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小説
犬猿、兼、恋人 3



そうしてしばらく経ってから、生徒会室に戻ってきた副会長は、妙にご機嫌で、通常時はちょいキモなのがやばいぐらいキモい、略してやばキモになっていた。
元からキモいのにそんなにキモくなっちゃって、竜介ママは心配でたまらないけど今日も美味しく夜ご飯のパスタが食べられそうだわ。
ちなみにペペロンチーノが一番好き。
無駄にニコニコ振り撒いてる君の笑顔の理由を、知りたくないけど聞いて欲しげな顔をしているから聞いてあげる俺の優しさ、プライスレス。

いわく、転校生好きになっちった、人生も見える景色も素敵なバラ色さ、てへぺろ。

なーんてことらしい。
そしたらそんな話を嬉々として、俺から見たらニヤニヤニヤニヤニヤァ…な感じで話してた副会長を見て、ぶりっこ君がその転校生を見てみたいなぁ行こうよみんな!用意して!ってノリになって、明日見に行くことになってもーた。

予想外です、オーマイガッ!

ひっじょーにめんどいぞ…大体見に行く場所が食堂とか、あんなうるさいところ嫌なんだよ。
みんなしてわいわいきゃあきゃあ、うるさいってーのまじで。
お前らは一体何にそんな盛り上がっとるねん、みたいな。

まぁいーや。

そう思ってやばキモ副会長とぶりっこ君を視界から外すと、ふと何だか見られてる気がした。
そっちを見てみると、隣に座る雅人がこっち、つまり俺っちを見てた。
そりゃもーこの俺が照れちゃうくらいじーっとね。

「なぁーにまさやん。そんなに見つめられたら俺溶けちゃうよ。そんな事になったら世の中への影響マイナスばっかよー、俺を思って泣く子が増えるだけだぜベイビー」

まーた何か変なこと言ってるぞこいつ、的な視線をぶりっこ君に送られつつ、雅人ににっこり微笑む。
うっかりしたらさっきの事を思い出してまた赤くなってしまいそうだから、意識して笑顔を作る。
目指せ、俺的パーフェクツスマイル!
スマイリー俺!
スマイリー竜介!
笑顔のあなたは美しい、俺!

「竜介溶けたら………、俺もそんな事になったら泣く」

雅人はそんなことを言って一人で頷いている。

俺はまさかの発言にびっくりドンキーが現在進行形になってしまって、きっと見事なアホ面を晒してしまった事だろう、ちょーはずかちー!
あっ、俺を見て会長が鼻で笑いやがった。
鼻と口ガムテで塞いでやろうか。

「竜介、帰ろう。今日もう終わり」
「え?あぁ、うん。おっけぃ」

隣で立ち上がる雅人に、俺は慌てて帰り支度をする。
つってもカバン持ってちょい机整理するだけだけどね。
ふっふっふっ、一般ぴーぽーな生徒には見せられない秘密の書類達が俺の机にはあるのだ。


俺を待っててくれた雅人の背中を「行こうぜー」の合図代わりで軽く叩く。
二人で扉にまで歩いて、少し開いてから後ろを振り返り、会長と副会長、ぶりっこ君に聞こえるように「おつかれっしたーぁ」と声をかけ、返事は聞かずに部屋を出ようとしたところで「おーお疲れクソ会計、とっとと帰れ」という声が聞こえて、とってもイラッと来たところで雅人に肩を掴まれた。
いつもならまたここで扉を開けっぱのまま俺が会長に言い返して、とても不本意な五分程度の言い合いが始まる。
まったく、とんだ時間ドロボーと俺は言いたいぜ。
でも肩を掴む雅人の手に従って、会長をスルーして素直に部屋を出た。

だから、部屋に残された会長がちょっと物足りなさげな顔をしていた、なんて事は次の日にぶりっこ君に聞くまで知る訳無かった。
知ったら知ったでまぁ、会長ってMだったんだ、俺にあえていじられたいだなんて、とどんどん引き引きしたのは普通の反応だよね!





