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小説
スコール 下



そう俺に聞いてきた佐々木は、俺と目を合わせる事が難しいようで、俺以外のあちらこちらに視線をさ迷わせている。

「な、なぁ遊佐…何か言えよ…」
「…………」

さっきまで泣いて、そして笑って、そして今、すっかり困ったように眉を下げている。
そんな佐々木を俺は黙って見つめたままでいる。

―――あぁ、俺性格悪かったんだなぁ。
黙ったまま、佐々木の困り顔を見つめている俺って、実は性格が悪かったみたいだ。

「な、なんかお前俺が好きみたいな感じになっとるで!なんてこった!」

とにかくこの雰囲気をどうにかしたいらしい佐々木が、見事に気付かない内に墓穴を掘った。
そう言えばネタとして、冗談として笑い飛ばせると考えたんだろうが、逆効果だ。

だって、それこそ正しく正解で。

「なぁ遊佐?」
「んー……」
「なぁマジで何なの?」
「お前さっき応援してくれるって言ったな?」
「言ったけど…なに?だって俺の方がよく知ってるやつなんだろ?そいつ」
「あぁ、そうだな。お前の方がよっぽどよく知ってるやつだな」

言いながら俺は佐々木の赤い目元を見やった。
佐々木は俺が答えた事で安心したのか、少し口元が上がっていた。
釣られたように俺も自分の口元が上がるのを感じて、そして、佐々木にまた手を伸ばした。
何だか佐々木はまだ俺が好きになりそうな女の事を考えているようだった。

「なぁそれって誰…」

再び口を開いた佐々木は、再び口を閉じた。
俺が佐々木の顔を包むように手を置いたから。
それから俺は佐々木に顔を近付けて、目を反らされないように、声をかけた。

「俺の好きなやつ教えてやるよ。応援、してくれるって言うから、さ」
「それは…良いけど、この手なに?なんかマジでお前ホモいよ」
「そうかもな。俺、お前のこと好きみたいだ」

って言ったらどうする?

そう続けようとしていた俺の言葉は、続けることが出来なかった。

佐々木の表情がみるみる変わっていったから。

みるみる、赤く…耳まで赤くなっていったから。


―――え、何これ何だこれ。
え、とかう、とか言葉にならないように声を押し出している佐々木に、俺は心臓が一回大きく跳ねたのを感じた。

―――これじゃあ、まるで…、

「お前…俺のこと好き、とか?」
「ッ!!!っば、ばーか!んな訳あるかよ!俺はさっきまで女にフラれて泣いてた男の中の男だぞ」
「いやでもお前、顔真っ赤」

うるさい、さっきまで泣いてたせいだ、とキツすぎる言い訳をする佐々木に、俺の胸がまた女子化しやがった。

「へぇ…」

―――これは、予想外だ。
これからじっくりと落とそうと思っていたが、どうやらその必要がないようだ。

「なんっだよ、お前もう離せよ…俺、実家に帰らせていただきます…」
「帰るってお前、ここお前の家だろ」
「じゃあお前もう帰れ…」

そう言って、俺の手の中の佐々木の頭は下を向いてしまった。


そこで、俺は考えてみる。
先程から今にかけてのこいつの赤面と、今まで何度も出来ては別れたこいつの彼女たち。

それらから思い当たる答えは?


こいつは、俺が、好き。


まぁ本人は否定していたけれど。

「お前って俺のこと好きだったのか」
「だから、違うってば…」
「だってお前真っ赤じゃん、顔」
「うるせぇ……」

何だろうか、これは胸キュンじゃなくて…こう…佐々木が可愛いという…何か…。

「つーか告って来たのって遊佐じゃんかぁ…」
「まぁそうだな」

そしたら面白いくらいに俺が嬉しい方向に転がってくれたわけだけど、と心の中で付け足し。

「お前って今まで女と長続きしなかったよな」
「みんな俺の魅力に気付けなかったんだよ、かわいそうに」
「その度に俺のところ来たよな」
「慰めてくれるからだよ、純粋に」
「ふぅん」

言い訳ばかり並べ立てる佐々木に、俺は何だか楽しくなってきて、あぁやっぱり俺は実は性格が悪かったみたいだ、とまた思った。

手に力を入れて佐々木の顔を上向けさせる。
驚く佐々木の額に、俺はわざと音を立ててキスをした。
唇に触れた佐々木の前髪の感触に、何か体の奥がざわついた感覚を味わった。

佐々木は頭から蒸気でも出したいのかと言うぐらい顔を赤くしていて、いや首まで真っ赤だ。
―――逆にすげえな、こいつ。

「遊佐、お前…お前何して」
「何って…キスだけど」
「キ」
「キス」

したのはでこだけどな。

「な、佐々木」
「何だよ…」
「俺たち付き合おうか。俺もお前も好き合ってることだし」
「やっ、俺はこれからも女の子と付き合うんだし!女の子のふわふわボディらぶいし!」
「うわ、お前もう俺という彼氏がいながら浮気発言かよ」
「何言っちゃってるのか理解不能だぜ、ミスター遊佐」

俺は調子を取り戻して来たらしい佐々木に少しイラついたから、今度はでこじゃなくて、やつの唇にキスを仕掛けてやった。
佐々木は目を見開いて、口をパクパクと魚みたいに動かしては、下を向いた。

「お前が俺を好きだったのは気付かなかったぜ。でもまぁ結果オーライだな。両想いってやつだろ?これ」
「………………俺、男だよ」
「は?」
「俺!男だよ!ばかじゃん!このホモ!」
「佐々木、さっきからホモホモうるせえな」

まだ言い返そうとしている佐々木の頭を、俺は黙らせるようにして胸に抱き込んだ。

佐々木は硬直して、俺を押し返して、手を俺との体の合間に差し込んで離れようとして、諦めたように大人しくなって、それから俺の背中に手を回してきた。

「…………なぁ、本気?」
「本気も本気、だって俺」

―――お前にキスできるんだぞ?


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[*退却!][進行#]

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