ふむ、見つからない。
暇だから隣に立つ雅人をちらりと見上げてみた。
あくびを噛み殺してた。
その顔を見て朝の事を思い返す。




起きて着替えて髪をセットして、今日の俺も輝いてる事を確認してからドアを開けた。
そこにはさっき届いたメール通りに部屋の前まで迎えに来たらしい雅人が立っていて、一緒に俺の部屋で食べて、そのまま二人で教室まで行った。

一緒に歩いてて、妙に肩がぶつかるなぁなんて思うほど俺は純情じゃないんだぜ、勿論雅人がわざと距離を詰めて隣を歩いていることくらい朝飯前に、朝飯もう食ってきたけど、分かっていたさ!
ただ分かっていたからと言って、顔が熱くなって動悸息切れの症状が抑えられる事は、決してイコールでは無いのだ。




雅人とはクラスが別だから教室前で別れた。
別れ際にじゃあまた後で、と振られた雅人の手が落ちていく途中で、ついで、と言うには少し気持ちが込められたような触り方で俺の頭を撫でていった。
あー…付き合ってんだなって本日二回目の実感。
一回目は部屋の前で雅人が立っていて、俺と目が合うと笑っておはようと言ってきた時。

ざわつく教室に入るとクラスメイトから、俺の輝かしい美貌を褒め称えてる視線を浴びせられた。
挨拶してくれる子達に挨拶を返しながら席へ向かう。
スマイリー俺が発揮されるべき時とはいつなのか?
今でしょ!!
いやぁイケメンで困っちゃーう、竜介注目浴びるの苦手なんだよねー、嘘だけど。
もっとみんな俺を見て良いんだぜー!

そんな良い気分で席に着いた俺に、丁度同じタイミングで教室に入ってきたぶりっこ君が「おはよう竜介ー」と言ってきたから、俺は爽やかに返事をした。
そんな俺の爽やかな気分を壊してきたのは、俺の座った席からむかって斜め左前に座っているやつの、朝っから聞かせんじゃねーよボイス。

「よう、クソ会計。今日は書記と仲良しこよしで登校かぁ?」
「ハッ!やだっ何か今会長の声が……あ、ごめん…そうだよな、会長はもう居ないんだもんな…ハハッ、おかしいな俺ってば…居ないはずの人間の声が聞こえるだなんて……」
「俺に話振らないでよ、竜介のばか。会長もおはよう」
「そうかそうか、お前はそんなに俺に殺されてぇのか…よぉーっく分かったぜ」
「会長ったら、俺が自分から好んで殺されたいやつに見えてたんすか?その目、問題アリすね!」

問題だらけのその眼球、折角だから抉ってやろうか!
ぶりっこ君は朝っぱらから怒れる会長に挨拶をすると、返事も聞かずに自分の席へ行った。
ぶりっこ君の席は窓際の一番前。
座った途端に近くのクラスメイト達がぶりっこ君を囲み、俺からは姿が見えなくなった。

「分かった言い換えよう、マジで殺してやろうか、クソ会計」
「てーへんだ!我らが学園の会長様がつまらない殺人を犯してしまう!早く止めなきゃ!そいやっ!」
「っ!?」

クソクソと俺をうんこ呼ばわりするこの目のおかしい会長へ、掛け声と共にささやかな俺からのうんこアタック、訂正しよううんこハグアタック!

椅子から立ち上がって、左斜め前の席で足を組んで座っている会長に、真っ正面から何の手加減も無しにタックル張りの勢いで抱き付く。
俺の左横の、会長の顔がある場所から会長の驚き混じりの息が詰まった音が聞こえた。
ケッ、ざまーみろ!
うんこアタックの衝撃で、組まれていた会長の足が解かれていたから、中腰のまま抱き付いていたキツい体勢から俺はその足へ座った。

これはダメージがでけーだろーな、多分一発必勝アタックだな。
何せこの座り方はバカップルの定番お膝乗せいちゃいちゃ座り、またの名を対面座位!
きゃー竜介さんのエッチー!

「……………」
「いやー殺人を止めるだなんて、今日も俺は良い仕事をしたぜぇー」

証拠に会長は一切動かない。
フッ…、今日の勝負も俺の勝ちだな…。
今の俺の勇姿を見守り、今もなお熱い視線を送り続けるクラスメイト達に「ね、さすが俺だよねー」と同意を求めたら、何でか皆妙に赤い顔をしつつも頷いてくれた。
ていうか……くぅぅさぶいぼ立つぅぅ!
この体勢俺の心臓止めに来てる…!
触れ合ってるとこがこの俺様会長の体温を通してきて、じんわり暖かい。
うあうあう、不快指数計測できません!!

もう無理、と黙ったままの会長から離れて席へ戻る。
丁度座ったところでチャイムが鳴って、回りで俺らを見てたクラスメイト達も自分の席へ慌ただしく戻ってった。


この勝利の代償はでけーぜ…お互いに大ダメージ…!