帰り道っつかお互いの寮の部屋までの間なんだけど、雅人とちょっとした事を話しながら歩いた。
ふと、会話が途切れる。
うぬぅ、最近この俺の話術を以てしても、こんな風に唐突に雅人との間に沈黙が訪れる。
お呼びじゃねーっつの。
しかもさっきの生徒会室での俺赤面事件の事もあって、俺的ちょい気まずい今現在の沈黙タイム。

うーん、なんて思ってたら俺の部屋の前に着いた。
やべー考えるのに必死で全然雅人の顔見てなかった。
黙ってる間どんな顔してたんだろ。
雅人の部屋は俺の部屋から二つ奥だから、いつもはここで別れる。
なのに、何でか雅人は動かない。

「まさやん?どったのー?」
「俺、話あるから、部屋入っても…」
「え?今ちょー汚い汚部屋だけど、それでも構わないってーなら良ーけど」

ひびった。
こんなん初めてだったから。

思えば俺って人の部屋には超迷惑っつーぐらい行くのに、自分の部屋に入れたことってすっげ少ない気がするなぁ。
そう思いながら部屋の鍵とドアを開けて、雅人を中に招く。

「まーてきとに座ってちょ。俺なんか…」
「あのさ」

俺がすすめたソファに座った雅人は、お茶でも、と思った俺の手を掴んで横に座らせた。
何やねん、と思って覗き込んだ雅人のその顔がめちゃくちゃ真剣だったから、俺も黙って座った。

雅人は何か言いたくて俺を呼び止めた訳だから、俺は雅人が何かを言うまで大人しくしてよう。



「あのさ……俺、竜介が好き」
「ほほぅ、それは嬉しい発言だぜ。思わず照れちゃうくらいな」
「それが、恋愛感情だったら、…………どうする?」

―――ね、竜介。



そう言われて、驚きすぎた俺の脳内はショート寸前で、少し顔を赤くした雅人が肩に触れてきたとき、俺はあからさまにびくりと体を揺らしてしまった。
はっず。

「え…?なん、何で…?」
「何でって……一緒に生徒会やってきて…段々、好き、に………」

なった、そう言う雅人の顔はさっきより赤くて、それに釣られるように俺も自分の顔が熱くなってくのを感じて、恥ずかしいやら焦りやら、それに何より雅人からの言葉からのいろんな感情が混ざった衝撃がすごくて、アッなんか涙出てきたぞ。

「返事……別に、今すぐじゃなくて…良い」
「…っい」

あ、やべ上手く声出んかった。
余計恥ずかしいわ、顔あっつ!

「え?」
「は、はい…」

ギャァァ、今度は声震えたー!
マジハズい竜介こんなん堪えられへん!!
不安からか思わず自分の手のすぐ傍にあった柔らかな感触の何かを掴む。

涙で滲む視界と、バクバクとうるせー心臓と、まとまらない思考ばっかりを繰り返す、使えない俺の頭のせいで自分の手が一体何を掴んだのか分からなかった。
あっしまったこれ雅人のシャツじゃん、どーすんの俺、と思ったと同時に雅人の息を飲む声が聞こえて、

「っ……竜介!」
「はっ!?」
「好きだ…!」

そう言った雅人に抱き締められた。

ぐっと寄せられてくっついた雅人の胸から俺の胸を伝ってこいつの心臓の音をダイレクトに感じて、あー雅人もイカれた心臓持ってやがんぜ、ドキドキ乙女かそうだったのかー、そう思ってちょっと落ち着いた。
それでも相変わらず俺の心臓もうるせーままだけど、イカれたままだけど。


俺ってば、好きって言われるとすぐにその相手を意識してしまうタイプの人間で、告られてその時好きじゃなくてもその内好きになるかなー、なんて思ってOKしちゃうタイプの人間で…アレ?何か俺ってば最低なやつみたい。


ぶっちゃけ、今俺雅人にめっちゃときめいてるけどだからと言って雅人が好きかと聞かれると、ちょい困る。

でも何だかさっきの赤くて真剣な雅人の顔が頭に残ってて、今までで最大の心臓のバクバクとで、何だか雅人の事を好きになれる気がしちゃって。




あくまで今までの経験とそれから直感と、だけど。



見慣れている、見慣れていたハズのいつも無表情の雅人の顔、なのにさっきの表情が忘れられなくて、少しの動揺を誤魔化したい俺は抱き締めてくる雅人の肩におでこを擦り付けておいた。

「竜介?」
「今すぐ返事要らねーとかそんなかっこよさげで実はヘタレてるとか、俺許さねーから」
「へたれ……」
「まぁ、だから、つまりそのぅ…なんだ…えーと、あー…うー…、………俺を惚れさせてみろよ!」
「……俺と付き合う、と」
「!……まだ、……うん。よろしく、っす……」


まだ好きって訳じゃないけど。


それを言ったら失礼すぎるからやめた。


うっ、雅人の腕の力が強くなった。
うっ、何だか雅人の嬉しそうな声が聞こえる。
一緒に夜ご飯食べようだと?
べっ別に良いけどっ?とか言っちゃって俺ってばどこのツンデレ…。



恋人同士になって初めて一緒に食べたパスタは、その名の通りペペロンチーノが強すぎて俺激むせした記憶を残してくれました。


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あきゅろす。
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