小説 犬猿、兼、恋人 2 「竜介、何で会長怒らす?」 「え?嫌いだからに決まってるじゃん?悪しからず」 「悪しからず…」 俺の癒し、書記の雅人が納得のいってない顔で俺を見てくる。 座った状態で俺はそんな顔をする雅人に、キャスター付きの椅子を転がして、近付いた。 「そーだよ、悪しからずだよ悪しからずー」 「まぁ…いいけど」 言いつつ雅人は俺の頭に手を乗せてきた。 いつもの事なので放っておくと、頭から頬に手が滑ってきて、ちょっとビビった。 いつもは頭を撫でるだけで終わるのに、どうしたことだ。 同じ男に頬を撫でられている、という現状に、俺は思わず、ここが生徒会室で役員も近くに居て、という考えよりも先に照れてしまった。 普通なら気持ち悪がるか、冗談と笑い飛ばすところだが、俺は照れた。 理由は至極簡単、単純明快、俺がゲイだから。 この学校は男子校だから、少なからずお仲間は居る。 てかめっちゃ居る。 全然少なくない。 だから俺も自分の性癖を受け入れている。 だからこそ、今のこの雅人に頬を撫でられている現状に、非常に照れ、困っている。 雅人は話し方がちょっとアレな感じだけど、俺と同じ生徒会役員である。 だからそれはつまり雅人もイケメンなのである。 学校をざわつかせられるぐらいのイケメン。 輝く俺の美貌に並び立つイケメン。 キャー抱いてーレベルのイケメン。 どうしよう、参った…今すっごく恥ずかしいぞ……。 「な、ななな何だね雅人くんっ?」 「ふ………んー、かわい」 可愛いって言われたーやったぁー、俺ってばイケメンだからカッコいいって言われるのは慣れてるけど、可愛いはさすがに今初めて言われたー。 雅人に俺の初めて、奪われちゃったてへぺろ。 「はっ?なになになになに、マジでなんなの?!俺可愛いっけ?アレッ、俺ってカッコいいんじゃないっけ?」 「ちょっと、竜介うるさいよ!竜介がカッコいいのは知ってるよもう。てゆっか雅人何してるの?」 「んー…竜介、口説いてる」 「へ?」 「はぁ?まぁ好きにしたら良いけど…竜介はもうちょっと静かにしてよね」 何だか褒められたな、と思ったら衝撃発言が俺を襲って、俺はもう何が何だか分からんちー。 てか、てかてかテッカテカの一年生レベルにストップをかけて、質問だけど、口説くって一体何なんすか! 雅人ってば俺のことを口説いてた系なんかーい。 「やっだ、まさちんってばその冗談笑えないわよ。さすが俺の初めてを奪った男…侮りがたし!」 「え?初めて?」 「イエスエス。俺の初めての可愛い発言を奪ったのはあなたです!」 よしよし、何とか普段のペース取り戻してきたぞ俺! やっぱりやれば出来る子だったんだよな、これが噂の眠れる獅子ってやつだぜ、学校内全生徒のみなさーん! このままこのまま、アッ雅人がなんか嬉しそうな顔してるとかうわやべ、また俺の鼓動が暴れちまうぜ! とか思っていたら、今世紀我が人生で最大級のメガトン級に聞きたくない声がひとつ。 マジ黙ればいーのにボイスがひとつ。 黙れないならこの俺が手伝ってあげましょうかボイス的な、喉仏を潰してあげる俺の右手の全ての指が火を吹くぜ的な。 「あーうるっせーな、そこの会計!」 「はーん?会長マジ何言っちゃってんすか、何喋っちゃってんすか、俺許可してねっすよ」 「うるせえし許可とか要るか、ボケ。つーかてめーが黙れ」 ちくしょうその口縫い付けたろか! 「大体、そこの会計とか言って、ここの俺以外のどこに会計が居るんでーすーかー?アッもしかして脳内?脳内に居るんですか?会長のそのハイスペックかつ、俺様標準装備のその脳内に居るんですか?うーわぉ、さすがの俺も驚き豆の木ジャックの木」 「お前本当にうぜーな……」 ぶひゃひゃ怒ってるよダッセー、ウザくてけっこー、てーか目標だからねそれ。 会長の日常にほんの少しの、ちょっとした人生のスパイスとして、ウザさをトッピングプレゼントしてあげてるんだからね! べっ別に会長のためなんかじゃないんだからねッ! ハイ、ここで俺のフェイス赤面になる、そしてカットー!みたいな。 うわ、会長が俺のこと睨んできたよこっわ。 目付きがいっちょ前にヤンキーやで! 「はぁ、あー、まぁ…もういいわ……」 会長の試合放棄により俺勝利イエーイ。 会長がイラつきを払うためか、頭を数回振る。 よしいいぞ、そのまま脳みそ飛び出せ。 今の会長との会話の間に、雅人の手は俺から外れ、雅人の目は会長を捉えていた。 ハートキャッチならぬ、アイキャッチ? うーん、笑えないぜ。 てかさっきはマジで照れたわー。 俺結構赤面症気味だからやめてほしいわ。 全く冗談はよしこちゃんすぎるわ。 「なんか今日これから転校生来るらしいから、誰か案内を頼む。理事長直々なんだわ」 「はぁ…、この時期にですか…」 「と、ゆー訳で案内役はたった今副会長に決定しましたー、はい皆さん拍手ー」 俺がそう言うと、すかさずぶりっこ君と雅人が拍手をした。 や、どんだけ案内役したくねーんだよって言うね、ちょっと笑えるわ。 んで、これ知ったら、まだ顔も知らない転校生涙目だわ。 「ちょっと何で僕が、何で僕なんですか!」とか言ってる副会長を総ムシしてると、諦めたくさい副会長はそのまま部屋を出ていった。 何だかんだ、素直に案内しにいく副会長の背中を、俺はただ見つめていた………扉開けて出るまでの三秒くらいだけど。 ********************** 雅人(まさと) 書記。 . [*退却!][進行#] [戻る] |