その後は昼休憩まで何事もなく過ごした。
昼休憩を告げるチャイムが鳴って、ぶりっこ君が俺と会長と雅人と副会長を捕まえ、転校生を見に食堂に引っ張って行くまで、何事もなく過ごした。




「竜介」
「あー、朝ぶりだねまさちー」
引っ張られるままに合流した雅人の姿を見て少し緊張した。
スマイリー竜介はいつでもパーフェクトなはずだけどどうだったろうか。

朝は俺低血圧で基本頭回んないから、なんも意識しなくてだいじょぶだったけど、これからのお昼は普通の状態で、何だかんだ昨日の今日で上手く話せなかったらどうしようかしら、なんて思って

「ねーねー副会長、その愛する転校生はどこ?」
「少し待ってください、今探していますから」
「あッ!!!秀哉!秀哉じゃん!!」

……いた俺の思考をぶち止めるほどの強烈インパクトな見た目の生徒が、まさかの副会長のファーストなネームを呼び捨てて、まさかの手をぶんぶん振り回して満面の笑みをこちらへ向けていた。

「光!」
「キャァァァ出たぁぁぁ!!何アレ何アレ何アレやだ面白い!ギャグセンたっかい見た目のアレは誰!見習いたくなるギャグセン!!なんつったっけ、え?何、ひかり?ヒカリ回線?」
「ぶふっ!」
「竜介、落ち着いて…」
「えっ……副会長本気?あれが副会長の愛する転校生?!」

光りすぎて眩しすぎるギャグセンの化身な見た目に正気を保つテンション振り切れた俺の横で、ぶりっこ君が珍しく声を荒げていた。
お前のぶりっこの皮もあのギャグセンの前では役立たず、か。
あと地味に俺の前に立ってる会長が吹き出しててちょっと面白かった。

「バカか雅人!これが落ち着いていられるか!」
「お前がバカだろ、バ会計。良いから落ち着け」
「ぁいった!ひどいわっぶつなんて…アタシはあんたなんかに触られて良い女じゃないんだからねっ」
「キモい、黙れ」

俺は雅人に言い返したのに何故会長が俺を叩いてくるのか…暴力はんたーい、くたばれ会長野郎!
あと隣に立つんじゃねえ、もれなくさぶいぼも立っちまうだろうが。
なるべく会長を避けるために雅人の方へ体を傾ける。
思いの外傍に立っていた雅人に当たってしまい、思わず離れそうになった。
不自然だからやめたけど、逆に近いままのこの状況に俺ちょい焦り。
思ってたら雅人が、会長に叩かれた俺の頭を撫でてきてときめいてしまった。
そんな俺達を、いや頭を撫でている雅人を見て会長が少し驚いた目をしていた。
見んな、減るだろ。

「副会長頭狂ったんじゃないの?!」
「なっ何だよお前!秀哉に失礼なこと言うなよ!!」

少し大きめなぶりっこ君の声に、副会長とぶりっこ君を見ると、いつの間にやら俺達の立っている食堂の入り口まで来ていたヒカリギャグが、副会長を庇うようにぶりっこ君と副会長との間に立っていた。

―――うーん、カオス。

「副会長、ほんとにこんなのが良いの?さすがに俺も引いちゃうよ…?」
「こ、こんなのってお前!人を見た目で判断するなんて間違ってるんだからな!」
「光…!そうですよ、藤谷。光はまっすぐで本当に良い子なんですから!」
「見た目で判断するなって?だからって見た目を整えないのは、それこそ間違ってるでしょ?君」
「俺は君じゃない!光って名前があるんだ!」
「えー…副会長の趣味を疑うね…」
「秀哉に謝れよ!ヒドい事言うなよ!謝ったら許してやる!」
「許してやる、とかお前、とか光くん君すごい上から目線じゃん。失礼なのはどっち?」
「光にそれ以上言うなら許しませんよ、藤谷」

―――何この茶番、カオス&シュール。

さっきまでのときめきもどこへやら、俺らの前で繰り広げられる噛み合わない会話と、ヒカリギャグの大声とで食堂の注目独り占めな三人に世界は嫉妬。
とか考えてる場合じゃないな。
藤谷が苛立ってる。
藤谷のファンが黙ってられないぜ、こいつぁてーへんだ!

「おい、お前。本当にこいつのお気に入りなのか?」

あ、会長が茶番にゲスト出演始めた。

「なっ何だお前!俺は光だ!お気に入りとかよく分かんないけど、俺は秀哉の友達だぞ!」
「俺にはまったくただのうるせえのに見えるけどな…」
「会長。光にあまり近付かないで下さい。大体光の魅力、良さを知るのは僕だけで充分です」
「副会長の言ってる事に俺鳥肌立っちゃいそう…」
「うるせえのとか、いきなり何だよお前!!」
「はぁ?……この俺に向かってお前?ふん、良い度胸してんなお前」

おーーっと、ここで何様俺様会長様が発揮された!
それだけではないぞ、ニヤリ笑いも飛び出してきたぁぁ!
食堂がにわかにざわつき、うるさくなってきた!
それから流しそうになるところ、だがしかしばっと、ぶりっこ君が鳥肌とかちょっとウケるわポインツ!

俺は自分の前で起きている同じ役員達の茶番に、心中興奮しながらツッコミ実況をしていた。
副会長がまたぶりっこ君の鳥肌をスタンドアップさせ…いや、これはもうスタンディングオベーションだな。
それを見てて、ふと隣の雅人が気になった。
さっきから何も話さない。
お口ミッフィーちゃんしてる。

「雅人?どったの?」

雅人に声をかけつつ、俺より高い位置にあるその顔を覗き上げると、雅人は会長達に向けていた顔を俺に向けて、口を開いた。

「竜介。教室行こう」
「おっ………!」

おっけぃ、と言おうとした俺の手をとると、雅人はまだ言い合ってる会長達を一目も見ずに、俺を引っ張って食堂から抜け出した。









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秀哉(しゅうや) 血迷った副会長。
光(ひかり) 転校生。


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